テラーノベル
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夜の闇に浮かび上がるのは、黄金色に輝く巨大な銀杏のトンネル。ライトアップされた銀杏の葉は、まるで一枚一枚が自ら発光しているかのように艶やかで、その枝の間には、無数のシャンパンゴールドのイルミネーションが星屑のように散りばめられている。
足元には、ふかふかの絨毯のように黄金色の落ち葉が敷き詰められ、光を反射して幻想的な輝きを放っていた。
「……わぁ、すごい……!」
穂乃果は、その場に立ち尽くしたまま、煌めく光の渦を見上げた。
実は、ずっとこんな場所に来てみたいと願っていた。SNSで見かけるような、冬の光に包まれた並木道。けれど、かつて直樹にそれをねだった時、彼は鼻で笑ってこう切り捨てたのだ。
『あんな人混みに行って何が楽しいんだ? 寒いし、時間の無駄だろ。お前、ガキみたいなこと言うなよ』
それ以来、穂乃果は自分の憧れに蓋をしてきた。けれど今、目の前には人影もまばらな、二人だけの隠れスポットが広がっている。ナオミは、直樹が無駄だと切り捨てた穂乃果のささやかな夢を、一番美しい形で掬い上げてくれたのだ。
「ずっと、一度は来てみたいって思ってたんです……。ナオミさん、連れてきてくれて、本当にありがとうございます」
潤んだ瞳で並木道を見つめる穂乃果の声は、震えていた。黄金の光の中に、かつて直樹に踏みにじられた小さな願いが、今やっと形になって輝いている。
ナオミはそんな彼女の肩を抱き寄せ、優しく微笑んだ。
「お礼なんて必要ないわ。だって、アタシが来てみたかったんだもの。アンタは付き合わされただけよ」
ナオミはそう言って、悪戯っぽく肩をすくめてみせた。
どこまでもスマートで、穂乃果が引け目を感じないように振る舞うその優しさに、胸の奥がぎゅっと熱くなる。ナオミと出会わなければ、この黄金の景色も、自分を肯定してくれるこの温もりも知らないままだった。
その甘い沈黙を、無遠慮な足音と、記憶の底にこびりついて離れない「あの男」の声が容赦なく切り裂いた。
「なぁ、もういいだろ? 寒いし、早く帰ろうぜ。わざわざこんな混むところまで来る必要あったか?」
低く、相手を突き放すような、不機嫌を隠そうともしない声音。
穂乃果の心臓が、ドクリと大きく跳ねた。全身の血が足元から引いていき、視界がチカチカと歪む。振り返らなくてもわかる。それは、自分の心を凍りつかせ続けてきた、直樹の声そのものだった。
「えー? ちょっと待ってよ直樹! 今SNSにUPするんだから。これ、絶対に『映える』んだってば!」
続いて聞こえてきたのは、甘ったるい声で直樹に縋り付く里奈の声。
二人の声がすぐ背後にまで迫った瞬間、穂乃果は足元が崩れるような感覚に陥り、その場に釘付けになったように硬直した。
(嘘……。どうして、こんなところで……っ)
せっかくナオミが塗り替えてくれた幸せな時間が、一瞬で過去の恐怖に侵食されていく。
自分が行きたいと願った時には、あれほど頑なに時間の無駄だ。と一蹴したのに。里奈とはこうして人混みの中、夜の散歩を楽しんでいる。
あや
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