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「は? なんて言った?」
金曜日の終業後、私が作ったご飯を残さずたいらげた桶川さんは、茶碗を洗いながらぽそっと言った私の言葉に、意外にもきちんと反応した。
「だから。ここにご厄介になるのは、次のアパートが見つかるまでにします」
最後の茶碗を水で流し、水切りカゴに入れて終了。後は自然乾燥に任せよう。
手を拭きながら、後ろに立っている彼のほうを向く。
相変わらず威圧感のある身長だ。大体、暇なんだったら手伝ってくれればいいのに、他に何かしてるなら気にもならないけど、傍観してるとか一番腹の立つやつじゃん。
そんな私の内心には気づかず、桶川さんは目を細めて冷気を醸し出し始めた。
怖い、寒い。そういう怒り方やめてほしい。
「俺はここに住めって言っているだろ? お前、金ねぇんじゃねーの」
努めて明るく、私は続ける。
「でもほら、前のアパート解約すれば、家賃分は月々浮かせることができるかなって。荷物はその間、貸倉庫に入れればいいし。ごはんも桶川さんがよく奢ってくれるので、早く貯められそうって思うんですよ」
「だったらもう奢んねぇぞ。……つーか、なんだよ急に。なにか不便なのか? なんで急に出ていく気になってんだよ」
「でも、やっぱりいきなり同居するとかおかしいでしょう。私たち付き合い始めたばかりだし、適度な距離ってもんがあると思うんですよ。ずっと一緒にいると、飽きるのが早いって言うじゃないですか」
「ヤラせもしない女のどこに飽きろって言ってんだよ! まだまだ興味深々だっつの」
「もう! エロ発言やめてくださいよー!」
そうなのだ。
告白し合ったのだから一応私たちは恋人同士になったわけだし、大人同士なんだからさっさとキス以上の行為に及んでもいいのだけれど、なんというか、一緒にいると桶川さんの凄さが目について、むしろ私の心は引いていくわけ。
桶川さんは雰囲気を出してくるけど、ことごとく私がその雰囲気をぶち壊し、今のところ健全な同居生活を送っている。とはいえ、のらりくらりごまかすのもそろそろ限界だ。私は、結論を出さなきゃならない。
コメント
1件
うわあ、桶川さんの「ヤラせもしない女」発言、笑ってしまいました(笑)でも主人公が「適度な距離」を大事にしようとしてるのに、桶川さんはもう一緒に住む前提で来てるところが、もうね…甘いのか喧嘩してるのか分からないんですけど、この絶妙な温度差がすごく好きです。結論を出さなきゃって思う主人公の気持ち、分かるなあ。