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「どう思う?」
鹿島大輔(かしまだいすけ)は
ホワイトボードから目を離さず呟いた。
「・・・まだわかりません」
一晴陽(にのまえはるひ)は、
その細い体の震えを鹿島に悟られないよう
両脚に力を入れて立っていた。
そんな晴陽の様子に気がついていないのか
鹿島はトンと晴陽の躰を
ホワイトボードの前に押し叩いた。
「どう思う?」
もう一度、ゆっくり呟く鹿島を見て
晴陽は観念して答える。
「反応は微かです。」
その言葉に、鹿島は満足したように頷いた。
「結構なことだ。」
鹿島は一枚の写真を手に取り、
晴陽の目前に突きつける。
「昨夜現れた刃物を所持していると思われる、
連続切り裂き殺人容疑者の少年の遠影写真だ。
よく頭に叩き込め。」
晴陽はおずおずと写真に手を伸ばす。
その手を鹿島はグイっと掴むと
「覚えるのは少年の顔じゃない。
腰に差している刀の方だ。」
と晴陽に告げる。
「お前が微かに反応を感知した、
この脇差をよく記憶しろ。
死にたくなかったらな。」
晴陽はその言葉に黙って頷く。
晴陽は現職の警察官であり、
現職の忍者でもあった。
忍者と言っても、時代劇に出てくる典型的な
忍術を使うそれではない。
過去脈々とその時代の権力者を陰で支え
危険な事柄からその身を守護するため、
その鍛えられた身体能力を駆使して
敵からの攻撃を防ぐのと同時に、
季節や星を読んで決断時期を知らせ、
大小様々な道標を対象者に授けることも行う。
そうして結局は日本という国全体を守るという
とても重い使命を何百年も背負ってきた。
そんな忍者一族の13代目当主である晴陽は
歴代の当主の中でもずば抜けた能力があった。
そしてそのことを知るのは警察署内では
先程晴陽に写真を突きつけていた男、
晴陽の上司であり12代目当主の息子、
鹿島大輔だけだ。
晴陽の能力を認め、
13代目をすんなり譲った鹿島の懐の深さと
晴陽をも凌ぎ
当代一と謳われる究極の守護術を放つ力量は
穣一族の誇りであった。
「穣」
この名を持つ一族が
忍びとして日本を守っている。
そして、晴陽と鹿島もまた、
真名は「穣」という。
一も鹿島も敵を欺く、隠し名だ。
晴陽は、手にした写真を再び見遣った。
少年とも少女とも言い難い、
細い線の綺麗な子が持つ脇差。
水に濡れたような光を放ちながらも
闇に溶け込んで見えなくなるような、
漆黒の刀身。
まるで黒い龍がそこにいるかのような、
ねっとりとした気配は
ただの刀ではないことを物語っている。
魔刀。
穣一族が最も恐れる、魔の気配をもつ刀。
晴陽はいま一度、
己の背筋をピンと伸ばした。