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「明日なんて来なければいいのに」
放課後の屋上。沈みゆく夕日が街をオレンジ色に染め上げる中、僕はフェンス越しにそんなことを呟いた。願えば願うほど、時間は残酷に加速していくように感じる。叶えたい未来なんてない。ただ、この息苦しい「今日」が終わることへの恐怖だけが、僕の胸を締め付けていた。
「またそんな顔してる」
隣にふわりと、風のような気配が並んだ。いつの間にかそこにいた「君」は、夕焼けの空を反射させたような瞳で僕を見つめている。
「空でも飛べたら、夜を追い越してずっと今日を続けられるのかな」
僕の馬鹿げた言葉に、君はふっと笑った。
「じゃあ、試してみる?」
君が僕の手を引いた。驚く間もなく、体がふわりと宙に浮く。重力から解き放たれ、僕たちは茜色の空へと踏み出した。
地上はどんどん小さくなり、街の灯りが星の屑のように瞬き始める。見上げる空には、一番星が静かに灯っていた。
「綺麗……」
「そうだよ。君が怖がっている明日は、こんなに綺麗な夜の向こう側にあるんだよ」
君は僕の手を握り直し、夜空の境界線を指差した。
「私たちは、明日を迎えるための哨戒班(パトロール)。怖いものがないか、先に見に行ってあげよう」
風を切って進む。雲を突き抜け、冷たくて心地よい夜の空気を吸い込む。
君と一緒なら、暗闇さえも輝いて見えた。
でも、いつの間にか君の手の感触が薄くなっていくことに気づいた。君の姿が、朝焼けの気配に溶けるように透き通っていく。
「あぁ、もう時間だね」
君は寂しそうに、でもどこか満足げに微笑んだ。
「僕は……僕はまだ、君といたい!」
「大丈夫。君はもう、一人で明日へ行ける」
最後に君が僕の背中を強く押した。
「願ったんなら叶えてしまえよ。君の望む、最高の明日を」
目が覚めると、僕は屋上のコンクリートの上にいた。
空は白み始め、夜はどこにも残っていない。頬に残る冷たい風の感触だけが、あの不思議な飛行が夢ではなかったことを物語っていた。
僕は立ち上がり、フェンスを掴む。
昨日の僕が恐れていた「今日」が始まる。でも、今の僕の胸には、あの夜空で君がくれた小さな勇気が宿っている。
「行ってくるよ」
僕は昇り始めた太陽に向かって、一歩を踏み出した。
さよなら、昨日の僕。
よろしく、僕が作り出す新しい明日。
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