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シャーリィ達が『ロウェルの森』で最後の決戦を行っている頃、シェルドハーフェンでも動きがあった。
ここは帝国の暗黒街。『暁』が盾となり町を守ろうと感謝するのではなく弱体化した隙を狙うような連中が蔓延る街なのである。
六番街。ここは新たに『ライデン社』から導入されたネオンライトに彩られたシェルドハーフェン一の歓楽街。その中心にある巨大なカジノ。シェルドハーフェン有数の巨大組織であり、ギャンブルの女王が率いる『オータムリゾート』の本拠地である。
新たに手に入れた十六番街の復興と経営も順調に進み、莫大な利益を叩き出している彼らは、まさに絶頂期を迎えていた。
カジノの二階にある執務室では、黄昏防衛戦の結果が速くも伝達されていた。
「つまり、上手いこと撃退できたってことか」
鮮やかなピンクの髪を後ろで括り、露出の多い大胆な服を身に纏い執務机に足を組んで座る女性。ギャンブルの女王リースリットは、腹心であるジーベックからの報告を受けて笑みを浮かべる。
「代償として暁はとんでもない被害を受けたみたいだが、黄昏の街は無傷だそうだ。四百を越える群れを撃退なんて、軍隊みたいな快挙だな」
「レイミは?」
真っ先に愛娘の安否を気にするリースリット。その姿勢に内心溜め息を吐きながらジーベックは答える。
「無傷だとよ。ただ無茶をして疲れ果ててるみたいでな、しばらく休むことになるだろう」
「無事ならそれで良いんだよ。シャーリィは?」
「原因が『ロウェルの森』にあるって確信したみたいでな、飛び出していったらしい。相変わらず腰が軽い娘だよ」
「戦いが終わって直ぐに、か?タフだなぁ、シャーリィ」
シャーリィの腰の軽さに苦笑いを浮かべる二人。どっしり構える。シャーリィとは対義語である。
「まあ、あいつらにシェルドハーフェンは救われた状態だ。労ってやるんだろ?」
「支援も忘れんなよ。私達が生きてるのは『暁』が身体を張ってくれたから、だ」
「そう思ってるのはボスだけだぞ」
「は?」
怪訝な表情を浮かべるリースリット。ジーベックはそれに構わず話を続ける。
「暁に少なくない被害が出たって話は街中に広がってる。『ターラン商会』、『血塗られた戦旗』が怪しい動きを見せてるみたいだな」
「おいおい、そりゃ恩知らずってもんだろ!?」
「あいつらからすれば、『暁』が勝手に弱体化したんだ。今がチャンスだと張り切ってるだろうさ」
「なんだよそれ」
不機嫌そうに頭を掻くリースリット。だが話はまだ終わっていなかった。
「他人事じゃないんだよな。うちにもそう考えるバカは居るんだよ」
「は?」
リースリットは目を見開く。まさか『オータムリゾート』内部にも不穏な気配があるとは思わなかったのだ。
「おいジーベック、それ冗談だよな?」
「残念だが事実だ。幹部の中には、暁の弱体化を利用して黄昏を奪おうなんて考えてる奴も居る」
「なんだと!?」
「ボスが暁に肩入れしてるのは、レイミが居るからだ。情で動いてるとな」
「けどよ、十六番街を取れたのは暁のお陰だ。復興でも手を貸してくれたぜ?」
「それも事実だがな、復興はある程度終わった。もう暁の手を借りなくても利益を出せる段階に来てる」
「だから捨てるってのか!?」
机から降りてジーベックに詰め寄るリースリット。
「暁は新参だ。結成してまだ四年、なのに急激に勢力を拡大してる。去年からは郊外に黄昏の街まで作りやがった。当然それをやっかむ古参の連中も多い。そんな奴らと仲良くしてる俺達まで厄介事に巻き込まれるんじゃないかと心配してる奴も居るし、手に負えなくなる前に吸収してしまおうって考えてる奴も居る」
「滅茶苦茶じゃねぇか!」
あんまりな内情に頭を抱えるリースリット。
「小さな頃は良かったんだ。ボスの娘の姉が率いてる。誰も文句は言わなかったさ。けどな、『エルダス・ファミリー』をぶっ潰して街まで作り上げたんだ。しかもあちこちに手を出して景気も良い。まだまだデカくなるのは誰が見ても分かる。それが幹部連の関心を引いてしまったみたいだな」
「私の義妹ってだけじゃ不安になったってか?」
「信頼ほど難しいものはない。騙す騙されるが当たり前だからな。俺はボスとシャーリィの間に損得以上の繋がりがあるのを知ってる。いや、あの少女の性格を知れば、レイミを保護して育てたボスに不都合なことはしないと確信できる。だがな、他の連中はそれを知らない」
「私が言っても意味はないってか。あれか?私が情で動いて利益を失うって考えてる奴が居るんだな?」
「そうだ。俺達は裏社会の人間だ。義理人情ほど不確かなものはない。大事なのは利益だ。それも皆が分かりやすいような奴だな。暁との付き合いで今まで以上に利益が出るって証明するんだ。潰すより仲良くしてた方が得だってな」
「はぁ……面倒臭ぇなぁ。私の義妹だけじゃ信用できないってのかよ。十六番街でも随分と助けられたのによぉ」
うんざりするリースリット。
だがこれはリースリット自身へのやっかみも含まれている。『オータムリゾート』は歴史こそ長いが決して大きな組織ではなかった。
だが、当時十代の少女だったリースリットが頭角を現してからは瞬く間に勢力を拡大。僅か十年で六番街を支配し、顔役である『会合』のメンバーに参加するまでとなった。
だがこの快挙は古参の幹部にとって面白くもなく、なにかと足を引っ張ろうとする。
しかし彼らの存在は組織にとって欠かせない以上、リースリットもその意向を完全に無視はできない。『オータムリゾート』の抱える内側の問題である。
「年寄りの猜疑心って奴は厄介なもんさ。なにかと足を引っ張るような真似をするからな」
「……なあジーベック」
リースリットはジーベックから離れて再び机に座る。
「なんだ?ボス」
「いつか、大掃除をしねぇとなぁ」
そう呟くリースリットの目は恐ろしいほど冷ややかであった。それを見たジーベックは頼もしく思いつつもその真意を図る。
「急ぐか?」
「ああ、シャーリィはまだまだ大きくなる。あいつなら暗黒街制覇も夢じゃないと考えてるんだ」
「随分と買ってるな?」
「身内贔屓抜きにしてもな、シャーリィは私達とは違う視線で見てる。そしてあいつは常識に囚われない。何をするか分からねぇ。そんなあいつの足を引っ張るような真似だけはしたくない」
「それはつまり、最後は『ターラン商会』のマーサ会長みたいな立場になるつもりか?」
「それは分からねぇな。けど、万が一があったら逃げ込むつもりさ。私は賭け事が出来るなら何処でも良いんだ。で、今私はシャーリィに賭けてる」
「そりゃ良い、ボスの勘は信用できる。で、当面の問題はどうやって解決する?」
「取り敢えず果物以外の、日持ちする野菜なんかを売って貰おうか。そいつを貴族様に高値で売り付ける。暁と取引できない地方の貴族を狙えば儲かるだろ」
「なるほどな、それなら暁の商売を邪魔しないし年寄り連中も納得するだろう。だが長続きしないぞ?」
「その時はまた考えるよ。どうせ直ぐに別のことで噛み付いてくるんだからな」
リースリットは苦笑いをしながら方針を決める。不穏分子を抱えながらも『オータムリゾート』は暁との関係を維持することとなった。