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同時刻 天界
神と天界軍の死体が地面に転がっている中を、釈迦如来と阿弥陀如来は静かに歩いていた。
「これじゃあ、処刑場のようだね阿弥陀如来」
「鬼達がやってた、ここには何しに来たの?」
「”彼等の仲間を作る為”だよ。なぁ、毘沙門天、吉祥天」
そう言って釈迦如来は後ろを振り返り、変わり果てた”二人”の姿に視線を送る。
顔に張り付いた能面、枝のように細くなった体は黒色に変色し、歪に伸びた両足を引き摺りながら釈迦如来の後ろを歩いていた。
二人の愛の象徴を表すように鎖に繋がれた首輪、美しかった金色と白髪の髪も、泥水を浴びたように醜いものに変わり、着ている服でさえボロボロの状態。
「あ、ああああ…」
「ゔぁ、ゔぁゔぁゔぁ…」
「神力を返してあげたのに、話せなくなってしまったか。まぁ、話せない方が都合が良い」
「釈迦如来、コイツ明王じゃない?」
阿弥陀如来は明王の髪を乱暴に掴み、釈迦如来の前に息のない明王を差し出す。
「死んでいても尚、神力が体内に残っているのか。あはははっ!!!明王、君は面白い男だ。ふふ、私の武人として|相応《ふさわ》しい」
釈迦如来が明王の肩に触れると、心臓部分から光り輝く赤色の光の玉が飛び出て来た。
炎のようにメラメラと赤い光が燃え上がり、釈迦如来の手のひらが燃え尽きてしまそうな程の熱量だ。
「始皋玉鳳天炎|《しこうぎょくほうてんえん》」
ゴオオオオオオオッ!!!
釈迦如来が呪文を唱えると、飛び出した光の玉が明王の体に戻りながら光の炎を体に纏わせる。
光の炎が燃え尽き、現れた明王の姿は大きく変わっていた。
紫色の鎧を体に纏い、毘沙門天達と同じように顔に能面が貼り付いている。
「お前の名前を言ってみろ」
「…、明王」
「お前の主人は誰か言ってみろ」
「釈迦如来様デス」
明王は釈迦如来の前に跪きながら質問に答えていく。
この術を受けた対象者は生前の記憶を消され、術者の命令を聞くだけの屍人になってまう*
「釈迦如来、早くやらないと美猿王達に追い付けなくなるよ?」
「あぁ、そうだね。手取り早くまとめてやろうか」
阿弥陀如来の問い掛けに答えながら死体達の真ん中に立ち、力強く手を叩いた。
パァァァァンッ!!!
ゴオオオオオオオッ!!!
釈迦如来が手を叩いた瞬間、既に死んでいる天界軍の隊員や神達の体が、明王の時と同じように体に光の炎が覆い尽くす。
ガシャンッ、ガシャンと音を鳴らしながら深刻色の鎧が纏われる。
上から糸が垂らされ、操られている操り人形のように力なく立ち上がり、屍人達の顔には般若《はんにゃ》の面が太い糸で縫われていた。
天界の空は紅色に染め上がり、以前の活気の満ちた天界とは違う風景が広がる。
グチャクチャグチャ…ッ。
巨大な芋虫達が空を引きちぎりながら、釈迦如来達がいる天帝邸付近に着地を始めた。
ドスッ!!!
「「「キイエエエエエエエエエエエ!!!」」」
ズシャッ!!!
大きな奇声を上げる芋虫達だったが、阿弥陀如来が素早く動き、芋虫達の体を斬りつけていた。
ブシャアアアアアア!!!
勢いよく紫色の血が噴き出し、頭上から血液の雨が降り続ける。
ザァァァァア…!!!
釈迦如来は自身の体に血がつかないように、自身の体の周りに薄い結界を張り、血液の雨の中に佇《たたず》む阿弥陀如来に視線を向けた。
「血が飛び交う世界に、君によく似合ってるよ?阿弥陀如来。戦の中にいる方が、君は君らしくいられるだろう?」
「よく分からない。私は釈迦如来が喜んでくれたら、それで良い」
「知っているよ、君が刀を手に取る時は私の為だからね。行こうか、私の最高の武人達」
ガシャンッ、ガシャンッ!!!
釈迦如来がそう言うと、武装した明王と神、天界軍達は釈迦如来の後ろに並び出す。
毘沙門天と吉祥天の二人もまた、釈迦如来の命令通りに整列した列に加わった。
「釈迦如来、私達はどこに向かうの?」
「奴と私達の目的は同じ天竺だが、恐らく天竺の手前の梵衍那国《はんえんなんこく》だろう」
阿弥陀如来の問いに答えた釈迦如来と同じタイミングで、美猿王も星熊童子の問い掛けに答えていた。
***
平頂山を出た美猿王一行は、高昌国《こうしょうこく》に訪れて、天竺に向けての長旅に備える為、夜の砂漠の中で焚き火を囲むよに座っていた。
*高昌国とは、中国南北朝鮮時代から唐時代にかけて、5世紀中頃から約200年間にわたり,中央アジアのトゥルファン(新疆(しんきょう)ウイグル自治区の吐魯番地区)を支配した王国。 五胡十六国の一つ,北涼の滅亡に伴い,その王族である沮渠無諱《しょきょむき》が中央アジアに西走し,442年にトゥルファンを占拠して涼王を称したのに始まる。5世紀中頃から約200年間にわたり,中央アジアのトゥルファン(新疆》しんきょう》ウイグル自治区の吐魯番地区)を支配した王国。
タクマラン砂漠の手前に位置します*
「本当に砂しかないねぇ」
そう言いながら温羅は煙管を咥えたまま、周りを見渡す。
「無天経文に偵察に行かせけど、この先の道なりは殆ど砂漠よ」
「はぁ?マジかよ、砂の中を歩くのは勘弁だぜ?」
黄泉大津神の言葉を聞いた金平鹿は、舌を出して大袈裟に反応する。
「ふふ、緑来は良い夢を見ているのね。良いね?いつまでも幸せな夢が見れて」
「姫様のお陰っだ、また陽春に合わせてもらえたんだから」
星熊童子の問い掛けに、骸骨を愛おしそうに撫でながら緑来は答えた。
美猿王の右隣に鱗青を四つ這いの状態にさせ、その上に座ってる牛頭馬頭が、口を閉じている美猿王に声をかけた。
「王っ、何考えてるんだ?」
「君、王が考え事してるのが分かったんだ?短い間柄ですごいね?」
「え?凄い?へへっ、やっぱりな!!!王様の嫁様が言ってるんだからな」
「なんで、君が偉そに威張るんっだよ…」
星熊童子に褒められた牛頭馬頭の事を見ながら、縊鬼は呆れながら頬杖をする。
「一つ、寄りたい所がある」
火柱を眺めながら、美猿王は静かに口を開く。
いつもと少し雰囲気が違う事を察知した鬼達、先人を切るように口を開いたのは温羅だった。
「寄りたい所?へぇ、珍しいな。王が寄り道なんてなぁ?」
「温羅、王に対して失礼な言葉使いをするな」
「夜叉、俺達は王に使える従者でもあり。家族でもあんだぜ?こうしてよ、旅みたいな事をするなんて、あの頃は思ってもなかったぜ」
「それはそうだが…」
温羅の言葉を聞いた夜叉は、ぐうの音も出ない様子を見かねた星熊童子が話出す。
「ふふっ、王が行きたい場所に私達はついて行くだけだよ。場所なんてどこでも良いの、王がいる場所
ならどこでも」
「お前等は昔から変わらないな、俺の決定に疑いもしない」
「だって、王が今までしてきた事は全て正しかったもの。でも、どこに行くのか知りたい気持ちもあるよ?」
そう言いながら、星熊童子は美猿王の腕に抱き付く。
美猿王は星熊童子の頭を優しく撫でながら、星熊童子
の問い掛けに答える。
「梵衍那国《はんえんなんこく》、天竺の手前の国だ。そこで、この目で見ておきたい物がある。夜明けと共に、ここを立つ。そろそろ、俺の事を追い掛けて来る頃だろう」
*梵衍那国、梵衍那国《はんえんなこく》は、現在のアフガニスタン・バーミヤーン渓谷に存在した古代仏教王国(3〜7世紀頃)です。玄奘の『大唐西域記』に記され、東西交通の要衝として栄えました。高さ55mと38mの2大石仏(2001年爆破)や約1000の石窟、壁画で知られる、中央アジアの仏教美術の宝庫でした*
「まさか、王に生意気な事を言った悟空ってガキ達か!!!」
美猿王の言葉を聞いた金平糖鹿は、牙を剥き出しにして怒りを表す。
「無天経文を取り返しに来るんだろう、奴等は魔天と有天の二本を所持しているからな。当然、残りの三本を持っている俺を追い掛けて来るだろう?そう思うだろ?天之御中主神」
美猿王は手に二本の経文を持ちながら、天之御中主神に尋ねる。
「何故、俺に話を振るのだ。初めから、俺の言葉など聞く気はないくせに」
「あぁ、今のお前は今世では脇役にすらなれていない。まぁ、これがお前に課せられた罪なのだろうな」
「どう言う意味だ。俺に課せられた罪?さっきから黙って聞いていれば、誰に物をいっ…!!!」
怒りに身を任せて言葉を吐こうとしたが、天之御中主神は美猿王の瞳を見て口を閉ざした。
美猿王の光の宿さない赤い瞳は、天之御中主神自身を惨めに思わすのに十分な視線だった。
天之御中主神は自分が生み出した存在に、自分の存在を態度で否定されているのだと悟る。
いや、悟るしかなかったのだ。
シュンッ!!!
その瞬間、天之御中主の首元に一筋の赤い光が走る。
「なっ、は?」
ブシャアアアアアア!!!
天之御中主の首元から勢いよく血が噴き出し、そのまま横に倒れ込んだ。
ドサッ!!!
「は、はははっ?な、なんだ?こ、こっれは?血、血か?俺の血なのか?」
震える指で自身の体から溢れ出ている血を拭い、涙でボヤける視界の中で美猿王だけが写っていた。
美猿王の細長い指に血の糸が絡み、ゆらゆらと空中を舞っているのが見える。
「お、まえがっ、やったのかっ」
「気付いてないとか馬鹿すぎ。アンタの役目は終わったから、首を斬られたんだよ」
「役目が終わった…?」
「は?まだ、分からないの?経文を持ってきたでしょ?それで終わったでしょ?アンタの役目は」
縊鬼の言葉を聞いた天之御中主は怒りで体を震わせ、黒い靄が体を覆って行く。
ザッ!!!
刀を持った鬼達は一斉に美猿王の前に立ち、戦闘体勢に入る。
美猿王は恒天経文を手に取り、側にいた夜叉の肩に手を置いた。
「大昔に飽きる程に見た靄だな、天之御中主神。お前等、少し後ろに下がれ」
「王、この男が何をするのか分からない。いざと言う時に俺達が盾になれない」
「その必要はない。何故なら、俺に”当たる事はないからだ”」
「それは一体…」
不思議そうな顔をしてる夜叉を押し除け、美猿王は軽い足取りで天之御中主の前に立つ。
「俺に当たる事がな、いだと?笑わせるなぁあああ!!!!」
天之御中主が叫ぶと、黒い靄が巨大な獣の形に変形し、獣が大きく口を開けて美猿王に飛びかかってきた。
「グアアアアアアア!!!」
シュルルルッ!!!
美猿王の持っていた恒天経文が解かれ、中に書かれていたであろう文字が浮き上がる。
ドンッ!!!
浮き上がった文字が一つの塊になり、美猿王の目の前に光り輝く頑丈な盾が出現し、黒い靄の獣は盾に向かって体当たりしたのだが…。
ボンッ!!!
盾に当たった瞬間、黒い靄の獣が粉状になって消え去ってしまった。
その光景を見た天之御中主神の表情が、絶望の色へと染まって行くのが見て分かる。
「状況までもが、お前の味方をしたと言うのか…?
「動脈を斬られたのに、まだ生きているのか。虫のようにしぶとい野郎だ」
美猿王はそう言いながら、天之御中主神の前に言葉を吐きながらしゃがみ込む。
*恒天経文とは、「未知」や「無限」を司どり、『防護』に属する*
「俺の言った意味が分かっただろ?俺には攻撃は当たらない。お前は古い存在に落ちたんだよ」
シュルルルッ。
血の滲んだ袖から糸状の血液が伸び、天之御中主神の手足に何本の血液の棒が突き刺さる。
グサグサッ!!!
「ヴッ!!?」
「今まで見下して来た俺に、見下される気分はどうだ?」
「はぁ、はぁ…、調子に乗るなよ…、美猿王。お前が
存在出来ているのは、誰のっ、おかげだと思ってんだ!?」
天之御中主神が、ドンッと力強く砂を叩きつけた。
美猿王は表情を変えずに、天之御中主神の放った言葉を聞き流す。
ジワジワと体の血液が傷口から流れ出し、全身のからだが冷たくなって行くのを、天之御中主神は感じていた。
ゆっくりと確実に訪れて来る死を、天之御中主神は争う事が出来ない。
天之御中主神の視界が暗闇に染まり、手探りで美猿王の靴を探し、ようやくの思いで触れる。
「はぁ、はぁ…。俺を、殺したいんだろ?だったら、早く…、早く殺せ」
「簡単に死なせてやんねーよ、お前の罰にならないだろ」
「頼む、殺してくれっ…、死を待つのは、耐えらない」
「そいつは困ったなぁ?耐えてもらわないと困る。俺はここで、お前が死ぬのを見届けると決めたんだよ」
美猿王の言葉を聞いた天之御中主神は、言葉を失う。
「お前なんか…、作李出さなければ良かった」
「「「っ!!!」」」
天之御中主神の心無い言葉を聞いた鬼達は、表情が怒りの色に染まって行く。
「テメェ、ふざけた事言ってんじゃねーぞ!?」
「やぱっり、すぐ殺そう。死んでくのを待つ価値なんてないよ。こんなのが、神様なんて駄目だよ」
「金平鹿と縊鬼の意見に同意だ。死ぬのを待つなんて、コイツには贅沢過ぎる。もう二度と生を持つ事を願わないように、徹底的に痛めつけてから殺すべきだ」
金平鹿と縊鬼、夜叉の三人は刀を抜き、天之御中主神の周りを取り囲んだ。
「この男は俺が生を受けてから、こんな感じでクズを轢き散らかしてたぜ?」
「だけどよ、王。コイツは言っちゃいけねー事を言ったんだ。マジで、首でも落とさねーと気がすまねぇ」
温羅はそう言いながら、隣にいる美猿王に視線を向ける。
「滅多に怒らないお前が怒るくらいな事を、この男は言ったのか。ははは、そいつは面白い。死ぬ事を実感させる事が、この男にとっての最大の罰になる。ジワジワと死への恐怖が心を蝕む。だから殺すな、これは命令だ」
美猿王の命令を聞いた鬼達は、今にも振り翳しそになった刀を持った腕を下ろす。
「俺も、お前なんかに作り出されたくなかったぜ」
宣言通りに美猿王は、天之御中主神が死に行く様を鬼達と共に見届けていた。
焚き火の炎が燃え尽き、真っ暗な砂漠の中、天之御中主神は目を開けたまま息絶えたの確認する。
冷たくなった体に触れ、美猿王は星熊童子の方に視線を向けた。
シュンッ!!!
ブシャッ。
星熊童子は美猿王の意図を読み取ったように、天之御中主神の首を斬り落とした。
***
下界 平頂山 源蔵三蔵 二十歳
ゴーン、ゴーン、ゴーン、ゴーンッ!!!
「「っ!!?」」
何処からともなく銅鑼《ドラ》が叩かれる音が鳴り響き、晴天の空に巨大な目玉の化け物が映し出される。
「何だ、あの化け物!?」
「あれは化け物なんかじゃない、神だ」
「神!?あれが!?って、その目は?」
驚きながら観音菩薩の方に視線を向けると、観音菩薩の瞳に五芒星が浮かび上がっていた。
「言っただろ?僕は未来を見る事が出来るって言ったでしょ?今、この目に写し出されてるのが、まさに未来に起きる事だ」
「何が見えたんだ?」
「今、僕達の前に現れたのは化け物なんかじゃない。僕達の天敵となる神だ。美猿王と天帝の事を、裏で操って物語を進めていたんだ。今世の出来事全てが、アイツが仕組んでいだった」
「今世の出来事全てが…?」
俺達の前に現れた存在こそが、全ての元凶だって事なのか?
ドォォォーンッ!!!
「「「っ!!?」」」
体に重圧が掛かり、押し潰さような感覚がした。
【俺の遊びを邪魔する気カ?猿共】
この謎の重圧は、あの神とやらがしでかしている事で、俺達に言葉を投げ掛けてるのも…。
だが、視線俺達が居る方向とは別の方向に向けられてる。
もしかして、悟空達が居る方向に視線と言葉を放ってるのか?
「邪魔すんなって言いに、わざわざ来たのか?神ってのは、どいつも己の事しか考えてねーな」
「っ…」
タタタタタタタタタッ!!!
「三蔵!?」
悟空の声を聞いた瞬間、俺は観音菩薩の呼び掛けに答えずに走り出していた。
どうして、俺の心が高鳴っているのか分からない。
いつだって、悟空は俺の予想外な言葉を言っては行動する。
今だって、悟空がどんな表情をしているのか想像出来るんだ。
【その目、気に入らないナ。どこの猿不是ガ】
「他所の国の神がでしゃばってんなよ。その猿の顔を、わざわざ見に来たんだろ?邪魔されるんじゃないかって、心配になったんだろ」
【よく、口が回ル。能書を垂れていられるのも今のうちダ】
「シヴァだったな。首洗って待ってろ、それから俺の顔をよく覚えろ。お前の天敵となる男の顔をな」
口角を上げ、相手を馬鹿にするような目付きをして、中指を太々しく上げる。
あぁ…、やっぱり、悟空は誰よりもカッコイイ。
いつだって悟空は強気で、多くは語らずに、俺達のよりも一歩先を歩いていた。
今も、悟空は俺を置いて歩き出そうとする。
悟空の瞳には絶望なんか写っていない、強い意志の光があった。
【その言葉、言った事を後悔する日が来るゾ】
シヴァと呼ばれた神の姿が薄れ、晴天の空から消えて行く。
「やっと泣き止んだのか、三蔵」
悟空は振り返らずに、前を向いたまま俺に言葉を投げ掛けた。
「なっ!!!あ、うん…。悟空、さっきはごめん…」
「ガキの我儘にいちいち腹立っても仕方ないからな、反省したんなら良いわ」
「言いそびれたけど、左目は大丈夫なのか?」
俺の言葉を聞いた悟空は、ゆっくりと振り返る。
牛魔王との戦いで負った痛々しい切り傷の左目、誰が見ても視力は明白だ。
「お、俺っ、医療術なら多少は使えるからっ!!!傷を…」
「しなくて良い、治す気もないからな」
「治す気がないって…、どうして…」
「左目は牛魔王と爺さんの所に置いてきたからだ」
悟空はそう言いながら、閉ざされた左目にソッと触れる。
「観音菩薩、シヴァのやっている事が見えたんだろ。今回の親玉がシヴァの糞神だ」
「あぁ、勿論だ。天竺に待ち構えている事もね。どうするのか考えはあるのかい?」
観音菩薩の言葉を聞いた俺を含めたメンバーは、一斉に悟空に視線を向けた。
緊張感が流れる中、悟空は「ぶっ殺すだけだろ」と答えた。
「はははっ、悟空らしい答えだな。敵が明白になっただけで、俺達四人の目的地は変わらないだろ?」
「俺達のリーダの意見を聞いた方が良いんじゃねーか?」
「泣き過ぎて目を晴らしてる三蔵の御意見は?」
沙悟浄と猪八戒の二人は、ニヤニヤしながら俺に話を振ってくる。
「この先、誰も死んでほしくないんだ。甘い事言ってるのなら自覚してる、これから大きな戦いが起きるのにさ。俺は誰も傷付かず、悲しい結末にはしたくない」
俺は思ている事を素直に話した。
「三蔵のやろうとしてる事は、棘《イバラ》の道だ。美猿王と釈迦如来の二人は、目的は同じだが最終地点は違う。良心のある言葉で語られても、簡単には頷かないだろうな」
「どの道よ、この世界は終ろとしてんだ。好きなようにいたら良い、俺も好きな事をさせてもらうだけだ。哪吒、お前もな」
「ふ、悟空にそう言われる日が来るとはな。こっちは全力で、悟空達を天竺に送り届ける事にする。そう決めた、今、決めた」
悟空の言葉を聞いた哪吒は、力強い視線を俺達に向けた。
「私は修羅道に一度、戻る。悟空、お前が私を必要になった時に来る」
阿修羅はそう言うと、一瞬で俺達の前から姿を消し、白沢が悟空に声をかける。
「悟空様、旅を再開させるのでしたらマントが必要ですよ。ここからは、砂漠が広がっていますからね」
「随分と詳しいな」
「ふふ、地図を見れば誰でも分かります。そんなに、怪しまなくも大丈夫ですよ」
「…、三蔵。俺はすぐにここを出る。猪八戒と沙悟浄を置いてくから、後から来い」
白沢と話していた悟空が、俺の予想外の言葉を放ってきた。
「え!?一緒に出ないのか!?」
「天邪鬼の二人が気になるからな。行くぞ、小桃」
「うんっ」
「「俺達もお供します!!!」」
俺の問い掛けに答えた悟空は、小桃と白虎、黒風と鳴神、丁達と共に縁側を後にする。
「三蔵、悟空達を追う前に、僕達と天界に行こう」
「天界!?なんでまた…?」
「我々、神が使う神器を取りに行くんだ。この先、必ず起きる戦いに必要になるからだ」
そう言って、観音菩薩は力強い視線を俺に向けた。
第漆章 完