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#Loneliness
side 元貴
「……行ったな、」
若井の背中を見送りながら、小さく呟く。
隣で藤澤先輩が、まだ少しぼんやりしてる。
「藤澤先輩?」
「ん?」
「追いかけないんですか」
そう言うと、藤澤先輩は一瞬だけ固まった。
「……え」
「いやもう今の、さすがに分かるでしょ」
少しだけ笑いながら言う。
でも、目はちゃんと見てる。
「……あれ、どう考えても“そういうやつ”ですよ」
「そういう、って……」
言葉にするのを躊躇ってる顔。
(ほんと鈍いな、この人)
「好きってことです」
はっきり言う。
すると、
藤澤先輩の目が、わかりやすく揺れた。
「……え、っ」
「むしろ気づいてなかったんですか?」
ちょっと呆れる。
「……え、え、ちょっと待って」
完全にパニックになってる。
「え、でも、そんな……」
「だから今ああなってるんでしょ」
ため息混じりに言う。
「……どうするんですか」
静かに聞くと、
藤澤先輩は少しだけ俯いて、
「……追いかけてくる」
小さく言った。
(よし)
「行ってらっしゃい」
軽く背中を押す。
side 藤澤
心臓が、変な音してる。
走りながら、ずっとさっきの言葉が頭に残ってる。
「俺が、どんな気持ちで」
(……それって)
考えたら、もう答えは一つしかなくて。
「……やばい」
顔が熱い。
今まで、全然気づかなかった。
若井の視線も、
距離感も、
全部。
(僕、なにしてたんだろ)
そう思ったら、
急に会いたくなった。
ちゃんと、話したい。
逃げさせたままにしたくない。
「……若井くん!」
校舎の裏。
ちょうど角を曲がったところで、見つけた。
side 若井
「……最悪」
壁に背を預けて、深く息を吐く。
言いかけた。
ほぼ言ってた。
(何やってんだよ、ほんと)
顔を手で覆う。
冷静じゃない。
全然。
「……もう顔合わせらんねえ」
そう思った瞬間——
「若井くん!」
名前を呼ばれた。
(……は?)
顔を上げると、
息を切らした藤澤先輩が、目の前にいた。
side 藤澤
「はあ……っ、やっと……」
少しだけ息を整える。
若井くんが、完全に驚いた顔でこっちを見てる。
「……なんで来るんですか」
その一言。
少しだけ、距離を感じる。
でも、
「来るよ」
即答する。
「だって、ちゃんと話したいもん」
一歩、近づく。
今度は絶対、逃がさない。
side 若井
来るよ、って。
そんな当たり前みたいに言うなよ。
「……話すことなんてないです」
目を逸らす。
これ以上近づかれたら、ほんとに—
「あるよ」
即、否定される。
「さっきのこと」
(やめろ)
「ちゃんと聞きたい」
(やめてくれ)
「若井くんが、どんな気持ちでって言ってたやつ」
そこで、
完全に詰まる。
「……」
逃げ場、ない。
side 藤澤
黙った。
でも、
それで確信する。
「……好きなんでしょ」
静かに言う。
その瞬間、
若井くんの肩が、びくっと揺れた。
(やっぱり)
「……っ」
何か言おうとして、言えない顔。
そのまま、少しだけ俯く。
(こんな顔、初めて見た)
胸が、ぎゅっとなる。
「……ごめん」
思わず言うと、
「なんで謝るんですか」
少し強い声。
「……だって、全然気づかなかった」
正直に言う。
すると、
「……そういうとこですよ」
小さく返ってくる。
side 若井
やっぱり言われた。
終わったんだ。
全部。
「……そういうとこですよ」
それだけ言って、
もういいやって思った。
どうせ—
「でも」
その一言で、止まる。
「気づいたよ、今」
顔を上げる。
藤澤先輩が、まっすぐこっちを見てる。
「ちゃんと、分かった」
その目、
いつもと違う。
side 藤澤
逃げられそうだったから、
一歩、詰める。
距離が、一気に近くなる。
「……若井くん」
名前を呼ぶ。
さっきより、ちゃんと意識して。
「ずっと見てたんだよね」
「……」
「僕のこと」
少しだけ、恥ずかしくなる。
でも、目は逸らさない。
「……うん」
小さく、頷く。
(やっぱり)
「……ごめんね」
また言うと、
「だからなんで謝るんですか」
さっきより弱い声。
「だって、」
少し迷ってから、
「……嬉しかったから」
そう言った。
side 若井
「……は?」
理解、追いつかない。
嬉しかった?
今、なんて—
「えへへ」
少しだけ照れたみたいに笑う。
「なんかね」
一歩、さらに近づいてくる。
もう、逃げられない距離。
「そんな風に思われてるって、知ったら」
心臓が、うるさい。
「ちょっと、ドキドキした」
(……まじかよ)
side 藤澤
ほんとのこと。
さっき気づいたばっかりだけど、
でも、
嘘じゃない。
「今までと、ちょっと違って見える」
そう言うと、
若井くんの目が、揺れる。
「……それって」
少し低い声。
「どういう意味ですか」
ちょっとだけ、緊張する。
でも、
「……まだ、分かんない」
正直に言う。
「でも、ちゃんと知りたい」
一歩、
さらに近づく。
side 若井
分かんない、って。
でも、知りたいって。
それって—
(……期待していいやつか?)
喉が、少し乾く。
「……先輩」
名前を呼ぶ代わりに、それが出る。
「なに?」
いつも通りの声。
でも、距離が違う。
近い。
近すぎる。
「……後悔しますよ」
思わず出た言葉。
「なんで?」
「……俺、そんな余裕ないんで」
本音。
そのまま。
side 藤澤
余裕ないって言いながら、
少しだけ手が震えてる。
(かわいい)
って思った瞬間、
「……そういうとこ」
ぽつっと言う。
「好きかも」
——言ってから、
自分で固まった。
(え、今の僕!?)
side 若井
一瞬、音が消えた。
「……は?」
聞き返す。
でも、
藤澤先輩は顔赤くしてる。
「い、今のなし!」
「……なしにできるわけないでしょ」
一歩、踏み込む。
完全に、距離ゼロ。
逃がさない。
「……もう一回言って」
低く言うと、
「やだ」
即答。
でも、目逸らしてる。
(……無理)
限界。
side 藤澤
近い。
顔、近い。
「ちょ、若井くん……」
言いかけた瞬間、
手首、軽く引かれる。
「……逃げないで」
低い声。
さっきまでと全然違う。
心臓、うるさい。
「逃げてないよ」
そう言ったら、
「じゃあ、いいですよね」
って返ってきて——
side 若井
もう、無理。
これ以上我慢できるわけない。
でも、
最後の一線だけは—
「……先輩」
呼ぶ。
ちゃんと確認するみたいに。
「ん……?」
少しだけ不安そうな顔。
「……嫌なら言ってください」
そう言って、
少しだけ顔を寄せる。
止めるなら、今。
でも—
藤澤先輩は、目を逸らさなかった。
そのまま、
ほんの一瞬だけ、
唇が触れた。
side 藤澤
一瞬だったのに、
びっくりするくらい、残る。
「……わ、わかいくん、っ」
名前を呼ぶと、
少しだけ目を逸らしてる。
「……すみません、我慢できなくて」
小さく言う。
でも、
その手、離さない。
(……ううん、)
そっと、袖を掴む。
「……もう一回」
小さく言うと、
今度は、
ちゃんと止まらなかった。
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