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あや
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会計を済ませたあとも、ナオミとの時間はあっという間に過ぎていった。
コーヒーチェーン店を出た後は、雑貨店で新しいルームフレグランスを見つけたり、穂乃果の好きなアロマキャンドルの新作に二人して試香したり。
「……これ、どうかしら。甘すぎなくて、アンタの柔らかい雰囲気にぴったりだと思うけれど」
ナオミが差し出してきたのは、冬の澄んだ空気を感じさせるような、凛としたムスクの香りだった。
二人で同じ瓶を覗き込み、わずかに指先が触れ合う。店内の照明を反射するナオミの横顔を間近に見ながら、穂乃果はその香りをそっと吸い込んだ。
(ナオミさんの言う通り……すごく、落ち着く香り……)
続いて訪れたセレクトショップでも、ナオミの慧眼は冴え渡っていた。
ナオミがおすすめしてくれるアクセサリーやファッションアイテムはどれも的確で、「あなたならこれが絶対似合うわ」と耳元で囁かれると、その言葉が妙に心に沁みていくのを感じた。
直樹はいつも、「そんな派手なのはお前には似合わない」「もっと控えめな色にしろ」と、穂乃果を自分の好みの型に押し込めようとした。
けれどナオミは、穂乃果さえ気づいていなかった彼女の魅力を、鮮やかな感性で次々と見つけ出していく。
「……本当に、私に似合いますか?」
「何言ってるの。アタシの目に狂いはないわよ。……それとも、アタシが選んだものは信じられない?」
悪戯っぽく微笑むナオミに、穂乃果は慌てて首を振った。
ナオミに選ばれたものたちを纏うことは、まるで彼女彼の愛に包まれているような、不思議な全能感を与えてくれる。
「信じられないなんて……そんなことありません。ただ、こんなに素敵なものを自分が身につけてもいいのか、まだ少し慣れなくて」
「いいのよ。これからは、アンタを閉じ込める色じゃなくて、アンタを輝かせる色だけを選べばいいんだから」
ナオミはそう言うと、選んだばかりの繊細なイヤーカフを、穂乃果の耳元にそっとあてがった。
触れた指先の熱と、自分を真っ直ぐに見つめる情熱的な瞳。直樹といた頃の自分は、いつも透明な鳥籠の中に閉じ込められていたのだと、今さらながらに気づかされる。
「……ナオミさんとのデート、本当に楽しかったです! こんなに笑って過ごせたの、久しぶりかもしれません」
ショッピングバッグを抱え、備え付けのソファで缶ジュースを片手に笑う穂乃果に、ナオミは満足そうに目を細めた。
暖房の効いたモールの中で、少し上気した穂乃果の頬は、先ほど選んだムスクの香りのように柔らかく色づいている。
「そう? ならよかったわ。でも……まだ帰りたくない気分なの。ねぇ、ちょっと歩かない?」
「え? どこへ行くんですか?」
「この近くにね、ライトアップされてる綺麗な公園があるのよ。クリスマスも近いから……ちょっとだけ寄ってみない?」
ナオミは立ち上がり、そっと穂乃果に手を差し伸べた。導かれるままショッピングモールを出て、静かな住宅街を抜けた先。そこには、都会の喧騒を忘れさせるような、息を呑むほど美しい光の情景が広がっていた。