テラーノベル
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夕暮れのミアレの街を無言で歩く2人シオンはカラスバの横顔をそっと見上げる。
久しぶりに近くにいる。 コートの匂い、タバコと革と、少し甘いコロンの混じった匂い。 懐かしくて胸が締めつけられるほど苦しい。
涙がこみ上げてくるのを必死に堪える。
カラスバの視線が、ふとシオンの首元に止まった。
「なんやこれは」
低い声。
カラスバは足を止め、シオンの頬を少し擦る
コンシーラーで隠しきれていない、頬の擦り傷を見てカラスバの目付きが険しくなる
「誰かにやられたんか」
心配と怒りが混じった声。
カラスバの瞳が、鋭く細くなる。
シオンは慌ててカラスバの手を取り笑う
『少しはしゃいだだけです!』
明るく、わざと軽く言う。
カラスバの眉が寄る。
「……はしゃいだ?」
『はい!アチャモと遊んでたら転んじゃって……』
シオンは慌てて笑い、アチャモを肩に乗せたままカラスバの腕に絡みつく。
カラスバはまだ疑わしげにシオンを見つめていたが、シオンの笑顔に、わずかに表情を緩めた。
「遊ぶんも程々にな。せっかくきれいな肌なんやから」
『!えへへっ…』
シオンはカラスバの腕をぎゅっと抱きしめ、
そのまま歩き出す。
カラスバはため息をつきながら、シオンの手を握り返した。
シオンはカラスバの横顔をそっと見上げる。
久しぶりに近くにいる。
懐かしくて、嬉しくて、胸がいっぱいになる
ツバキとの事、聞きたいけど聞いてこの関係が終わるのは1番嫌だった
それなら、今一緒にいる時間を大切にしたい
カラスバさんがあの女を思い出せないくらい、魅了したらいい話なんだから
『……カラスバさん』
カラスバの腕に絡めていた腕の力を強くするとカラスバの体が一瞬強張る。
『久しぶりですね、一緒に歩くの』
声が震えていた。
掠れて、切なくて、でもどうしようもなく甘えるように。
カラスバは無言で、ただ歩き続ける。
シオンは勇気を振り絞って、距離を縮める。
『ねえ、カラスバさん。まだ暫くは家に帰れない…?』
「……ああ」
短い返事。
シオンは少し寂しくなるが、それでも笑顔を崩さない。
『…お願い、カラスバさん今日は一緒にいてくれませんか?』
カラスバの歩調が一瞬だけ乱れる。
シオンは気づかないふりをして、もっと近くに寄り添った。
もっと、もっと攻めないと。カラスバさんの頭からあの女を消して、私だけを想うように
私だけを───
『私、ずっと待ってたんだよ……カラスバさんが帰ってくるの』
上目遣いでカラスバに話す。
カラスバは小さく息を吐き、視線を前に固定したまま答える。
「……すまんな」
不愛想な声。
でも、シオンには分かる。
カラスバの耳が、少し赤くなっていること。
腕に絡めたシオンの手を、無意識に強く握り返していること。
シオンは胸の奥で、ほんの少しだけ安心する。 そして、もっと大胆に──カラスバの腕をぎゅっと抱きしめた。
『…ねえ、カラスバさん』
シオンは足を止め、カラスバを見上げた。
瞳が潤んでいる。
頰が赤く染まっている。
『……ち、ちゅー……して欲しい、です……』
上目遣い。
敬語なのに、どこか甘えるような、懇願するような声。
カラスバの瞳が大きく見開かれた。
「……シオン」
カラスバの声が、掠れる。
シオンの小さな手が、カラスバのネクタイをそっと掴む。
『……だめ、ですか?』
その瞬間、カラスバの中で何かが弾けた。
理性が、音を立てて崩れ落ちる。
「……あかん」
カラスバはシオンの手首を掴み、近くの路地裏へと引きずるように連れ込んだ。
暗がりの壁にシオンを押し付け、顔を近づける。
「煽ったんはお前やからな」
低い、掠れた声。
息が熱い。
シオンは小さく頷き、目を閉じた。
カラスバの唇が、シオンの唇に触れる。
最初は優しく、探るように。
シオンが小さく息を漏らすと、カラスバの理性は完全に飛んだ。
唇を重ね、深く、激しく。
シオンの小さな体を壁に押し付け、首筋に唇を滑らせる。
シオンの手が、カラスバの背中に回る。
『んっ…ぅ…ぁ…カラスバさん……っ』
甘い吐息が漏れる。
カラスバはシオンの耳元に唇を寄せ、熱く囁く。
「……もっと、欲しいんか?」
シオンは恥ずかしそうに頷き、カラスバのネクタイを強く掴んだ。
『っ、はい…もっと…もっと、カラスバさんが欲しい…っ』
シオンの言葉にカラスバの瞳が、暗く燃える。
もう止まらない。
今、このまま──
シオンの小さな体を強く抱きしめ、唇を何度も奪う。
シオンの息が乱れ、甘い声が漏れるたび、カラスバの胸は熱く疼いた。
『んっ…ぁ…カラスバさん…っ…好き……』
その一言で、カラスバの理性は完全に砕け散った。
シオンの腰を引き寄せ、もっと深く──
その瞬間、カラスバのポケットでスマホが鳴った。
「セイカ」と表示されたスマホにカラスバの体が、ピタリと止まる。
「……っ」
シオンはカラスバの胸に顔を埋めたまま、息を潜める。
カラスバは歯を食いしばり、電話に出た。
「──なんや」
相手の声は聞こえない。
カラスバの表情が、みるみる硬くなる。
「……今すぐか。分かった。すぐ行く」
電話を切り、カラスバはシオンを見た。
「……すまん。急ぎの用が入った」
シオンはゆっくり顔を上げ、笑顔を無理に作る。
『仕事ですもんね、仕方ないですよ!』
声が震えていた。
カラスバは一瞬だけ、シオンの頰に触れそうになり──手を止めた。
「…また連絡するさかい」
そう言って、踵を返し、夜の街へ消えていく。
シオンは立ち尽くしたまま、カラスバの背中を見送る。
一人、残された路地裏。
唇に残るカラスバの熱。 胸に残る、途切れた想い。
『……ツバキさんのところ、かな』
小さな呟きが夜風に溶けた。
シオンの瞳に、静かな不安と、寂しさが広がっていく。
遠くで、ミアレのネオンが冷たく瞬いていた。 シオンは両手で自分の腕を抱きしめ、 小さく、震える声で呟いた。
『…でも、キスしてくれたから…ふふっ…キス、してくれたから、大丈夫…』
あの女の唇の感触なんてもう思い出せないでしょ?私で上書きしたんだから
…お願い思い出さないで、もう会わないで
私だけを想って
『…一番に…想って欲しいの』
涙が一滴、頰を伝う。
誰もいない夜の街にシオンの小さな嗚咽が響いた。
一方、カラスバは路地を抜け、足を速めた。
「(……あとちょっとで、手ェ出しよったわ……)」
胸の奥が、熱く疼く。
シオンの甘い吐息、柔らかい唇の感触が、まだ残っている。
「(あかん……絶対にあかん……)」
異次元ミアレの緊急事態。
シオンを傷つけるわけにはいかない。
カラスバは煙草を取り出し、火を点けた。 煙を深く吸い込み、吐き出す。
「……シオン、ごめんな」
声は、風に消えた。
胸の奥では、シオンへの愛と、 自分自身への苛烈な怒りと、 抑えきれない欲情が、 静かに、激しく渦巻いていた。
カラスバはもう一度、
シオンが去った方向を振り返った。
そこに、彼女の姿はなかった。
コメント
4件
セイカ…タイミング悪いて…あ、でも暴走させたヤツらが悪いからしょうがないんか
せっかく進展が有ると思ったのに、邪魔すんじゃねぇーよ、、