テラーノベル
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翌朝、目を覚ましたときには、すでに妹の姿はなかった。 いつもより少しだけ静かな家の中で、俺は急いで朝食を済ませ、そのまま学校へ向かった。
今日から授業が始まる。いよいよ、本格的な学校生活のスタートだ。
校門に着くと、ちょうど同じタイミングでみやの姿が見えた。
「よう。みや、タイミング一緒だな」
そう声をかけると、みやは嬉しそうに駆け寄ってくる。
「ゆうた!また朝に会えて嬉しいよ」
その素直な反応に、少しだけ気が楽になる。高校に入って最初にできた友達――いや、親友と呼んでもいい存在だ。
短く会話を交わしたあと、「またあとで」と言って別れ、俺は教室へと向かった。
――だが、教室に入った瞬間、違和感に気づく。
自分の席に、誰かが座っていた。
いや、誰かじゃない。
長い髪に整った横顔。見間違えるはずもない。
綾咲真乃だった。
「あの……綾咲さん?なんで俺の席に座ってるんですか?」
そう尋ねると、彼女はゆっくりと顔を上げ、こちらを見た。そして、小悪魔のような笑みを浮かべる。
「ダメなの?ゆうた」
「なっ……」
一瞬、言葉が詰まる。名前で呼ばれたことにも驚いたが、それ以上に周囲のざわめきが一気に大きくなった。
「水奈戸と綾咲って知り合い?」
「え、付き合ってんの?」
完全に面倒な流れだ。
「……なんのつもりだ」
低く問いかけると、彼女は軽く肩をすくめる。
「ゆうたの席だから、座ってみただけよ」
意味がわからない。そう思っているうちにチャイムが鳴り、担任が入ってきたため、会話はそこで途切れた。
綾咲は何事もなかったかのように自分の席へ戻り、俺もようやく席に着くことができた。
しかし、授業が始まっても落ち着くことはできなかった。
一時間目、二時間目と進む中で、何度も隣から視線を感じる。
最初は気のせいかと思っていたが、さすがに無視できない。そう思って横を見ると、ちょうど綾咲と目が合った。
彼女はにこりと微笑み、何かを口の形で伝えてくる。
――だいすき。
そう言われたような気がした。
(いや、気のせいだろ……)
そう自分に言い聞かせたものの、その後の授業はまったく頭に入らなかった。
やがて放課後になり、ホームルームが終わると、綾咲はすぐに教室を出ていった。
ようやく解放されたと感じながら帰る準備をしていると、教科書の間から小さな紙が落ちる。
拾い上げてみると、そこには短く――
『校門の前に来て』
と書かれていた。
嫌な予感しかしなかったが、無視するわけにもいかず、俺は校門へ向かった。
すると、案の定そこには綾咲の姿があった。
「やっぱりお前か」
「そうよ。気づいてくれてよかった」
当然のように言う彼女に、ため息が出る。
「さあ、一緒に帰りましょう」
その一言で、周囲の空気がまたざわつき始めた。
このままではさらに面倒なことになる。そう判断して、俺は仕方なく頷いた。
しばらく並んで歩いたあと、俺は立ち止まり、改めて彼女に向き直る。
「……で?お前、何が目的なんだ」
そう問いかけると、彼女は少しだけ考えるように視線を逸らし、それから軽く笑った。
「目的なんてないよ。ただ、一緒に帰りたかっただけ」
「そんなわけあるか」
即座に否定すると、彼女はくすっと笑う。
「やっぱり君、気持ち悪いね」
「……二日連続はきついな」
思わず本音が漏れた。
「普通の男子だったら喜ぶでしょ?でも君は最初からずっと疑ってる」
それは当然だ。こんな都合のいい話、あるはずがない。
そう思っていると、彼女はふと表情を変えた。
「ねえ、水奈戸くん。一週間だけ私と付き合ってくれない?」
一瞬、言葉の意味が理解できなかった。
「……それ、告白なのか?」
「好きな方でいいよ」
またあの小悪魔のような笑み。
だが、答えは決まっていた。
「悪い。無理だ」
「えっ、なんで?」
「お前とは付き合いたくない」
はっきり言い切る。
彼女は少し驚いたように目を丸くしたが、すぐに口を開いた。
「こんなに可愛いのに?成績優秀でスポーツもできるよ?」
「自分で言うな」
思わずツッコんでしまう。
そして、俺は続けた。
「それに、今はやることがある」
「やること?」
「妹の問題を放っておけない」
昨日の泣き声が、頭から離れなかった。
あのまま見過ごすことはできない。
すると彼女は、少しだけ間を置いてから言った。
「じゃあ、私も手伝う」
「……は?」
予想外すぎる提案だった。
「後輩に知り合い多いし、役に立てると思うよ?」
確かに、情報を集めるには有利かもしれない。
だが同時に、こいつと一緒にいれば余計な噂が立つのも確実だ。
それでも――今は妹のことが優先だ。
少し迷ったあと、俺は小さくため息をついた。
「……わかった。頼む」
そう言うと、彼女は満足そうに笑った。
「任せて」
その笑顔は、やはりどこか小悪魔じみていて。
けれど同時に、ほんの少しだけ本気にも見えた。
こうして俺は、綾咲真乃と手を組むことになった。
――妹の悩みを解決するために。
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