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エレノアだよ。シャーリィちゃんの要望を叶えつつお宝を探すためにファイル島を出た私達は、全速力で『カロリン諸島』を目指して航海している。船倉にはまだまだ余裕があるからね、お宝が手に入っても充分積み込めるはずだ。
それに、もしお宝が見付からなくてもシャーリィちゃんは気前よく報酬を用意してくれた。これで乗らない奴は海賊には向かないね。
もちろん、危険は承知の上だからね。見張りの数を増やして厳戒態勢を維持したまま私達はアークロイヤル号を走らせてる。
普通の帆船よりずっと速いからね。全速力で走れば、そこらの魔物が船に張り付くのはかなり難しい。その分燃料を食うけど、安全には変えられない。シャーリィちゃんも必要経費だと言って認めてくれたからね。有り難い限りさ。
「エレノアさん、『カロリン諸島』について詳しく教えてください」
甲板で指揮を執ってると、シャーリィちゃんが話し掛けてきた。もちろん私が暇なのを見計らって、だよ。
「そうだねぇ。聞いた話になるけど、ほとんどの島は島と言うのも難しいくらい小さな陸地さ。だからもし『飛空船』が墜落するとしても、それなりに大きな島になる。そしてそんな島が二つはあるよ。そこに無いなら残念だけど海の中さ」
「海中の調査は危険ですか?」
「魔物が少ない浅瀬なら何とか。それでも基本的には避けるよ」
一応潜水鐘はあるけどね。
こいつは大きな鐘を海に落として、内部に溜め込んだ空気で潜水夫に息継ぎさせるための道具だ。まあ、素潜りを長く出来る程度の効果はあるかな。
水中で魔物に出会したら余程運が良くないと餌になる。だから、基本的には素潜りなんかはしない。
そこにお宝があったとしてもね。
「今回に限っては、少しだけ海中も調査します。私が潜りますから、ご安心を」
「それ、ベルモンド達が認めたのかい?」
どう考えても危険じゃないか。
「安全が確認された場所限定で許されましたよ。私だって好き好んで危険を冒したいわけではないのです」
「それを聞けて安心したよ。その時はちゃんと用意するからね」
「お願いします。到着予定は?」
「今の速度を維持するとなれば、夕方には着く予定だよ。本格的な調査は明日の朝からだね。夜になる前に、安全な場所に船を隠さないといけない」
浅瀬で隠れる場所が多い入り江なんかがあれば、それが一番なんだけどね。
「襲われないために、ですか」
「お宝を見付けて、帰る手段を失っちゃ意味がないだろう?それに、アークロイヤル号の値段はシャーリィちゃんでもビックリするくらいだったと聞いたよ」
「その通りです。まだ投資した分は回収されていませんから、存分に働いて貰います」
「おう。ただし、今回は完全に土地勘が無い場所だ。指示に従って貰うよ。独断専行も無しだ。それを護れないなら、シャーリィちゃんだろうと船から降ろさない。良いね?」
「善処します」
あー、これはルイスやベルモンド辺りに釘を刺しとかないといけないね。
何せこの娘は好奇心の塊だ。目の前に冒険があってじっとしていられるような娘じゃない。ガキ大将より質が悪い。
「なにか失礼なことを考えませんでしたか?」
おっと、シャーリィちゃんには珍しいジト目だ。
「気のせいだよ。とにかく、安全第一でいくよ。危険は承知だけど、安全に越したことはないからね」
「分かっていますよ」
本当に分かってるのかねぇ?ちょっと心配だから、入れ替りでやってきたベルモンドに釘を刺した。
「お嬢を止められるのはシスターくらいなもんさ。独断専行するのを前提に考えた方がいい。突拍子もないことを急にやるのがお嬢だからな」
「それ、諦めてるだけじゃないかい?」
「達観とも言うな。まあ、危ないことは極力させないから安心してくれ。側にアスカを付けるからな」
アスカちゃんを?
「お嬢はアスカを溺愛してるぜ?側に居たら、危ない真似は控えるはずだ。それに、今回はルイの奴も居る」
「なるけどね、備えはあるわけだ」
「シスターが居たら簡単なんだけどな。『暁』もデカくなったから、留守を任せられるのはシスターしか居ない。人手不足も困りもんだな」
「妹ちゃんが居るだろう?」
「妹さんは『オータムリゾート』の幹部だからな、いつも側に居る訳じゃないさ」
頭が痛くなる問題だねぇ。うちだってどんどん商売が大きくなって、リンデマン達古参が居なきゃ潰れてたよ。
「……引き抜けないのかい?妹ちゃんを見る限り、常識的だよ。シャーリィちゃんの抑えになりそうだけど」
「『オータムリゾート』と揉めても良いならな。それに、お嬢が承知しないだろう」
「だよね」
分かってたよ、全く。
適当に愚痴りながらも航海は順調。途中魔物の群れと遭遇したけど、こっちの速度に付いてこれないみいでね。全速力で振り切ってやった。そして予定どおりその日の夕方に『カロリン諸島』へ辿り着くことができた。
「ここが、『カロリン諸島』。確かに小さな島がたくさんありますね」
甲板から周りを見てるシャーリィちゃんが感想を漏らす。
「だろう?本当に何もない場所なのさ」
周りには小さな、森すらないただの砂浜しかないような島がたくさんある。座礁する危険があるから注意して進むことになるけど、視界は悪くない。
「船長、あの島が一番大きいな」
リンデマンが指差した先は、ちょうど『カロリン諸島』の中心にある島だ。大きな島とは言えないけど、小高い山と森が見える。周りは砂浜だけで、上陸するのには困らないね。
「……なにかある」
そうして見てると、アスカちゃんが呟いた。この娘は勘が鋭いからね。なにかがあの島にあるんだろうなぁ。
「停泊できる場所を探すよ!警戒を怠るな!操舵手!浅瀬に乗り上げるんじゃないよ!」
「機関微速!停止に備えとけよ!ハーフセイルだ!」
リンデマンの指示で帆の半分を畳んでゆっくりと海を進む。浅瀬があちこちにあるから危なくて仕方がない。
「船長、入り江みたいな場所は見当たらないな。あの島の側が一番見晴らしがいい。それに、浅瀬ばかりだ。警戒もし易い」
「この際贅沢は言ってられないね。この辺りに停泊するよ!見張りを怠るな!」
周りにある小さな島には、なにかの残骸が打ち上げられてる。海にもなにか沈んでるな。空戦が起きたって話は本当みたいだね。
「あの一際大きな島を調査したら、周囲も可能な限り調べましょう。どうやらお宝には困らないみたいですし」
ほら、シャーリィちゃんが目を輝かせてる。まあ、獲物が多いのは大歓迎だから文句はないよ。
私はシャーリィちゃんに感化されて逸る船員達を落ち着かせながら、明日からの探索に想いを馳せた。
……何事もなくってのは贅沢なんだろうなぁ。