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「ねぇ、天馬? 私の方こそ、あなたに遊ばれてると思ってたのに。私が、あなたを振り回してるだなんて…」
怪訝そうな表情を崩さないまま、
「……そんなわけ、ないでしょ」
天馬がぽつっと口にする。
「遊んでなんていないから、僕はいつだって、目の前の君に本気だから」
そんな甘いセリフを耳元で囁きかけると、不意討ちでそのまま首筋にちゅっと唇で触れた。
「……天馬…っ」
つけているコロンの仄かに甘ったるい匂いが真近に香り、鼻先をくすぐる。
「天馬…好き……」
顔を赤らめて言う私を見つめ、
「僕も、好きだよ…」
今にも唇が触れ合う程の距離で、そう口にする──。
彼の両腕が背中に回されて、痛いくらいに身体が抱きしめられる。
「……もっと、キスしてあげる」
濡れた舌先で唇がなぞられて、さらに甘く口づけられる。
「ん…天馬」
彼に応えようと、私からもその背中におずおずと手を伸ばそうとすると、急にふいっと腕が解かれた。
「僕を楽しませてくれた、お礼ね」
体を離すと、天馬が唇の両端を引き上げて、ふわりと柔らかな笑みを浮かべた。
私の付けていたグロスで、ほんのりと薄紅色に染まった艶っぽい彼の唇を、ぼんやりと見ながら、
(ほら…ね)と、感じる……。
優しい天使の顔といたずらな小悪魔の顔を変わる代わるに見せる彼には、到底太刀打ちなんてできない。
さっきまでのやり取りだって、どこまでが真実で、どこからが偽りだったのかさえもわからなかった。
だけど、それでいいのと感じた……。
たとえ、彼の本心の在り処がわかったところで、
それは、夢から醒めるようなものなのかもしれないから……。
ここは夢の世界で、彼は私を夢の中へいざなってくれる天使のようで……。
そう考えると、こうして天馬の隣にいられるこのひとときが、私にはとても幸せに感じられた──。
END
次は、三日月のエスコート