テラーノベル
アプリでサクサク楽しめる
#コスプレ
#ドS
コメント
0件
👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!
本当のプロポーズから数日
私たちの関係は、形式上の「契約」から「真実」へと変わった。
けれど、会社という場所は残酷なまでに変わらない。
私は今日も「氷の女王」として、タイトなスーツに身を包み、厳しい言葉で部下を律している。
……はずだった。
「神代マネージャー、この進捗報告書ですが……」
「……ええ、ここ…以前よりずっと良くなっているわね。この調子で頑張って」
「えっ……?!あ、ありがとうございます!」
若手社員が、信じられないものを見たという顔で私を見送る。
しまった、と心の中で呟く。
自分ではいつも通り厳格に振る舞っているつもりなのに、どうしても声のトーンが柔らかくなってしまう。
原因は、数歩後ろを歩いているあの男だ。
「マネージャー、顔に出てますよ。そんなに俺との昨日の夜が幸せでした?」
「っ……!黙りなさい、真壁」
振り返らずに小声で制するが、耳の裏が熱いのが自分でもわかる。
オフィスですれ違う瞬間、誰にも見えない位置で彼が送ってくる熱い視線。
あるいは、廊下で横を通り過ぎる瞬間に、私の指先をわざと自分の手の甲で軽く掠めていく悪戯。
以前なら「不謹慎よ」と怒鳴り散らしていたはずの行為が、今の私には甘い毒のように回ってしまう。
「……神代マネージャー、なんだか最近、雰囲気が柔らかくなりましたよね?」
「ええ、特に真壁くんと話してるとき、たまにふっと……女の人の顔になるというか」
給湯室から漏れ聞こえてくる同僚たちの噂話。
私はマグカップを握りしめたまま、その場に立ち尽くした。
バレている。隠せているつもりなのは、私だけなのだ。
◆◇◆◇
その日の夕方
エレベーターホールで一人、降りてくるのを待っていると、背後に気配を感じた。
振り向く間もなく、力強い腕が私の腰を引き寄せ、壁との間に閉じ込める。
「……ま、真壁くん!?ここ、会社よ!」
「誰も来ませんよ。今の時間は会議室にみんな集まってますから」
真壁くんは、余裕たっぷりの微笑みを浮かべて私の顔を覗き込んだ。
その瞳に見つめられるだけで、私の「上司」としてのプライドは、あっけなく瓦解する。
「……怜さん、週末、新しい衣装届くんでしょう?今度は、俺が選んだシチュエーションで撮らせてくださいね」
「っ……もう、公私混同もいいところだわ……」
私は抗議しながらも、彼のネクタイを指先で弄ってしまう。
「氷の女王」の仮面は、もうボロボロだった。
冷徹な上司として部下を従える快感よりも、一人の女として彼に愛される悦びが、今の私を支配している。
「……早く、帰りましょう。家での『怜』の顔、楽しみにしてますから」
耳元で囁かれた低く甘い声。
私は赤くなった顔を隠すように、彼の胸元を軽く小突いた。
オフィスでの静かな攻防戦。
それは、私が完全に彼に「陥落」したことを認めるための、最後の儀式のようなものだった。