テラーノベル
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代表合宿中の練習の合間。周りが水を飲んだりストレッチしているすきに、藍がそっと祐希の隣にやってくる。
「なぁ……祐希さん……」
「ん?」
「ちょっとだけ……手……」
「は?」
「ほら、バレへんように……こっそり……!」
祐希の指先に藍の指がそっと絡む。ほんの一瞬だけの、秘密のコンタクト。
「ったく、しょうがないな」
「へへへっ。あったかい……。これだけで元気出るわ。ね、あと1本だけ走ったらもう1回握ってええ?」
「ご褒美かよ。……いいけど」
「やった♡」
にやにや笑ってまたダッシュに戻っていく藍。その背中を見送りながら祐希はつい口元がゆるむ。
そして走り終わった藍がまたこっそり戻ってきた。
「はい、約束!俺、ちゃんと走ったで」
「おまえなぁ、子どもか」
「子どもちゃうし!……けど、祐希さんには甘えたいねん」
「……わかった。はい」
そう言って今度はほんの少し長く、祐希が指を握り返す。藍の目尻がぱあっと笑って声を落としてささやいた。
「……これあるだけで、あと何本でも走れるわ」
「調子いいな」
「ほんまやもん。俺のエネルギー源は……祐希さんやから」
「……バカ」
小さく呟いて顔をそむける祐希の耳が赤いのを藍はちゃんと見ていた。