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「止まれ!」
霧人の前に赤の警告灯が瞬く。
ひとつや二つではないその光を
霧人は黙って見返す。
「手にしている武器を捨てろ!」
どこからか男のがなり声が聞こえる。
霧人に叫んでいるのは
間違いないようだ。
「もう一度言う!武器を捨てろ!」
霧人は脇差をもう一度しっかり握る。
「抵抗すれば撃つ!!」
抵抗か・・・
霧人はチラッと左右の林を伺う。
目前の道は多勢。
しかし左右は罠かと思うほど
隙だらけであった。
仕方ない、跳ぶか
無意味な衝突は避けたい。
これ以上関係のない人間を
切ったり消したりはしたくない。
霧人は脇差の手にぐっと力を入れると
刀身を抜いた。
刹那、警告灯の赤が全て消えうるほどの
白い光が辺りを包んだ。
その光に乗じて霧人は大きく左に跳んだ。
大きな楠が霧人を受け止める。
「なんだ!どこ行った!」
「探せ!まだ近くにいるはずだ!」
「容疑者は刃物を持っている!気をつけろ!」
下は蜂の巣を突いたような騒ぎだ。
しばらくここで待つか。
霧人は楠の洞(うろ)の中に腰を落ち着ける。
跳んだ瞬間、躰を最小限まで縮めて
人目につかないよう変幻していた。
この業が凡たる人々を惑わせ、
怖がらせ、
攻撃の口実にされていることは
重々骨身に染みている。
いつの時代も人は己と違う者を受け入れない
これが霧人が時空を旅して得た悟りである。
魔の力を凌ぐ技倆は人々を混乱させ易い。
それがたとえ
令和
の世であっても。