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花梨
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千導 渉
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翌日、どんよりとした空気の工藤新一を帝丹高校に残し、服部平次は一人、西武池袋線を乗り継いで江古田高校へと向かっていた。
「ったく、あの推理オタクめ。自分で調べといて行く覚悟がつかんとか、純情な中学生かちゅーねん」
平次はキャップの庇をぐっと下げ、放課後の江古田高校の正門近くの電柱に身を潜めた。
しばらく待つと、校舎から騒がしい笑い声と共に、生徒たちがぞろぞろと出てくる。その中に、昨日モニターで見た「あの顔」があった。
「お前ら、今日のマジックのタネ、マジで分かんなかった? 帰って復習しとけよー!」
中心で周囲を笑わせているのは、紛れもなく黒羽快斗だった。
カバンを肩にかけ、ブレザーのボタンを外して、いかにも普通の、どこにでもいる男子高校生として、幼馴染の女の子とじゃれ合っている。
(……ほんまに、ただの高校生やんけ)
平次は息を呑んだ。あの月下で警察を翻弄する世紀の大泥棒のオーラが、今の快斗からは一ミリも感じられない。新一が「日常を壊すのが怖い」と言った意味を、平次は肌で理解した。
だが、平次はそこで引き下がるような男ではない。
「おい、そこのネーちゃん。ちょっとこの男、借りてええか?」
平次は人混みをかき分け、快斗の前にぬっと立ちはだかった。
「ひゃい!? な、何よあんた」
「……あ? 誰だ、お前」
快斗が怪訝そうに眉をひそめる。
平次は快斗の目をまっすぐに見据え、ニカッと不敵な笑みを浮かべた。
「大阪から来た服部平次っちゅーもんや。……黒羽快斗、お前にちょっと『東の身内』からの伝言があってな」
その瞬間、快斗の目が一瞬だけ鋭く光った。ポーカーフェイスの仮面が、コンマ数秒だけ裏返る。
快斗はすぐにいつもの軽い調子に戻り、幼馴染を先に帰らせると、平次を校舎の裏手へと連れ出した。
人気のない渡り廊下の陰。快斗はカバンを地面に放り投げ、ポケットに手を突っ込んで平次を睨みつけた。
「……探偵が何の用だ。工藤新一は連れてこなかったのか?」
「やっぱりな。隠しても無駄や、怪盗キッド」
平次は腕を組み、ふんと鼻で笑った。
「新一なら、来うへんよ。あいつ、昨日お前のデータをハッキングしてここまで辿り着いたんやけどな。……行く覚悟がつかへん、言うて工藤邸で丸まってんねん」
「は? 覚悟?」
快斗が呆れたように声を出す。
「ああ、あいつな、何回も言うとったわ。『あいつが怪盗じゃなかったら、一生の相棒になれた気がするのに』ってな。お前の普通の高校生としての日常を見てしもたら、もう探偵としてお前を捕まえられんようになる。それが怖いんやと」
平次の言葉を聞いた快斗は、言葉を失った。
夕日が差し込む渡り廊下で、快斗の顔が夕焼けとは違う赤さに染まっていく。
「……な、何言ってんだ、あの推理オタク……!」
快斗は片手で顔を覆い、天を仰いだ。
「一生の相棒って……勝手に人の日常覗いといて、何感傷に浸ってんだよ。こっちだって、あいつが探偵じゃなきゃ、もっと早く……」
快斗はそこまで言って、ハッと口を噤んだ。
「お、おい、服部! 新一に言っとけ!」
快斗は真っ赤な顔のまま、平次の胸ぐらを掴む勢いで詰め寄った。
「オレが怪盗をやってるのは、ただの泥棒じゃねぇ、終わらせなきゃいけない『理由』があるからだ。それが終わったら……その時は、オレからあいつの前に『黒羽快斗』として行ってやるってな! だからそれまで、勝手にひとりでウジウジ悩んでんじゃねぇ!」
一気にまくし立てた快斗は、地面のカバンをひったくるように拾うと、背を向けて走り去っていった。
その背中を見送りながら、平次はキャップの庇を上げてニヤリと笑った。
「へえ……あいつもあいつで、結構重症やんけ。しゃあない、東京のウジウジ探偵に、最高の土産話を持って帰ったるか」
コメント
1件
あーこれめっちゃ刺さるやつ!! 平次が新一の代わりに快斗に会いに行って、「覚悟がつかへん」って新一の本音を伝える流れ、胸熱すぎるやろ…。快斗が「終わったらオレから行く」って照れ隠しで叫ぶシーン、完全に両片想いやん!! 探偵と怪盗の境界越えた関係性に滾るわ。平次の「重症やんけ」がナイス総評すぎる笑。続きがマジで気になる🔥