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グレンのヘアゴムネタです
始まります
「よっ」
「ひゃあっ?! 先生?!」
「あ、先生! おはようございます」
「ん…グレン、おはよう」
急に後ろからグレンに声を掛けられてシスティーナの体がびくんと震える。
びっくりしたのはシスティーナだけで、ルミアとリィエルは驚いた様子もなくいつも通りグレンに挨拶をした。
「ふっ、白猫驚きすぎだろ」
「先生が急に後ろから声を掛けるからじゃないですかっ!」
ふかーっ!と毛を逆立てた猫のようにグレンへ威嚇するシスティーナをルミアが優しく宥め、リィエルが首を傾げる。
そんな三人の様子にグレンは笑みを浮かべた。
「ところで、先生?」
「ん? どうした?」
「今日は髪を括ってないんですね」
ルミアがグレンの異変に気付く。
そう、今日はグレンが髪を括っていないのだ。
「あぁ、これな? いやぁ…髪括ろうとしたらゴムが切れちまってよ」
どうやら、いつもグレンが髪を括っていた赤いヘアゴムが切れてしまったようだ。
「あら、そうなんですか?」
「おう。新しいヘアゴム探さなきゃな 」
今日は髪を下ろしている為、いつものしっぽのような髪ではなく、少し梳かされたボブくらいの長さの髪だ。
「先生の髪って意外と長いのね」
グレンの下ろされた髪を見つめながらシスティーナがぼそりと呟く。
「んあ? そうか?
まぁあんまり切ってねえしな」
自分では気づかないもんなんだな、と髪に手を通しながらグレンがシスティーナの呟きに答える。
まさか聞かれているとは思っていなかったのか、システィーナは顔を赤くして俯いてしまった。
そんなシスティーナの隣ではリィエルが首を傾げている。
「でも先生、いつもと違う髪型で似合ってますよ」
「そうか〜? ならいいんだが」
ルミアの褒めるような言葉にグレンがほんのり顔を赤くして照れくさそうに答える。
本人は言っていないが、えへへ、と言っているような表情をしている。
「さてと、俺は先に行くわ。お前ら遅刻すんなよ」
「あ、はい! また後で!」
「おう」
グレンは朝から何やら用事があるのか、三人娘に遅刻するなよ、とだけ言ってそそくさと学院へ走り去ってしまった。
「ふふ、先生いつもと違ってかっこよかったね?」
「へあっ?! そそそ、そんな事ないんだからっ!」
「ん、髪下ろしたグレンは珍しい」
ルミアがすっかり顔を赤く染めてしまったシスティーナを茶化すように声を掛けると、システィーナは驚いたように声を裏返して強がってしまう。
軍でよく行動を共にしていたリィエルでもあまり髪を下ろした姿は見なかったのか、リィエルものくこくとシスティーナの隣で頷いている。
「お前ら席に着けー」
授業を始めるぞ、といつものように教室に入ってきたグレンを見て生徒達が目を丸くする。
「あぁ、これな? ヘアゴム切れちまったから今日は髪下ろしてんだ」
生徒達が目を丸くした理由に気付いたのか、グレンが髪をくるくると指に巻き付けながら生徒達の胸中にある疑問に答えるように言った。
「なぁ白猫」
「なんですか?」
今日の授業が全て終わり、放課後になった。
グレンを教室に引き止めて質問をしていたシスティーナがグレンの指摘をメモし終えると、グレンがシスティーナに声を掛ける。
「お前、ヘアゴム持ってねえ?」
「へ、ヘアゴム…?
あったかしら…」
ごそごそとスカートのポケットやらをまさぐるシスティーナだったが、やがて諦めたように顔を上げて首を横に振った。
「すみません、持ってないです…」
「いや、いいんだ。持ってたら貰えねえかなって思っただけだし」
申し訳なさそうに頭につけた猫耳のようなリボンをしょぼんと垂れさせて落ち込むシスティーナ。
そんなシスティーナを宥めるようにグレンが首を横に振る。
「質問はこれで終わりか?」
「はい。ありがとうございました!」
「システィ、終わった?」
システィーナがグレンに質問をしている間に図書室へ行っていたルミアとリィエルが丁度帰ってきた。
「えぇ、終わったわ」
「じゃあ帰ろっか!」
「っと、もう暗いし送るぜ」
「わぁ、いいんですか?! ありがとうございます!」
「ん、グレンに送って貰う」
グレンが送ると言うと、ルミアとリィエルが目を輝かせながら答える。
「じゃ、じゃあお願いします」
「ふふ、システィったら素直じゃないなぁ」
「ルミアッ?!」
不貞腐れたように言うシスティーナに、ルミアが茶々を入れると、システィーナが顔を赤くしてルミアの口を塞いだ。
「…? なにやってんだ?」
そんなシスティーナとルミアの遣り取りに、グレンが首を傾げる。
「なっ、なんでもないですっ!」
「あ、そういやルミア、リィエル」
「はい、なんでしょうか?」
「ん…なに?」
「お前らヘアゴム持ってねえか?」
「ヘアゴム…私はリボンしか持ってないですね」
「ん、わたしのリボンあげる」
「あ、いやそれは大丈夫」
リィエルが自分の髪を括っていた赤いリボンを解いてグレンへ差し出す。
そのリィエルのリボンは受け取らず、ふるふると拒否するように首を横に振った。
からんからんころん、とバーの扉についたベルが小気味良い音を鳴らして客の来店を教える。
いつものバーに訪れたグレンは、迷わずいつも情報交換をする奥の個室へと足を運んだ。
「…遅い」
「すまんすまん、白猫達の勉強教えたりしてたら遅くなっちまってよ」
「遅れた理由をフィーべル達に押し付けるか」
奥個室に足を踏み入れると、アルベルトがもう既に席に着いていた。
「ところで、だが」
「ん〜? あ、マスターいつもの」
「なぜお前は髪を下ろしているのだ?」
「あー、これな? ヘアゴム切れちまってよ」
「ヘアゴムか…それなら…」
アルベルトが自身の宮廷魔導士団の礼装のポケットに手を突っ込んでごそごそとまさぐる。
すると、アルベルトの魔導士団の礼装のポッケから出てきたのは一本の長いゴムだった。
「…なんだ? これ」
アルベルトの手に引っ掛かっている長い琥珀色のゴムを手に取り、グレンがまじまじと見つめる。
どうやら髪に巻いて使うタイプのヘアゴムのようだ。
「貸せ。髪を結ってやろう」
貸せ、とグレンの手の中にあるゴムをひったくふようにして取る。
素早くグレンの後ろに立つと、グレンのボサボサの髪を手ぐしでゆっくり梳かしていく。
手袋を付けたままだとやりにくかったらしく、一旦髪を梳かす手を止めると、手袋に手を掛けて乱暴に脱ぎ捨てた。
また髪を梳かす作業に戻ると、アルベルトはグレンが気持ち良さそうに目を細めているのに気付く。
どうやらアルベルトの丁寧な手ぐしが相当気持ち良かったらしい。
既にこくりこくりと舟を漕ぎ始めている。
「…おい、グレン。終わったぞ」
「…ん、んぅ…ん、?」
アルベルトに声を掛けられて、闇に落ちていたグレンの意識が浮上する。
ゆっくりと瞼を開けると、そこには顔に押し付けられるように持たれた手鏡。
「あー…なんだっけ、髪結ってくれてたんだっけか」
自身の後ろに立つアルベルトを見上げながら、先程まで自分が何をしていたかを思い出していく。
再度目の前にある手鏡を覗き込むと、いつもは乱雑に括られているグレンの髪が綺麗に梳かされ、丁寧に結われてつやつやしている。
そんな自分の髪の変わり様に、グレンが目を丸くしていると、アルベルトから声が掛かる。
「今日だけだ。毎日はやっていられないからな」
それもそのはず。
なぜなら、今のグレンの髪型はグレン一人じゃ絶対にできないような髪型なのだから。
丁寧に編み込まれた横髪を後ろにまとめ、一旦ヘアゴムで括る。
その括った先の髪にもまた編み込みをする。
単純な髪型だが、手先が不器用なグレンには到底毎日するとなったら絶対にしたくない髪型だ。
「ほえー…俺、こういう髪型結構似合うんだな」
「馬子にも衣装とはよく言ったものだな」
「俺はそんな着飾らなくても十分かっこいいだろうが!」
「それはどうだかな」
「おいっ!!」
見違えるほどの自分の姿にグレンが思わず感嘆の声を零すと、相変わらず後ろに立っているアルベルトが珍しく茶化すような声色でサラッとグレンを罵倒する。
その後は予想通り、いつもの痴話喧嘩が始まったのだった。
皆が昼食を食べ終えた昼放課。
三人娘とグレンが、いつものように廊下を歩いている。
「そういえば、先生?」
「なんだ?」
「そのヘアゴム、誰から貰ったんですか?」
「ん〜? ふっ、内緒だ」
その日から、グレンが髪を解いてはその琥珀色のヘアゴムを大切そうに目を細めて見つめている様子をよく見るようになったのだそう。