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篠田をオーブに連れて行くにあたり、仕事を手伝うと約束してしまったものだから、松尾は片付けなければいけない事柄が増えてしまった。

だが仕事をしながらも、頭の片隅で篠田と畑山のことをずっと考えていた。あの鉄壁の篠田が、あんなに取り乱した様子は今まで見たことがなかった。テキパキと仕事をこなし、いつも穏やか且つ冷静、そして先輩・後輩共に受けがいい。その篠田がまさか怒鳴るなんて……。

畑山ちゃんもだ。あんなにキレイなのに、浮いた話は全く聞かない。男を軽くあしらい、全く興味を示さなかった。その畑山ちゃんが全力疾走する様を初めて見たのだ。

本当にただの友達か? お互いちょっとくらい恋愛感情ってやつがあったんじゃないか? 考えれば考えるほど、モヤモヤしてキュンキュンしてくる。

どうにかして二人を引き合わせる方法はないだろうか。畑山ちゃんがあんなに足が速いと思わなかったから、普通に会わせたらまた鬼ごっこが始まるに違いない。

そこで松尾はあることを思い出してはっとする。ニヤッと笑うと、スマホを持って立ち上がる。それに気付いた恭介が怪訝そうに松尾を見た。

「松尾さん?」

「えっ、あっ、ちょっとコーヒー買ってくる」

「またですか?」

「俺が一日に何本飲んだっていいだろ?」

「はいはい、これ今日中に終わらせたいから早く戻ってくださいよ」

「わかってるよ!」

松尾はそそくさと外に出ると、ある人物に電話をかけた。

* * * *

日比野は隣で黙々と業務をこなす智絵里を横目で見る。背が高く、少しクセのある黒髪、細身の体にピタリとしたスカートとブラウスを合わせている。同性から見てもキレイな子だった。

しかも男性を受け付けず、ピシッと断る姿が凛々しいと女性受けも良い。

ただ誰にも言っていないことがある。その容姿から受付に抜擢された智絵里だが、実は男性が苦手なのだ。だから日比野が男性の来客の担当を引き受けていた。

深く話を聞いたわけではないが、話すことは出来ても、触れることは出来ないという。名刺をもらったり、用紙の記入などは怖くてできないということで、今のようなスタンスになったのだ。

ただ……日比野は今日のことを思い出していた。松尾さんの後輩の子、あの子が触っても智絵里は怖がっていなかった。知り合いみたいだったし、それが理由なのかしら。

いかにも真面目な社会人という風貌に加え、眼鏡が知的な印象を与えた。いつも松尾ばかり見ていたから、あんな子もいるんだと驚く。

「今日来た子って、もしかして元カレとか?」

「ち、違いますよ! 高校の時の同級生です!」

「ふーん……まさかだけど、智絵里ちゃんのその体質の原因とかじゃないよね?」

「まさか! ……というか逆にいつも助けてくれてたんです。なのに私が逃げ出して……。だからちょっと負い目があるというか」

智絵里は寂しそうに笑う。

「なんかお母さんみたいな奴なんです。うざったいくらいに構ってくるみたいな」

その時に日比野のスマホが鳴る。

「智絵里ちゃん、ちょっと出てきていい?」

「どうぞ」

日比野は休憩室に入ると電話に出る。

「もしもし」

『日比野ちゃん? 今日はありがとうございましたー』

「いえいえ、こちらこそ。どうかしました?」

『実はちょっと相談があってさ〜。実は……』

* * * *

松尾からの電話を切ると、日比野はニヤッと笑う。そして頭の中でいろいろな考えを巡らせながら、智絵里のいる受付へと戻って行く。

「あっ、おかえりなさい。電話、大丈夫でしたか?」

「うん、大丈夫よ。ありがとう。ところで智絵里ちゃんさ、今夜って予定ある?」

「いえ、特にないです」

「じゃあさ、せっかくの金曜日だし、飲みにでも行かない?」

「……私飲みませんよ」

「いいよ。あっ、前にホッケが美味しかった居酒屋にしようよ! 智絵里ちゃんの好きなイカの姿焼きも特大で感激してたよね〜」

日比野が言うと、智絵里は目を輝かせて笑顔になる。

「あの店なら大歓迎です! 是非行きましょう!」

よし、かかった。嬉しそうに仕事を再開した智絵里を見ながら、日比野は松尾にメールを送る。

『作戦成功。今夜、駅前の居酒屋にて決行』

するとしばらくしてから返事が届く。

『個室を二部屋予約済み。どちらか一方に入られたし』

『了解』

うふふ。まさか私と松尾さんがオンラインゲーム仲間とは思わないでしょうね。

何も知らずに喜ぶ智絵里を見ながら、日比野はほくそ笑んだ。

熱く甘く溶かして

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