テラーノベル
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俯いて黙り込む柊吾を、瑞樹は責めることも急かすこともせず、ただ静かに見守っている。
呼吸の音すら躊躇われるような重苦しい空気の中。
柊吾はギュッと拳を握りしめ、何かを耐えるように喉を鳴らした。迷うように視線を彷徨わせ、何度も息を吸い込んでは吐き出し――やがて、絞り出すような声で口を開く。
「……ネット検索が、怖くて」
「……え?」
「検索窓に……文字を入れるのが、怖いんです」
正体を明かすわけにはいかない。けれど、胸の底に押し殺していた痛みが、抑えきれずに口をついて出た。
「昔……少し、人目に触れる仕事をしていたことがあって。……その時、気になって検索してみたら、見なきゃよかったのに、大量に出てきたんです。僕のことなんて何も知らない人たちの、悪意だけで出来た言葉が……」
『消えろ』『声がうるさい』『どうせ整形』。
画面を埋め尽くしていた無数の誹謗中傷。脳裏に焼き付いた悪意の刃が、今も胸を刺す。
「それ以来……画面を開くのも、何かを検索するのも怖くなって。世の中の出来事を調べることすら……できなくなって……」
自嘲気味に呟き、柊吾はギュッと目を閉じている。二十歳を過ぎた男の、引きこもりの言い訳だと呆れられる覚悟をしながら。
静かに聞き終えた後、瑞樹は「……そうでしたか」と短く呟いた。
そして、少し考えるように間を置いてから、穏やかに言葉を続ける。
「もし困ったことがあれば、何でも聞いてください。職業柄、こういうことには結構詳しいので。申請の手順や制度の組み方も、必要であればいくらでも説明できますから」
「あ……」
思わず柊吾が口を開きかけた――その時だった。
ガシャアンッ!!
「きゃっ!? やだ、落ちちゃった……!」
奥の台所から、真理子が何か皿を落として割ったような派手な音が響いた。
「っ!? 母さん……!?」
ハッとして柊吾が慌てて後ろを振り返った、まさにそのタイミングだった。
「じゃあ、また」
瑞樹はどこか胡散臭い笑顔を浮かべると、追及する隙すら与えず、軽く手を振ると鞄を脇に抱えたまま階段を下りて行った。
取り残された柊吾の手には、瑞樹が残していった『要介護認定申請の手引き』と書かれた手書きの資料だけが、ぽつんと残されていた。
コメント
1件
ああ、もう、柊吾の「検索が怖い」って告白、めっちゃ刺さったわ……。過去に誹謗中傷された傷が原因で、今も画面を開くのが怖いって、その感覚すごくリアルで苦しくなった。そばに寄り添う瑞樹の距離感も絶妙で、重くなりすぎずラップ音で逃げるタイミングがまた憎い(笑)。心の重りをちょっとだけ軽くしてくれるような、いいエピソードだった🔥
そあふぃー
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