テラーノベル
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チャンスは「刺激」にうるさい男だった。
命懸けのギャンブル。
裏社会の取引。
マフィア相手の逃走劇。
そんな危険すら、“人生を味わうためのスパイス”くらいにしか思っていない。
だからこそ、休息の時間に口へ運ぶものまで一流だった。
その日、隠れ家のテーブルには高級イタリアンジェラートが並んでいた。
マフィアのカジノへ通っていた頃、チャンスが気に入っていた店のものだ。
ミルクの濃厚な香り。
舌に触れた瞬間に溶ける冷たさ。
チャンスはソファへ脚を組み、ゆったりスプーンを口へ運ぶ。
サングラス越しに目を細める姿は、まるで退屈しのぎに世界を食っている富豪そのものだった。
その様子を、iTrappedは窓際から眺めていた。
青いシャツ。
黄緑のパンツ。
そして氷の王冠。
淡い冷光が横顔を照らし、その表情から温度というものを完全に奪っている。
彼は黙ったまま、チャンスの動きを観察していた。
スプーンを持つ指。
喉の動き。
呼吸の間隔。
まるで機械の欠陥を探すみたいな目だった。
「……美味ぇぞ」
チャンスが笑う。
ジェラートをひと掬いして差し出した。
「食うか? Banlands帰りのお前には、この程度の冷たさじゃ物足りねぇかもしれねぇけど」
挑発混じりの声。
けれどiTrappedはスプーンを見もしない。
ただ静かに歩き出す。
絨毯を踏む音すらほとんどしない。
気づけば、彼はチャンスの背後へ立っていた。
「僕は別に、そんな甘さに興味ないよ」
耳元で囁く。
その瞬間、空気が冷えた。
王冠から漏れる冷気が、肌へ直接触れたみたいだった。
iTrappedの指先が、チャンスの唇へ伸びる。
ほんの少しだけ残っていた白いジェラート。
それをゆっくり拭い取った。
優しく見える動作。
なのに妙に支配的だった。
iTrappedは、その指を自分の口元へ運ぶ。
ぺろり、と舌先で甘さを舐め取った。
「……甘い」
静かな声。
「君の頭の中みたいだ」
チャンスの目がわずかに動く。
iTrappedは続けた。
「何でも持ったまま育って、危険な場所へ飛び込んでるつもりでいる」
青い瞳が細まる。
「でも本当は、“いつでも帰れる場所”があるって信じてる」
冷たい。
言葉が。
まるで薄い刃物で皮膚を撫でられているみたいだった。
iTrappedは知っている。
チャンスが求めている“スリル”なんて、本物の地獄じゃない。
Banlandsとは違う。
あそこには帰る場所なんて存在しない。
Ellernateも。
Caleb244も。
今もまだ、奈落の底にいる。
#bl注意
ゆ
3,523
#1x1x1x1
ゆ
437
30
12
(待ってろ)
iTrappedの瞳から感情が消える。
(この男を使う)
(全部使い切ってでも、お前たちのところへ辿り着く)
そのまま、チャンスの顎を掴んだ。
強引に上を向かせる。
サングラスの奥で、視線がぶつかった。
次の瞬間。
唇が重なる。
冷たい。
あまりにも冷たかった。
甘いジェラートの余韻を、冬の氷みたいな口づけが塗り潰していく。
優しさなんてない。
愛情もない。
これはキスの形をした“支配”だった。
呼吸を奪い、思考を乱し、「お前は俺の駒だ」と身体へ直接刻み込むための行為。
けれど。
チャンスは震えながら笑っていた。
怖くない。
むしろ、たまらなく興奮していた。
分かっているからだ。
この男は自分を愛していない。
一度たりとも。
見ているのは利用価値だけ。
金。
人脈。
危険へ飛び込む狂気。
全部、“使える部品”としてしか見ていない。
なのに――その冷酷さが最高だった。
唇が離れる。
チャンスは荒い息を吐きながら笑った。
「……ッ、ハハ」
肩を震わせる。
「最高だな、ペテン師」
サングラスを少し下げる。
ギラついた瞳がiTrappedを射抜いた。
「あんたのキス、どのカジノの裏レートより冷えてやがる」
低い声で笑う。
「俺を都合のいい駒にするつもりなんだろ?」
彼はiTrappedのシャツを掴んだ。
逃がさないみたいに。
「でも忘れるなよ」
口角が吊り上がる。
「俺は“運任せのゲーム”ほど、最後に全部ひっくり返すタイプなんだ」
ジェラートの甘い香りは、もう消えていた。
残っているのは。
互いを破滅させるまで終われない、狂った超高額ギャンブルの熱だけだった。
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