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「え、でも、11歳差だよ!? あなたならもっと……! 」
彼が手で私の言葉を制止する。
「まあさ、そのくらいかなってわかってたよ。俺よりずっとお姉さんだなって。俺はわかっててOKしたわけだし」
「え、わかってたの」
「うん。見りゃわかんじゃん。そっちは俺の年が自分と一緒くらいだって思ったってこと? 」
「……まぁ」
私が若く見えたわけでもなく、学生を自分と同い年くらいだと思う図々しさだとかがわかると、かぁぁと顔が熱くなった。
「そっか。俺、割と上に見られるけど、そんな上に見られたのは初めてだな。じゃあ、俺は気にしないからいいよね、継続で」
「いや、でも……」
学生と社会人だよ、それは厳しい、と言おうと思ったがさっき1年以内で解決する問題だと言われたところだ。何か、何か考えないと。
「何? 」
「つまらないんじゃないかな。ほら、この一年は時間がたくさんあるのに、社会人相手じゃそんなに会えないでしょ? 」
「いや、俺あんま依存しないから大丈夫。連絡もそんなマメじゃない。つか、そういうの慣れてるし、逆に2時間返信ないと拗ねるみたいなタイプの方がしんどくね? 別に俺暇じゃない。一人でいるのも好きだし」
あ、ああ。そっか。そうだよね、他に理由、理由。慌てて名案が無いか考える。
「そうだ! 私、実は結婚したくて。結婚前提につき合える相手を探してるの。でも、さすがにあなたとは無理があるじゃない? だから……」
「別にいいよ、結婚前提。ていうか、付き合うのって結果はどうであれ全部“結婚前提”じゃないの。春美ちゃん、付き合う時にそうじゃない付き合いと結婚前提といちいち分けるの? たまたまそこまで続かなかっただけじゃないの? 」
「そう、だけど……。でも、私はやっぱりすぐにでも結婚したい気持ちで……。相手が学生だと待っている間に婚期過ぎそうっていうか、ね? 」
なるべく平穏に終わらせられるように言葉を選んだ。
「いいけど……」
抑揚なくそういう彼にやっと通じたとホッとする。
「じゃあ……」
「うん。いいよ、俺。結婚しても」
は?
「はぁ、無理でしょ現実的に! 」
電車内なことも忘れ声を張り上げてしまって慌てて口を押えた。
「出来るよ」
「あのねぇ」
その安易な発想が余計に“学生”って感じがしてムッとする。
「出来るよ、だって俺1回結婚してるもん」
ハッと息が止まる。そうだ、この子は“結婚”の経験があるんだった。私がしたくてたまらない結婚の経験が。
「そ、う……だったわね」
私が反論できずに言葉を失うと彼はふっと笑った。
「あのさ、俺のこと好きだって言っといて一瞬で好きじゃなくなるなんて、年齢ってそんなに大事なの」
見透かされていてかぁっと頬が赤くなるのを感じた。自分の浅はかさを指摘されたようで恥ずかしい。
「ごめんなさい」
「いーや、許さないね」
ふざけた口調に顔を上げると、彼は肩をすくめて見せた。
「許してよ“気になる”くらいだったの」
「そう、でもまぁ勝手に勘違いしてそっちから声かけてきて、それはないんじゃない? 俺はさ、嬉しかったんだよ。綺麗なお姉さんに声をかけられて」
「……うん」
気持ち悪いと思われる想像はしていたから声をかけたことに好意的でほっとするのも事実だ。
「でも年齢がネックになる理由が『結婚』なら問題ないね。俺は結婚する気があるんだから」
「え……? 」
どういうこと?理解できずにフリーズしていると
「よろしくね、春美ちゃん」
語尾にハートマークでもつきそうな口調で彼――七瀬広睦(21)は不敵に笑った。
「え、何でそうなるの。どうしてそんなに私にこだわるのよ」
「何でって、好きだから? 」
なんだよ、その疑問形。驚いて目を見開き彼をよく見ようとしたけど、ニカっと笑うだけ。
「いやいや、こんな短期間で『好き』はないでしょう? 」
「じゃあ、『気になるくらい』でいいや」
七瀬広睦は私の言葉を引用して、私に顔寄せて微笑む。まさか、自分が発した言葉に追い詰められることになろうとは……。詰められたパーソナルスペースに顔が赤らむのを止めることが出来なかった。
――とぼとぼと会社まで歩く。
結局私たちは、平行線のまま。結局、ことは彼が有利に進んでいる気がする。
なんだかんだ、言いくるめられている気がする。どうしてなかったことにして他人に戻ることを許してはくれないのだろう。私のことなんて、好きでもないくせに。目的がわからなかった。もやもやした気持ちをなんとか仕事モードへと切り替える作業は難航していた。もう、ほんとに何でえ?
理由を色々考えていると、後ろから追いつきながら三宅くんが話しかけて来る。
「おはよ。お前さ、またあの親戚と一緒にいた? 仲いいんだな」
「あ、はは。同じ電車でさ」
「へえ、この路線ならH大? 」
「え……? 」
「あれ、学生じゃなかったんだっけ」
「ああ、そう、かな」
「んだよ、あんまり仲良くないのかよ」
言われて苦笑いで返す。そうだ、彼の事はまだ何も知らない。結婚前提なのに。形式上恋人なのに。はぁ、とため息が出そうだ。
「さっき、新卒の奴らと一緒にいたんだけど、親戚のこと『かっこいい』って騒いでたぞ。フリーなら紹介してやれば? 紹介して欲しそうだったぞ」
「……。彼女いるよ」
「あー、まぁそうだわな。イケメンに彼女いないわけないよな」
私はまた苦笑いで返した。
彼女、私だけどね。また一つため息を吐く。新卒の彼女たちと彼とはちょうどいい年齢。それが羨ましかった。
じゃあ、紹介してあげればよかったんじゃない?彼に恋人なんていないようなものなのだから。そしたら私も彼に言いくるめられずに済むし、婚活に精を出せるのに。考える間もなく『彼女いる』なんて言ってしまった。紹介して、なんて半分冗談みたいなものなのに。
私はきっと嫉妬したんだと思う。彼に好意を寄せる彼女たちにではなく。彼女たちの若さに……。
LAST

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コメント
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あらすじを読んで、もう気持ちがぐちゃぐちゃになりました…!「結婚したことある」って言われた瞬間の春美さんのフリーズ、すごく共感しました。あの「は?」からの流れ、完全に彼に言いくるめられてるのがもどかしくて可愛い。彼の「好きだから?」の疑問形、ずるいですよね(笑)。若さに嫉妬する気持ちもすごくわかって、続きが気になります!