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第1話:現人界最弱、23歳社会人、異世界最強への第一歩
東京。近未来都市の夜景は、ネオンの光に包まれながらもどこか冷たく、孤独な人間の影を浮かび上がらせていた。雨が降り、アスファルトを濡らす。橘樹龍樹(たちばな りゅうき)は傘を片手に、会社のビル群を背にして歩いていた。23歳、社会人、平凡そのものの生活。強いて言えば、ゲームや漫画が趣味くらいだ。
「はあ……今日も残業で体ガタガタだな」
龍樹は小さくため息をついた。肩には重い鞄。スマートフォンを見ながら歩くと、ふと異様な気配を感じた。振り返ると、路地の奥に影が揺れている。
──化け物だ。
それは人間の形をしていたが、腕や脚が異様に長く、皮膚は灰黒色で、目は深紅に光っていた。口からは鋭い牙が覗く。雨に濡れた姿は人間らしさを失い、まさに異形そのものだった。龍樹は動けずに立ち尽くす。
「ちっ……クソッ……現人界にこんな化け物が……!」
その瞬間、化け物が飛びかかってきた。
「――っ!」
咄嗟に避ける龍樹。しかし、物理的に人間の反応速度では間に合わない。足元に落ちた傘が宙を舞い、激しい雨音に紛れて化け物の咆哮が響く。心臓が激しく打つ。──死を覚悟したその瞬間、背後から低く、冷たい声が響いた。
「契約するか、俺と」
振り返ると、そこにいたのは頭のない騎士だった。漆黒の鎧に包まれ、肩には大斧を背負っている。頭部は存在せず、ただ空洞の闇が光を吸い込む。だが、その目だけは、赤く光り、龍樹を見据えていた。
「誰……だ、お前は?」
「デュラハンだ。お前のバディだ」
言葉と同時に、何かが龍樹の体を駆け抜けた。血のように赤い光が手足を巡り、体が勝手に動く。化け物は一瞬の間に視界から消え、重低音の衝撃と共に崩れ落ちた。
「な……なんだ、この力は……」
これは自分の力ではない。目の前の存在──デュラハンの力が体を支配している。胸が高鳴る。恐怖と興奮が入り混じり、龍樹は震えながらも理解した。
──俺は今、世界の常識を超えた力を手にしたのだ。
その夜、龍樹の家に戻ると、幼馴染の真田紗夜からLINEが届いていた。
「龍樹くん、大丈夫?ニュースで謎の化け物出現って言ってたけど…」
龍樹は返信に手を止め、少し笑った。
「大丈夫だ。…いや、むしろちょっとだけすごいことになった」
返事を打ち終えると、デュラハンが目の前に現れた。
「さて、契約した以上、訓練だ」
「訓練……?」
「お前がこの力を制御できなければ、世界にとって厄災になる」
漆黒の鎧は冷たく光る。だが、どこか楽しげに感じるのは錯覚ではなかった。デュラハンは勝手に屋内の空間を歪ませ、異世界の戦場のような環境を作り出した。
次の日、会社では日常が待っていた。だが、龍樹の視界には、常人には見えない力の残像がちらつく。会議中に資料をめくる手にも力が宿り、コピー機から飛び出す紙が微妙に浮遊する。幼馴染の紗夜は気づかないが、龍樹は自分の変化を痛感した。
「……この力、俺、本当に使いこなせるのか……?」
昼休み、オフィスの外でデュラハンと初めての訓練を行った。
「俺の力を使うには、まず感情と融合しろ。恐怖、怒り、悲しみ、喜び、すべてだ」
「感情と……融合……?」
「その通りだ。お前の心に俺の力を染み込ませろ。それができれば、攻撃も防御も、自由自在になる」
龍樹は目を閉じ、体に流れる熱を意識した。赤い光が体を駆け巡り、腕を伸ばすと、手のひらから黒い炎が立ち上る。デュラハンは頷く。
「よし、その調子だ。今度は本物の敵と戦うぞ」
その瞬間、街の遠くで爆発が起きた。アンチエコノミーの尖兵が現れたのだ。龍樹の心臓が跳ねる。
「……来たな」
デュラハンは振り返り、肩の大斧を構える。
「行くぞ、龍樹」
「おう!」
二人の背後で雨が降り注ぐ。ネオンの光に照らされ、世界最弱の人間だった青年が、最強のバディと共に立ち上がる。戦いは、今、始まったばかりだった。
その夜、龍樹は布団の中で思った。
「……これから、どうなるんだろう」
頭の中に浮かぶのは、デュラハンの冷たい赤い目と、街を駆ける黒い影。
恐怖と興奮、期待と不安。23歳の平凡な社会人は、知らぬ間に現人界最弱から八界最強への第一歩を踏み出したのだった。