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仁義なき悪女合戦 ~想定外を添えて~

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仁義なき悪女合戦 ~想定外を添えて~

1 - 仁義なき悪女合戦 ~想定外を添えて~

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2025年02月20日

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仮面をつけた程度で誰が誰だか分からなくなる等と本気で思っているような奴は阿呆だ。

髪や瞳の色は当然のこと、その身に染み付いた気品や立ち振る舞いは仮面程度では到底隠せやしない。それが顔を覚え合って当たり前の狭い狭い貴族社会ならば、尚更分からない筈がない。正体が分かっている上でお互い気付かない振りをし、無礼講を楽しむのが仮面舞踏会というものなのである。

その筈なのだが。

「これはちょっと、やらかしてしまったかもしれませんね」

横ですうすうと規則正しく寝息をたてる男を見やって、小さくそう溢した。自分の現在置かれている状況がどん詰まり過ぎて逆に頭は冷え切っている。

嗚呼、私はどうやら阿呆だったらしい。

それもド級の阿呆である。


濡れ衣を理由に婚約者を双子の妹に奪われた。我が妹ながら中々に頭の回る女である。まぁ、かつての婚約者も中々に頭の緩い人だったため、正直奪われた元婚約者その人に問題はない。では何が問題なのか。

プライドの問題である。

双子というものは姉妹の上下が曖昧であるのが常らしいが、我が家は違う。要らぬ争いを起こさないようにと姉妹をきっぱりと両親に決められた。それが要らぬ争いを現在進行形で生んでいる訳なのだが。

こちとら、下剋上を虎視眈々と狙う妹から姉の座を死守するという奇妙な図をずっと続けてきたのだ。姉というプライドのためならばえんやこらである。

という訳で、妹名義で仮面舞踏会に参加した。

悪女合戦に持ち込もうという魂胆である。ちょっと食べたり踊ったりして浮名を流して、この際姉妹共倒れにしてやろうと、そう思っての行動だったのだ。それがどうして。

ちらりともう一度横を見る。

相も変わらずそこにはいっそ恐ろしい程整った顔立ちの”第二王子”が、瞳の宝石を白い瞼でぴたりと隠して眠りこけていた。

どうしよう。妹が首ちょんぱされてしまう。

手を出してはいけない人に手を出してしまった。私のなけなしの沽券のために言っておくと先に出してきたのは向こうなのだが、そんなこと大いなる権力の前ではどっちだっていい。どう転んでも悪いのは私になるのだ。

ずんずん頭から血の気が引いていく中、ここではたと妙案が降ってきた。

ここは仮面舞踏会ではないか。お互い正体を承知していようがいまいが、知らぬ存ぜぬがマナーの仮面舞踏会。そう、私は何も知らないし、向こうも何も知らない。私達は誰とも寝ていない。

そう考えると途端に元気が湧いてきた。いそいそと服を着て寝床から逃げ出そうとしたその時、背後から腕をがっと掴まれる。

「どこへ行こうというのかな」

寝起きの低い声が背後から問いかけてきた。突然の事態と聞き慣れない男の低い声、そして男の背後にあるであろう権力の強大さから恐怖心が込み上げてくる。顔を隠すための仮面は確かサイドテーブルの上。枕の横の机であるから、つまりは男の方を向かなければ取れないという訳だ。

ぎぎぎと音の出る程鈍い動きで少しずつ、少しずつ振り向いていく。 相手にこちらの顔が見えるだろうという寸前で、突如スピードを上げ勢い良く振り向いた。これならば、 私の顔は広がった長い髪に阻まれて見えなかろう。

そしてその勢いのまま相手の顔を掴み寝床に思いきり押し込んだ。

「ぐぇ」

絶世の美男子である筈の男から潰れた蛙のような声が聞こえるが、気にしたら負けだ。倒れ込んだ男の上を跨ぎ二つの仮面を素早く手に取る。

「何を…」

のろのろと緩慢な動きで起き上がろうとする男の目元に仮面を押し付け、その勢いのまま再び寝床に思いきり押し込んだ。

「んぐ」

「あらあらあら、仮面のせいでどなたか全くわかりませんねぇ!私も仮面をつけていますもの、誰だかさっぱり分かりませんわよねぇ!」

息を弾ませながらまくしたて、震える手で仮面をつける。罪が増えた気がしないでもないが、どちらにせよ首ちょんぱなのだから捕まりさえしなければ問題はない。今の内にずらからせてもらおう。

「待て、名前を聞いていない」

「ぐぅ」

男に後ろから左足を掴まれ寝床に顔から倒れ込んだ。痛くはないがこの男、中々に力がある。どうしよう、力技では逃げ出せない。

「…ツ」

ぽつりと呟きながら右足を静かに、かつゆっくりと持ち上げる。

「ツヴァイです!!」

大きな声でそう言い放った瞬間に、男の手を思いきり蹴り飛ばした。正直右足がとても痛い…が、上手く行った。男が呻いている隙に寝床を飛び出し、ばたばたと淑女らしからぬ様相で部屋から転がるように逃げ出す。馬車に飛び乗って家に帰り、すぐに妹の部屋の扉を叩いた。扉が開くのを悠長に待ってやるような心の余裕など微塵も残っていない。返事を待たずに勢い良く扉を開けると、ソファに座って本を読んでいた彼女は嫌そうな顔で振り向いた。

「ツヴァイ!玉の輿に興味ない!?」

「アイン…そんなこと言って、どうせまた面倒事でしょう。いらないわ。あ、あの男も横領の罪告って突き出しておいたから」

「それは助かるけれど…」

何度忠告しても聞きやしない元婚約者様。うつつを抜かした女相手ならばと思ったが、これが予想以上にほいほい証拠を出してくる。楽な作業だった。とは言え妹よ、何故私の濡れ衣を捏造した。だから悪女合戦でお互いの嫁ぎ先を抹消して、はいこれでお相子ねにしようと思ったのに。

「首ちょんぱされる時は一緒に逃げるからね」

「何の話?」

その後、ドゥエ第二王子殿下から婚約の打診があり我が家がてんやわんやになる中、双子の姉妹は密やかに言葉を交わしていた。

「確かにツヴァイって言った筈なのに、どうして気付かれたのかしら」

「アイン、色々言いたいことはあるけれど…諦めなさい。王族は払いが良いのよ」

嗚呼、どうしよう。悪女合戦はどうやら私の負けらしい。

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