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海の紅月くらげさん
保健室のベッドの上で実里くんは苦しそうに息をしている。
〝助けて〟〝ごめんなさい〟
確かに彼はそう言っていた。けれど、誰に言っていたのかがわからない。
先生は風邪だと言っていたので、おそらくは熱に浮かされてなにかを思い出していたのかもしれない。
無数の足音が聞こえて振り返ると、武蔵先輩と潤、歩くんの姿があった。
みんな少し息が乱れていて、急いでここまできたのがわかる。
「……家に連絡してくる」
潤はちらりと実里くんを見やってから保健室を出て行く。
「ほら、心配なのはわかるけど出た出た!」
先生に強引に背中を押され、私たちは保健室から退散するしかなかった。後ろ髪ひかれる思いで振り返る。
「先生」
保健室から出る直前、ずっと黙っていた武蔵先輩が口を開いた。
「電気だけは消さないでください」
その言葉に先生が首を傾げる。
「どうして?」
私も先生と同じことを思い、次の言葉を待つ。とはいっても、まだ日が暮れる前だから外は明るい。
武蔵先輩は少し眉を下げて、カーテンの閉められた実里くんのいる場所に視線を向ける。
「アイツ、電気消すと眠れないんだ」
その真意はわからない。でもきっと何も言わない歩くんも、和葉もワケを知っているようだった。
「もう少ししたら親が来ると思う。歩、悪いけどそれまでついていてもらってもいい?」
潤が申し訳なさそうに眉を下げて、歩くんに頼んでいる。
どうして潤は待たないんだろう。
「いいけど……お前は?」
「俺がいない方が実里にとってはいいと思うから」
「実里がうんざりだって思うのよくわかる」
和葉は潤を鬱陶しそうに一瞥すると、背を向けて歩き出す。
その背中が少しずつ遠くなっていく。武蔵先輩は何も言わずに和葉とは逆の道を歩いていってしまう。
「潤、ここにいた方がいいんじゃない?」
私を見る潤の瞳はどこか冷たい。
「いいんだよ」
「どうして……」
「これは俺たちの問題だから」
潤が背を向けて武蔵先輩が消えていった方向に足を進めていく。
私は関係ない。彼らみたく従兄弟でもないし、実里くんと潤のことに口を出すなんて無神経かもしれない。
でも、なんだかすごくもどかしくて寂しい。
「悪いな。和葉の言葉を気にして、ちょっと苛立ってるだけだからさ」
呆然と立ち尽くしている私に歩くんが優しく声をかけてくれた。
「潤のこと悪く思わないでやって」
「……うん」
潤のことを見ていれば心配しているのはわかる。でも、なにかがあることは明確で、それが私には不透明なままなのでもどかしい。