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都比「魁令夏ってそうやって書くんだね」
令夏「よくレイカと間違われる。名字なんて一発で読んでもらえたらことない」
都比「定めさ。俺も名前は一発で読んでもらえること少ない」
そんなやりとりをしていたら終わった昼休み(なんとなく令夏の教科書と目が合った)。放課後を迎え、今日も今日とて魁図書館へ。今日、入れる物語の解説。
令夏「これ、原作と大分、話が変わってて… 原作は復讐劇だからね」
都比「ちゃんと希望の物語なんだね」
山椒大夫。これは幼い姉弟が身売りにさらわれてしまうところから物語は幕を開ける。 そこから過酷な労働を乗り越え、姉は自分を犠牲に弟を逃し、弟は母と再会し、奴隷を解放するところで物語は幕を閉じる。原作では現実だったシーンが夢になっていたり、姉も自死ではなく殺されていたり、残った弟がしたことも奴隷解放ではなく、復讐だったりする。そんな物語も希望の物語となった。幼い姉弟として入った令夏と都比。いよいよ姉が弟を逃すところまできた。
令夏「私は人間がそんなクズなだけの存在じゃないってどっかで信じてるから。 きっと運が悪かったのね。 私達はその運をきっと持ってる」
都比「信じて…行ってくるよ」
そう言い、姉の安寿《あんじゅ》が親からの宝物も託し、弟の厨子王《ずしおう》を清水寺へ逃すことに成功。あとは厨子王が地方役人として奴隷を解放し、母と再会して話は終わる。
?「あの子、みやびっていうのよね…」
えーっと、どこだ…と旅館で母を探す都比。なんだか聞き覚えのある声が聞こえてくる。
?「……び …やび… みやび… こっちに…コッチニ…コッチニ…」
ゆっくりと振り返った都比。そこには粗末な衣服を身に纏った女性の姿。物語を進めるために一緒にいたから分かる。正道(厨子王の成人してからの名前)と安寿の母親だ。しかし呼ばれたのは「都比」だった。何故知っているのだろうと困惑しながらも近づいていく。
都比「え?何で俺の名前を?え、えっと…」
?「会いたかった」
都比「いや、俺もなんだけど…てかなんで名前、知ってるの?」
?「呼び合ってたから…令夏、だっけ?」
令夏の名前も知っているのかと感心のような感情さえ湧いてくる都比。作中では「姉さん」や「お前」などとしか呼んでいないような気もしていたからだ。
都比「そんなに呼び合ったか?」
?「私、聞いてた」
都比「マジかよぉ…」
どこかでうっかり呼んでしまっていたのかと謎に納得する。
都比「そういえば俺たち、この物語が初対面なのに…初めて会った気がしない」
?「奇遇ね、私もよ。会ったことないはずなんだけど」
都比「何であんなに呼んでたの?」
?「分からない…でも貴方と話さないといけない気がしたの。貴方と話せて嬉しい」
都比「俺たち、物語と関係あるところ意外でちゃんと話すの初めてだよね?」
令夏「なんか私だけ置いてかれてる?」
出番を終え、物語の終了を見守る令夏がつっこむ。同時にいや、何で?と思う。
令夏「登場人物なのに物語と関係あること以外のコミュニケーションができる…?」
?「なんか言った?」
令夏「気のせいよ」
…うん?と思う。この人、何でもうやることを終えた自分の声が聞こえるんだ。さっきからこの人、なんだ。都比に構ったり、自分の声が聞こえたり。
令夏「待って!貴方はまさか…」
都比「あの人、誰だったんだろう…」
令夏「知ってる顔だった?」
都比「ううん…あー!」
頭を殴られるような勢いで何かを思い出した都比。思い出す勢いが良すぎて逆に忘れそうなのですぐに言う。
都比「名前、聞くの忘れてたや…」
令夏「一番、大事でしょうが…」
自分も聞くのを忘れていたことは棚に上げてつっこむ令夏。
都比「タイミング逃した…なんか前、会った人とおんなじ感じがする。 前回の人と何か関係が…? 本当にあの人も何者なんだ」
そういえばと二人で思い出す。「心」に入った時に会った女の人も都比のことを呼んでいるようだった。その時は物語の進行上のためだとそこまで気にしなかった。しかし、都比は彼女を知っているようだった。一歩間違えば一生、物語の中に閉じ込められていたかもしれない。
令夏「もうちょっと私たちはあの本の中について調べる必要がありそうね」
都比「うん。『心』で会ったあの人と『山椒大夫』の厨子王と安寿のお母さんが何者なのかもね」
じゃあまたと都比を見送る令夏。都比が外に出てすぐ、うーん。と令夏は考え、ついに頭をよぎった。今まで本の中で会う人たちのことはゲームでいうNPCのように思っていたが、違うのかもしれない。私たちと同じちゃんと自分の意思で動ける存在なのではないかと。でなければ物語と関係あること以外の会話があそこまでできるわけがない。そんな二人からは見えない場所で誰かは見分けがつかないただ真っ黒な立ち姿が二人を見ていた。