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第12話、めちゃくちゃ沁みたわ……。 「幽霊は信じない。でも河合が見たものは信じる」って台詞、あたしの心臓ぶち抜かれた。三人それぞれの"見えるもの"と"信じるもの"が違うからこそ、互いに補い合って立ってる感じがすごく丁寧に描かれてて、泣けた。見てるだけじゃない、って最後の一文が全部を引き締めてる。いい話すぎる。
月曜の放課後、真崎が図書委員の当番で先に帰ったあと、あたしは河合を呼び止めた。
「ちょっと、残って」
河合は、椅子に座り直した。
準備室は、静かだった。
「知ってたよ」
河合の肩が、小さく動いた。
「……何を」
「真崎がお父さんの話をするたびに、河合が変な顔するの。四月から」
河合は、何も言わなかった。
「五月から、活動休むようになったのも。土曜、風邪って言った日、駅で見かけた。山のほうに行ってた」
「……なんで、言わなかったの」
「言ったら、壊れると思った」
あたしは、自分の右手首を見た。
「あたしは、壊れるのが分かってるものに、もう触りたくなかった」
◇
河合は、長いあいだ黙っていた。
それから、話した。
古い制服の男の子のこと。名前があったこと。真崎を二回助けたこと。押しのけるたびに薄くなっていったこと。奥の院の石段で、消えたこと。
河合は、途中で泣いた。泣きながら、最後まで話した。
あたしは、口を挟まなかった。
話し終わったあと、河合が言った。
「信じる?」
あたしは、少し考えた。
「あたしは、幽霊は信じない」
河合の顔が、少し歪んだ。
「でも、河合が見たものは、信じる」
◇
「真崎に、言ったほうがいいと思う?」
河合が訊いた。
「あの子、お父さんだって信じてる。本当は違うのに」
「その男の子は、なんて言ってた」
「……あの子はそれで立ってるから、壊すことないって」
あたしは、少し笑った。
「じゃあ、そいつとあたしは、気が合う」
河合は、泣き笑いみたいな顔になった。
「言わなくていい。真崎はあれで立ってる。壊す理由がない」
「……うん」
「その代わり、河合はあたしに言った。それでいい。ひとりで持たなくていい」
◇
土曜日、三人で山の神社に行った。
奥の院じゃない。石段を二百段登った、いつもの境内。
真崎が、拝殿の前に立った。
「お父さんに、報告してくる」
「何を」
「みずきに彼女ができたって」
「やめろ」
真崎は笑って、手を合わせた。長いこと、そうしていた。
◇
河合が、石段のほうへ歩いていった。
脇道の、手水舎のほうだ。
あたしは、石段の途中で立ち止まった。
見ている。いつもみたいに。
河合は、傾いた屋根の手水舎の前で、ひとりで立っていた。
あたしは、しばらくそこにいた。
それから、歩いた。
◇
河合の隣に立った。
「ここ?」
「うん」
あたしは、手水舎を見た。屋根が傾いていて、水は出ていない。それだけだった。
「……何も見えない」
「見えなくていい」
河合は、手水舎の縁に、そっと手を置いた。
「あたしは、幽霊は信じない」
河合が、こっちを見た。
「だから、河合を見てる。それでいい?」
河合は、少しだけ笑った。
「うん」
◇
帰りの石段は、真崎が前で、河合が真ん中で、あたしが後ろだった。
いつもの並びだった。
あたしは、後ろから二人を見ていた。
でも、もう、見ているだけじゃない。
◇
超常現象研究会、部員三人。
ひとりは、亡くなった父親が見守っていると信じている。
ひとりは、消えた男の子のことを、生きているかぎり覚えている。
あたしは、幽霊を信じていない。
でも、この二人が見たものは、ぜんぶ、信じることにした。
それが、あたしの、この会での役目だ。