私
にこの話を聞いてくれた人よ。
どうか信じて欲しい。
私が見たものを。
私が聞いた話を。
そして願わくば、君たちの目を通して見る世界を、私に見せてくれないか。
さあ、君の目に映るものはなんだい? そして君は何を思う? どんな物語を見せてくれるのか、楽しみにしているよ。
私の中の少年は、いつも泣いていた。
泣き虫な彼は、友達にも家族にも嫌われていた。
そんな彼を変えてくれたのは、不思議な少女だった。
彼女はもういない。この世にもあの世にもない。どこにも行けない。ただ彷徨うだけ。それはまるで幽霊のように……。彼女の存在自体が嘘みたいなものだった。だけど僕は信じている。いつかまた会えることを。僕たちは必ず巡り会う運命なのだということを。だから待とう。いつまでも待ち続けよう。彼女が帰ってくるその時まで。
「さようなら」と言われて、「はい分かりました」と言って別れられるほど、人間が出来ていないのだ。「さよなら」なんて言われても、「またね」と言われた方が嬉しいし、「じゃあね」と言われるのは悲しい。だって結局のところ、自分が好きな相手とは一緒にいたいと思うものだろ?それがたとえ叶わぬ願いであっても、願わずにはいられない。
しかしそんな僕の気持ちとは裏腹に、彼女はあっさりと僕から離れていった。まるで最初から付き合っていなかったかのように、あっけなく。
僕は彼女が好きだった。その想いを伝えることも出来ず、ただ見ているだけしか出来なかったけど……それでも好きだった。彼女が別の誰かのものになるくらいならいっそ――なんて考えてしまったこともあったけれど、今となってはもう遅い。
彼女と別れた日から、すでに一ヶ月が経過している。その間、僕は彼女に対して一切連絡を取っていないし、こちらからもしていない。つまり、自然消滅してしまったのだ。いや、「自然消滅した」というのは正確ではないかもしれない。だって僕たちは付き合っていたわけではないのだから。ただ一緒にいて、同じ時間を過ごしていただけだ。恋人ではなく、友人ですらなく……。
しかし、あの日を境に僕らの関係は変わった。それは間違いのない事実だ。そして今日もまた、僕の生活に彼女が介入してくる。
午前六時半頃。枕元に置いてあったスマホが鳴ったので、僕は目を覚ました。
まだ眠いのに……と思いながら画面を見ると、電話ではなくメッセージアプリの通知音だった。
『今日は朝練があるので先に行きます』
妹からだ。僕の可愛い妹――三橋千夏ちゃんからである。
昨日は夜遅くまでゲームをしていたし、もう少しだけ寝ていたかったけど仕方がない。僕もそろそろ起きようかな。
それにしてもこんな早くに部活なんて大変だね。僕なんか毎日家でごろごろしているっていうのにさ。
「お兄ちゃーん! 朝ごはんできたよ!」
リビングに入ると妹の千夏が朝食の準備をしているところであった。キッチンに立ってエプロンをつけている彼女は、どこか楽しげに見える。
「あ、おはようございます。今起こそうとしていたところですよ」
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