ピピピッ‥ピピピッ‥
「ん?う〜ん‥もう朝〜?」
私は一つあくびをし、目覚ましを止める。ふと、時刻を見ると7時30分を指していた。
「あっ遅刻する」
すると、ふと壁際に飾られた姿見に目が移った。私の頭上には 60年 と映されている。
これは私の寿命。そう、私は人の寿命が見えるのだ。
でも、見えるのは人間だけで動物や植物はちっとも見えない。もちろん、物もね。
私は今、高1。いわゆる16歳だ。それで残りの60を足すと76歳も生きれる。
ま、平均年齢くらいだね。
そこで私が遅刻寸前なことに気づき、適当に支度をし家を出た。
〇✕駅の構内に到着した。すると私と少し離れたくらいの位置にいるベビーカーに
乗っているまだ1歳くらいの子供に目が移った。頭上には 10日 と映っている。
可哀想に。まだ小さいのに‥。
でも、私は寿命が見えるだけでその人の死ぬ運命を変えることもできないし、死に方も見えないから
警告することもできない。たとえ警告できたとしても信じてもらえないだろう。
むしろ、不審がられるかもしれない。だから私はただ可哀想と思うことしかできないのだ。
見た感じ、元気そうだから交通事故とか?病気ではなさそうだけど。
せめて残りの10日間、悔いなく過ごしてほしいと思う。
するとベビーカーを押しているお母さんらしき人がじっとこちらを見つめていた。
そこでようやく子供をずっと見つめていたことに気がついた。
おまけに私は目つきが悪いので睨んでるようにも見えたんだと思う。
私は目をそらし、ちょうど電車が来たので乗車口へと急いだ。
1年A組の教室に入り授業の準備をする。
カバンに入ってる教科書やらを適当に引き出しの中に詰めた。
‥今日も女子達が騒がしいな。
なぜこんなに女子達が騒がしのかと言うと昨日、イケメンの男の子が転校してきたのだ。
そのせいで朝からこんなに騒がしいわけ。
…..たかがそのことぐらいで。
「ねぇ羽津さんって気持ち悪いよね。寿命が見えるってそれこそ死神じゃん」
「それな。近づいてほしくないよね」
….コソコソコソコソ人の悪口ばっか。
自分だって、好きで手に入れたわけじゃないのに…。
これだから、人間はイヤなんだ。
自分のことは棚に上げて人の悪口しか言わない。そんな人は大ッキライ。
もちろん、そうじゃない優しい人も居るんだろうけれど、私の周りの人は全員一緒。
はぁ、もう悲しい通り超えて呆れてくる。
まぁいいや。あいつらで悩んでるのは時間のムダ。無視すればなんとも思わない。
…..と、思ってたけどやっぱり耳に入ってしまう。
キーンコーンカーンコーン
予鈴がなった。そろそろ席につかなきゃ。
次の授業は数学か。教科書だしとこ。
そう思って引き出しを探るけれど数学の教科書がどこにもなかった。
おかしいな。数学の教科書は置いて帰ったから家に忘れたとかではなさそうだけど‥。
……落ち着け。焦ればますます見つからなくなる。
こういうときこそ冷静に‥。
「ねぇ羽津さーんw探してるのってもしかしてこれ〜??」
近くにいたクラスメイト、茉莉アヤさんがクスクス笑いながら数学の教科書を見せてきた。
名前の欄には私の名前が書いておりあれは間違いなく私が探していた数学の教科書だった。
「それって私の‥。ねぇ返してよ」
私が少し睨みながら言う。もう嫌な予感しかしない。
「あんたの教科書なんてズタボロにしてやるわww」
アヤさんがそう言ったかと思うと近くにあったハサミで私の教科書のページを次々と切り裂いてしまった。
「っっ!」
「はいwこれ返すわww」
アヤさんはボロボロになった教科書を私に放り投げ上機嫌で席に戻っていった。
….やっぱり。
もうこういう嫌がらせに慣れたつもりだったけれど、やっぱり悲しいものは悲しい。
いや、それよりも悔しい。こんな事をされてもちょっと反抗するだけであとは
なにも言わずにただ見てるだけ。
そんな自分がいちばん、大嫌いだ。
その後、担任に「忘れました」と嘘をつけばこっぴどく叱られた。
…….こういう時に素直に「嫌がらせを受けました」って言えばまた違ったのかな。
まぁ、今回のが女性の担任で良かった。
男性だったら絶対、叩かれていただろう。
この前の体育の先生は特に痛かったな…。思い出しただけで痛みが蘇ってきそう。
あの後、担任から「隣の席にいる人に見せてもらいなさい」と言われ隣の人は嫌がりながらも
見せてくれた。
時々文句を言ってきてた気がするけど数学に集中してたからあんまり耳に入ってこなかった。
…..そっか。集中してれば良いんだ。
それなら悪口を言われて気になる時は何か集中できる物を持ってくれば。
なんで気が付かなかったんだろう。ただ集中するだけの簡単な事なのに。
….バカだなぁ、私。
その自分のバカさに笑えてくるけれど、ふと集中できる物ってなんだろうと考え始める。
本にしようかな。この高校は小説ならOKなんだけど。
あ、そうだ。私がハマってるあの文庫にしよう。
なら、そうと決まれば明日、忘れずに持ってこなきゃ。
※※※※※※
ようやく午前の授業が終わり昼食の時間になった。
食堂もあるけれど私はいつも、お母さんに作ってもらったお弁当を食べている。
白にピンクのチェック模様が入った巾着袋を開いてシンプルなお弁当箱のフタを開ける。
私はいつも一人で食べている。答えは簡単、人とあまり関わりたくないから。
まぁ、別に良いよね。
「ねぇ今、一人で食べてるの?あっ、無理に答えなくていいよ」
ふと前方から声が聞こえた。その方に目を向けると女子達から話題の人物、藤屋さんだ。
昨日転校してきたイケメン君ね。私には分からないけれど。
「そうですけど、何か用です?」
ちょっと素っ気なかった気がするけど‥。ま、いいか。
「いや、よかったらなんだけど…、一緒にお弁当食べない?」
藤屋さんが微笑みながら言う。よく人前で笑えるなぁ、と妙な所で感心してしまう。
「あ、別にいいですよ──。」
私がそこまで言った時だった。
突然、教室のドアが開き‥.。
「ドッキリ大成功ー!!」
あ、油断した。
ふと思ったのはそれだけだった。
「ダーマされたwww調子乗ってやんのー!」
ドアの前にはチャラそうな男子3人がいた。
皆、私を指差しゲラゲラと笑っている。
…凄くムカつく。
「それじゃ、行こーぜーwww」
男子3人組の中の一人の声を合図にぞろぞろと去っていく。
同時に藤屋さんも。
やっぱり。ほら、全員同じでしょ?
まぁ今のは油断した私も悪いと思うけど。
「…ごめんね….」
藤屋君が呟いたその言葉は私の耳に届く事はなかった──。
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