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「神隠しの朱影」
キヨ×レトルト
大好きな2人の物語です。
ご本人様方は全く関係ありません。
ただの妄想です。
一話完結の物語を書いてみたくなりました。
よろしくお願いします!
スタートヽ(*^ω^*)ノ
古くから伝わる恐ろしい妖の噂があった。
「子供を拐い、食べてしまう」──。
夜な夜な囁かれるその怪談は、親たちが子供を外に出さぬための戒めでもあった。
幼いキヨは、病弱で外に出られない日々を送っていた。
布団に伏せることが多く、窓の外の草木や、遊びに興じる子供たちを眺めるのが精一杯だった。
いつしかキヨの目から光は消えていた。
ある満月の夜。
窓辺に腰かけて空を見上げていたキヨの前に、ふわりと風が舞い込む。
気づけばそこには、白く淡い光を纏った美しい影が立っていた。
「天女様だ….」
呟くキヨにふわりと笑いかけたレトルト。
その笑顔は幼いキヨの目と心を捉えて離さなかった。
またふわりと風が吹きキヨが目を開いた時にはレトルトの姿は消えていた。
妖艶で儚いその姿にキヨは魅せられてしまった。
やがて村に、黒い影のように疫病が流行り始めた。人々は怯え、戸口を閉ざし、互いを避けるように暮らした。
幼いキヨもまた、その病に侵されてしまう。
もともと細く弱かった身体は、熱と咳に容赦なく蝕まれた。
「ごほっ、ごほっ……はぁ……っ……」
少し身体を起こそうとしただけで、胸が焼けるように痛み、視界が揺れる。
外に出るどころか、布団から起き上がることさえ叶わなくなった。
閉ざされた部屋の中。
窓辺に淡い光とともに、あのとき見た白い影が──ふわりと、部屋に舞い降りた。
「……もう、大丈夫だよ」
耳に届いたのは、優しい声。
レトルトは手にしていた葉団扇をひらりと動かす。
すると、やわらかな風が部屋いっぱいに広がり、苦しむキヨの頬を撫でた。
(……あたたかい……やさしい……)
その風は体を包み込む守りのよにキヨの苦しみを和らげた。
「……ありがとう、天女様……」
そう小さく呟いた瞬間、キヨの瞼はふわりと落ちていく。
安心に包まれ、キヨは静かに気を失った。
目を覚ましたとき、キヨは自分の体に驚いた。
あんなに重く、息をするのさえ苦しかった胸の痛みは消えていた。
指先に力が宿り、視界も澄みきっている。
その日を境に、村で広まっていた疫病も嘘のように消え失せた。
長く咳き込んでいた人々も立ち上がり、次第に賑やかな声が町を包んだ。
しかし、大人たちは原因が分からずに首をかしげるばかりだった。
「奇跡だ」
「神さまの思し召しか」
そんな声も飛び交った。
けれどキヨは、胸を張って母に話した。
「天女様が……やっつけてくれたんだよ!」
真っ直ぐな瞳でそう言ったキヨに、母はくすっと笑い、優しく頭を撫でた。
「ふふ、夢でも見たんでしょう。」
けれど、キヨは信じていた。
あの夜、確かに──天女様は自分のそばに降り立ったのだと。
それからのキヨは、まるで別人のように健康になった。
以前のように病弱で何もできなかった自分が嘘のように思えるほどだ。
かつて弱々しかった少年の面影はどこにもなく、逞しい青年に成長していた。
しかし、どれだけの日々が過ぎても、あの白く美しい天女様は一度も現れなかった。
透き通るような髪、そっと風を起こす優しい手。
あの夜、頭の上でそよぐ風に包まれた感覚――温かく、懐かしく、切なく。
「もう一度……会いたい」
誰にも言えないその願いを胸に、キヨは空を見上げる。
月の光が、あの日の羽衣を思い出させるかのように、静かに夜空を照らしていた。
そんなある日――。
キヨの住む村に、暗い影が忍び寄った。
かかれば命を奪われると言われる、恐ろしい疫病が流行り始めたのだ。
村はたちまち、呻き声と泣き声に覆われた。
これまで穏やかだった日々は一瞬にして崩れ去り、人々は次々と病に倒れていった。
食べ盛りの子が痩せ細り、力強かった大人たちが床に伏し、やがて静かに息を引き取っていく
。
「頑張って……生きて……」
声にならない声を漏らしながら、キヨは布団を整え、水を運び、薬の手配に奔走する。
周囲の家や村の広場でも、人々の苦悶の声が遠くまで響く。
目の前の光景はあまりにも過酷で、絶望と疲労で地面に座り込む。
そんな中どこか懐かしく優しい風がキヨの頬を撫でた。
顔を上げると暗く澱んだ暗闇の 中に、淡く光る白い姿が――。
「もう大丈夫だよ」
優しい声に、キヨの胸は少しずつほどけていくようだった。
手に持つ葉団扇を大きく振ると、そよ風が街を包み、空気の中の緊張や苦しみを洗い流すかのように広がった。
先ほどまで苦悶に喘いでいた人々の表情が次第に落ち着きを取り戻し、痛みに歪んでいた体も静かに安らぎを得る。
その光景を、キヨは目を丸くして見つめるしかなかった。
キヨの方にそっと視線を向ける。
疲れ切った顔で地面に座り込み、絶望に沈んだその瞳を、まるで幼い頃に見守ったあの時のように優しく見つめた。
手に持った葉団扇を軽く振ると、そよ風がキヨの頬を撫で、ふわりと温かく包み込む。
「よく頑張ったね」と言ってくれているかのような、懐かしくも安心感に満ちた風。
キヨは思わず目を閉じ、風に身を委ねた。
キヨの身体は、まるで嘘のように力を取り戻していた。疲れ切っていた心も、体も、すべてが軽くなったようで、息をするのも楽に感じられた。
その姿を見て、レトルトはそっと微笑む。優しく、穏やかで、何もかもを包み込むような笑顔だった。
そしてレトルトはふわりと空に舞い上がろうと手にした葉団扇を振った。
夜風を切る音が、静かな街に響く。
しかし、その瞬間――
「行かないで!」
キヨの声が、夜空に突き刺さるように響いた。
レトルトに向かって必死に手を伸ばすキヨの姿。
「一緒にいく?」
声には出していない。けれど、差し伸べられた手、微笑む唇、すべてがそう告げている。キヨの胸は高鳴り、レトルトの手を躊躇うことなく掴んだ。
そして2人はふわりと夜空へ舞い上がる。月明かりの下、村の灯りを眼下に、二人は静かに、空を切って飛び立った。消えゆく影の中で二人はそっと夜に溶けていった。
夜の闇に包まれるその瞬間――。
白く透き通るように美しかったレトルトの姿が、ふと朱に染まり始めた。
その姿はどこか妖しく、燃え盛る炎とも、沈みゆく夕日ともつかぬ妖しく美しい朱だった。
おわり
ー天狗ー
深山に住むという妖怪。
山に棲む神として信仰され、その力強い性質から土地の守護者と見なされることもある。
天狗の中でも、大天狗または力の強い天狗が持つとされる団扇は葉団扇自体が強力な神通力を有するとされる。
葉団扇を振ると疫病を追い払うことが出来ると言われている。
その一方で、天狗が原因で子供が行方不明となる天狗攫い(てんぐさらい)という事象もある。神隠しの一種でもある。
コメント
2件
この不思議な感じめっちゃ良いです、!