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ももは
戦場後の静寂 ― 夜の廃街
風が低く唸り、焦げたコンクリートの匂いが街を覆っていた。
崩れたビル群。
砕けた道路。
戦いの痕跡だけが残る夜の廃街で、畑中は膝をついた隼人の前に立っていた。
かすれた声が、静寂の中に落ちる。
「……悪かった」
隼人は何も答えない。
血だまりに映る街灯の揺らめきだけが、二人の間を静かに照らしていた。
その時――
複数のライトが廃街を照らした。
ORVASの増援車両だ。
車両のドアが開き、唯我、一祟、そして黒装束の隊員たちが一斉に展開する。
畑中はゆっくり立ち上がった。
その目から迷いは消え、再び指揮官の顔へ戻っていく。
「拘束準備――情報は全部吐いてもらう」
隊員が隼人へ近づく。
だが、その瞬間だった。
上空で白い閃光が走る。
――ズドォンッ!!
轟音。
光線が空を裂き、一直線に隼人の胸を貫いた。
赤い飛沫が宙を舞う。
「っ!? 隼人!!」
畑中、公太、唯我、一祟が同時に顔を上げる。
隼人は声を発する間もなく、そのまま地面へ崩れ落ちた。
鮮血がアスファルトを染めていく。
ORVAS部隊は即座に周囲へ銃口を向けた。
「敵影を探せ!!」
「どこから撃った!?」
だが、熱源も気配も存在しない。
その時。
遠くのビル屋上に、黒い人影が浮かび上がった。
月を背にしたその姿は、輪郭しか見えない。
低い声だけが響く。
「……用済みだ」
畑中の目が鋭くなる。
「撤収!! 搬送優先だ! 撃ち返すな!!」
公太が悔しげに拳へ炎を灯しかける。
だが――
「今は隼人の命が先だ」
畑中の言葉に、公太は歯を食いしばりながら炎を消した。
車両のドアが閉まる。
サイレンも鳴らさず、ORVASの車列は闇の中を駆け抜けていった。
病院・ICU前
白い光。
無機質な機械音。
モニターに映る心電図だけが、静かな空間で規則的に脈打っていた。
ピッ……ピッ……
ガラス越しに、畑中と公太が無言で立っている。
通路を担架が通り過ぎ、薬品の匂いがかすかに漂った。
公太が口を開く。
「さっきの光……あれもアビスか?」
畑中は腕を組んだまま答える。
「……断定はできん。だが、奴らの線が濃い」
そこへ情報主任が駆け寄ってきた。
「監視網、熱源反応ゼロ。残光データも消失しています。発射源は不明です」
「そうか」
畑中は短く答え、主任を下がらせた。
公太はガラス越しに眠る隼人を見つめる。
「隼人は敵だけど……こんな終わり方、俺は納得いかねぇ」
その言葉に、畑中はガラスへ映る自分の顔を見つめた。
(……あの日の判断。俺が背負うと決めたはずだろうが)
拳が静かに握られる。
病院・待合室
待合室の照明は薄暗く、深夜の静けさが漂っていた。
壁にもたれた畑中が、ふと口を開く。
「……そういえば公太。お前、どうして俺の居場所が分かった?」
「……それは」
公太が言葉を詰まらせる。
その横で、唯我が淡々と答えた。
「ジュリーから連絡が来た。“畑中が危ない”ってな。それを聞いた途端、こいつは迷いなく飛び出していった」
「おい、余計なこと言うなよ!」
公太が顔を赤くしながら舌打ちする。
「俺はただ……間に合わねぇとカッコつかねぇと思っただけだ」
一祟が小さく笑った。
「……青春してますね、相変わらず」
畑中は無表情のまま、一瞬だけ目を閉じる。
(こいつら……また一つ、強くなってやがるな)
そして静かに口を開いた。
「……助かったぞ。だが公太――次は勝手に動くな」
公太は小さく頷く。
「……あぁ」
病院・翌日午後
静かな特別室。
ジュリーがドアを開け、ベッドの傍へ歩み寄った。
隼人は酸素チューブをつけたまま、静かに横たわっている。
「……久しぶり、隼人」
隼人が薄く目を開く。
「ジュリーか……久しぶりだな。俺を探してたのか、ずっと」
「当たり前でしょ。同期なんだから」
短い沈黙。
やがてジュリーが静かに切り出す。
「……アビスの幹部に遭った辺りから、記憶が飛んでるって聞いたけど?」
「あぁ……」
隼人は天井を見つめた。
「あの公太ってガキにやられてからだ。目覚めたら、あの日々の記憶が黒く塗り潰されててな」
わずかに苦笑する。
「断片はある。だが……アビスのことは、まるで霧の中だ」
「……そっか」
ジュリーは静かに息を吐く。
隼人はぽつりと呟いた。
「俺が闇に手を出したのは、俺の選択だ。責任は取るさ。……でも畑中のことは、まだ完全には許せてない」
ジュリーは真っ直ぐ隼人を見た。
「聞いて、隼人。あの日、畑中が吉岡を見殺しにしたんじゃない」
隼人の目が動く。
「吉岡は……自分から行ったのよ」
「何……?」
「畑中は必死で止めた。でも――吉岡は行った」
隼人は静かに目を閉じる。
「……そうだったのか」
友の夢
ジュリーはポケットから、古びた小さな手帳を取り出した。
「覚えてる?」
手帳を隼人へ見せる。
そこには、擦れた文字でこう書かれていた。
――“誰も死なせない部隊を作る”
隼人の瞳がわずかに揺れる。
「新兵時代、一緒に書いたわよね」
しばらく沈黙が流れた。
やがて隼人が苦く笑う。
「……皮肉なもんだ。守りたかったはずなのに、気づけば……壊す側にいた」
ジュリーは静かに首を横へ振った。
「壊れたら終わりじゃない。取り戻せばいいのよ」
そして、優しく続ける。
「……私も、手伝う」
隼人はゆっくりと視線をジュリーへ向けた。
その瞳には、かつて失われたはずの感情が、ほんのわずかに戻っていた。
「……ありがとう、ジュリー」