「なに考えてんだ!?危ないことはしないって約束したじゃないか!」
アークロイヤル号の船室にルイスの声が響く。
「あのまま取引を続けても、確実に手に入るとは思えませんでした。土壇場で値を吊り上げる可能性が高く、そんなことをすれば今回の利益がまるごと無くなってしまいます」
シャーリィが真っ向から反論する。
「なら、今回は諦めたら良いじゃねぇか!『飛空石』何かに拘ってんのはシャーリィだけだぞ!?」
「確かに私の個人的な欲求によるものです。ですが、上手くいけば追加で利益を出せます」
「あの爺さんの話が本当だって保証は無いんだぞ!?いつものお前らしく無ぇよ!どうしたんだ?」
最後は心配そうに語りかけるルイス。
「確かにな、今回のはどう考えてもヤバい案件だ。しかも相手は初対面だろ?お嬢にしちゃ性急だな。何かあるのか?」
ベルモンドがやんわりと間に入る。
「ベルさんの言う通りだ。初対面の奴に『宝があるから取ってこい。かなり危険だけど頑張れ』って言われて付いていく奴なんて居ないぜ?居るとしたら大馬鹿野郎だ」
「……これが他の人なら鼻で笑う案件ですね。ハッキリとしたことは言えませんが、ラウゼン卿は嘘を吐かない」
「どうして分かるんだい?シャーリィちゃん」
「……。……私は、あの方に会ったことがあります。最初は違和感でしたが、最後に言われた大いなる母の祝福があらんことをと言う祝詞。それで確信を得ました」
「あんな奴会ったことあるかぁ?」
ルイスの疑問にベルモンドが応えた。
「いや待て、ルイ。お嬢、それはシェルドハーフェンに来る前の話だな?」
「その通りです」
「となると、貴族絡みか?」
「私の予測が正しいなら、あの方はラウゼン=ガウェイン辺境伯。幼い頃、何度かお屋敷を訪ねてきましたので、それで覚えていました」
「辺境伯、随分と大物だな。それがなんだってこんな島に」
「それは分かりません。それに、周りに居た人達も根っからの悪人には見えませんでした。多分、辺境伯の臣下ですね」
「その辺境伯とか言う奴は、シャーリィに気付かなかったのか?」
「最後にお会いしたのは、八歳の頃です。九年もあれば、覚えていなくても不思議ではありません」
「それが信用できる根拠なんだな?」
「はい、辺境伯は嘘を嫌いました。それが策略の類いであろうとも、です。今回の提案も決して嘘ではないと信じたいのかもしれません」
「シャーリィちゃん……」
「とは言え、私のわがままに付き合わせてしまって申し訳ありません。私の記憶違いだったら大損も良いところです。ですが、もし当たっていれば利益以上の存在を味方にすることが出来るかもしれません」
シャーリィの宣言に、一同はしばし固まる。
「……まあ、シャーリィの進む道が平坦なわけがないよな。面倒事に好かれてるし」
「全くだ。それに、たまには陰謀抜きで冒険を楽しむのも悪くない。それに、『飛空石』を手に入れたらお嬢がまた面白いことを始めそうだしな」
「空を飛ぶのは良いけど、怪我はしないでくれよ?流石に空の上まで助けには行けないからな?」
ルイス、ベルモンドは笑顔を浮かべながら賛同する。
「それがシャーリィちゃんだからねぇ。それに、冒険は海賊の醍醐味だよ。そこにお宝が眠ってるなら尚更さ。皆も納得するだろうね」
「……行く」
エレノアも苦笑いしつつ賛同し、アスカは静かに頷く。
「皆さん……ありがとうございます」
シャーリィは皆に頭を下げて礼を述べた。そして顔を上げると、次になすべき事を告げる。
「それでは、『カロリン諸島』についての情報を得なければなりません。エレノアさん」
「あいよ。『カロリン諸島』は『ダイダロス商会』の言う通り無人島の集まりさ。たまに海賊船何かが補給のために立ち寄るくらいだ」
「本当に無人島なんだな。エレノア、危険があるって話だったが」
「ハッキリ言ってこの辺りで危険がない海域なんて存在しないよ。『カロリン諸島』も海の魔物の巣窟。島にも魔物が居るみたいだ」
「でも補給のために立ち寄るんだろ?」
ルイスの質問にエレノアは肩を竦めて応える。
「水や食料が尽きて干からびる前に、最後の賭けで立ち寄るって意味さ。上手くいって生還できた連中も居るから、食べ物と水はあるんだろうね」
「当然そんな奴らは希だろうさ。基本的にはそこが墓場になるだけだな」
リンデマンが続く。
「そんな場所に行くのかよ」
「行くんです。それに、私達はそこらの海賊とは桁違いの実力があると信じています」
「まあ、アークロイヤル号の性能はよく知ってるしな。それに、お嬢は魔法が使える」
「その通りです。魔法剣があれば、ある程度のことはできます。まだまだ初歩段階ですけど」
「それでも魔法が使えるのは大きいさ、シャーリィ」
「よし、なら話は決まったね。早速準備に移るよ!」
一同は甲板に出る。そこでエレノアは船員達を集めて自分は木箱の上に立つ。
「海賊の流儀に従って決を採るよ。これから『カロリン諸島』へ乗り込む!」
その宣言に船員達はざわめく。
「もちろん危険は多い。だけど、彼処に莫大なお宝が眠ってるらしい。そいつを頂戴しに行くんだ!ほら、シャーリィちゃん」
エレノアに促されて、シャーリィも木箱に登る。
「目標は墜落した『飛空船』です。私が個人的に欲しいのは、『飛空石』だけ。他は興味がありませんので、自由にしてください。それと、参加した皆さんには報酬として別に金貨一枚を進呈しますよ」
シャーリィの宣言に別の意味でざわめく船員達。
「聞いたかい!?つまり、お宝は分取った奴の好きにして良いそうだ!しかも別に報酬が出る!こんな気前の良い話があるかい!?『飛空船』のパーツがどれだけ高値で売れるか知ってるだろう!?」
内戦の影響でアルカディア帝国では『飛空船』の需要も高まり、そのパーツも高値で取引されている。
「さあ野郎共!話に乗る奴は足を踏み鳴らして声を挙げな!」
「「「うぉっ!うぉっ!うぉっ!」」」
船員達が一斉に足を踏み鳴らしながら雄叫びを挙げる。その様は、宝に群がる野獣の群れ。
「よしよし。全会一致みたいでなによりだ。帝国議会でもこんな光景は見られないね!」
エレノアは満足そうに頷く。
「良いのかよ?シャーリィ。お宝を山分けにするってことだぞ?お前の取分が無い」
ルイスが心配してシャーリィに声をかけるが、彼女は平然と返した。
「元々私の個人的な要望に付き合わせてしまうんです。その働きに応じた報酬を出すのは当たり前です」
「おっ、おう。お前がそれで良いなら構わねぇんだけどさ」
「もちろんルイ達にも報酬を出しますから、安心してください」
「その辺りは心配してねぇよ、シャーリィ。お前の気前の良さは皆知ってるからな」
ルイスは変わらぬ気前の良さをみせるシャーリィに笑みを浮かべた。
「野郎共!出港だぁーーっ!!」
「「「うぉおおおーー!!」」」
「……冒険、楽しみ」
その日のうちに海賊衆は非常に高い士気を維持したまま『カロリン諸島』へ向けて出港した。
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