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「偉そうな事言ってんじゃねーよ。だったらもう二度とミスはするな。俺が活動しやすいよう、精一杯サポートしろよ」
「ミスについては本当に申し訳なく思っています。これからはより一層気を付けます。サポートに関しては今までもそうでしたが、今後も変わらず努力するつもりです」
「……そうかよ。ま、せいぜい頑張れば」
話を終えたタイミングで目的地に着き、彼はそう言葉を吐き捨てると私に目もくれず車から降りて早々にビルの中へ入って行った。
(これでいい。これが、本来あるべき姿なんだから)
そう納得しているはずなのに、何故か心の中にはモヤがかかっている様な気がしてならなかった。
「雪蛍くん、今日は不調ですね。何かありましたか?」
今日は雑誌の撮影とインタビューという事で撮影スタジオに入ったはいいものの、彼の調子はいつになく悪そうでスタッフの一人にそう質問された。
「いえ、特に何も無かったと思いますが……」
無いと言いながらも思い当たる節があった。それは、ここに来るまでの車内でのやり取りだ。
けれど流石にあれくらいの事で撮影にまで影響が出るとは思えず、私は椅子に座り休憩している彼に近付き理由を聞いてみることにした。
「雪蛍くん、何かありましたか?」
「別に」
「それにしては珍しく、撮影中何度も指摘されていたじゃないですか。もしかして、体調が悪いとか……」
「何でもねぇって言ってんだろ! いちいちうるせぇよ! あーくそっ! 気分悪ぃ!」
「あっ、ちょっと、雪蛍くん!」
怒らせるつもりは無かったのだけど、私の言葉が癇に障ったらしく、機嫌を損ねてた彼はスタジオを出て行ってしまった。
「すみません! すぐに連れ戻しますので」
私たちのやり取りを見ていたスタッフやカメラマンに頭を下げ、私はすぐに彼の後を追いかけた。
「雪蛍くん、スタジオに戻りましょう」
楽屋へやって来た私は、ソファーに寝転がり不貞腐れた様子でスマホを弄る彼に問いかける。
「雪蛍くん、聞いていますか?」
彼との距離を縮めながらもう一度声をかけると、
「うるせぇな、聞こえてるよ」
視線を向ける事なく、投げやりな態度で言葉を返してくる。
表情は見えないけれど、『話しかけるな』『近付くな』というオーラを感じ取る事が出来た。
いつもの私ならここで怯んでいたと思うけど、変わると決めた今ここで怯む訳にはいかず、
「今は仕事中です。戻りますよ」
「おいっ! 何しやがる!?」
私は心を鬼にして彼からスマホを奪い取り、無理矢理こちらを向かせて話し合う体勢に持っていく。
「仕事が終わるまで、これは預かります。使いたければまずは早くスタジオへ戻って下さい」
「てめぇ!」
「私に暴言を吐くのも、当たるのも怒りをぶつけるのも構いません。ですが、何をされようと、あなたの我儘ばかりを優先する訳にはいきません」
「へぇ、いい度胸してんな。ってか何なの? 今日はやけに強気じゃん」
いつになく強気な私が気に入らない彼は挑発的な態度で距離を縮めてくる。
「いつまでもあなたのペースに乗せられる訳にはいきませんから。とにかく、戻りますよ」
そんな彼をかわし、部屋を出ようとドアに手を掛けた、その瞬間、
「いいな、そういう強気な態度。嫌いじゃねぇよ。けどな、力で俺に勝てると思うなよ?」
その言葉と共に腕を掴まれた私の身体は後ろへ引っぱられ、
「きゃっ!」
さっきまで彼が寝転がっていたソファーに押し倒される形になってしまった。
「雪蛍くん!」
「ごちゃごちゃうるせぇよ! お前はいつもみたいに俺の言う事さえ聞いてればいいんだよ」
「止めて! 離して!」
「黙れよ。ってか誰に向かって物言ってんだよ。クビになりたくなけりゃ大人しく俺の言う事聞けって」
押し倒された私は両腕を力強く押さえ付けられ、更には今までにないくらい鋭い目付きで睨まれていた。
今まで何度も押し倒され、身体の隅から隅まで彼に見られ触られて来たけれど、こんな風にただ睨み付けられるだけというのは初めての事。
視線を外す事も身動きする事も出来ず、徐々に恐怖を感じてしまう。
「さっきまでの威勢はどうしたんだよ?」
「そ、それは……」
私はただ、仕事をこなしたいだけ。
雪蛍くんのマネージャーとして、彼を全力でサポートしたいだけなのに。
どんなに決意を固めても、こうして力で抑え込まれてしまえば何も出来ない無力な自分を思い知り、私は悔しさを滲ませる。
「……何で、そんな顔すんだよ」
そして、気付けば私の視界は歪み、頬には一筋の涙が伝っていく。
それを見た彼は、
「っち! 面白くねぇ。興醒めだ」
そう口にして私を解放すると、苛立ちながら楽屋を出て行ってしまった。