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#ご本人様とは関係ありません
あざらし
10
#ご本人様には関係ありません
たべ
103
「友達以上になりたかった」
そう言われてから、ニヶ月。
せらが自ら課した命の期限まで、あと半分くらいになってしまった。
僕はと言うと、”友達”という関係性から変化はあったものの、特に前と変わらない。
友達以上になりたいってそりゃあ、きっと恋人になりたかった、ってことくらいわかる。
あの後、結局言葉に詰まってしまって、そっかとしか返せなかったし、その返答にせらも困ってた。
もっとなんかないの、って。
ないよ、ごめん。
だって、せらのことそんな目で見たことないんだもん。
そんなこと言えるはずなくて、でも少し寄せられた眉と縋るような目が可哀想で仕方なくて、じゃあ、と言葉が漏れた。
「付き合おうよ」
「…は、」
「せらと僕。 ナマでセックスなんて出来なくてもさ、いいでしょ。」
「…同情?」
全て見透かしたような目で、せらが見てくる。
揺さぶって、こちらの反応を伺っている。
動揺するな、風楽奏斗。本当に同情だってバレたら、友達としても関わってくれないかもしれない。そしたら、ヴォルタも壊れちゃうだろって。
「…僕がそんなことすると思うの?」
「…どうかな。奏斗って意外と情に厚いし」
「へ〜?…そんなに疑うなら別に付き合わなくたっていいよ?」
「あっ、嘘冗談だって、…ホントにいいの?」
ちら、といつになく自信なさげにこちらを見てくるから、思わずちょっと笑ってしまった。
それにせらが「ッちょっと」と講義の声を上げる。
面白い。こんなにせらって表情豊かだっけ?
好きの気持ちを伝えたから、せらの中で何かが吹っ切れたのかもしれない。
「いいよ。付き合お、せら。…返事は?」
「、…よろしく、奏斗。」
ーーー
なんてことがあったものの。
正直、学生時代なんて恋愛と無縁の人生を過してきたから、恋人って何するか分からない。
せらは、何がしたいのかな。
キスやセックス、出来ない訳じゃないけど…問題は、僕がせらとセックスできるか、ってことだよね
せらから言ってくれれば、言われたからって免罪符ができて吹っ切れるけど、きっと彼はそんなこと言ってこない。
気を使っているのだ、多分。
僕に無理をさせてるんじゃないか、って。それだけじゃないと思うけど。
変なところで察しがいいから困る。
うんうん唸っていると、例のせらから、ポコンとメッセージが。
『奏斗、今日暇?』
『ちょっとお酒飲みたいきぶん』
ちらり…と壁にかけられた時計を見て、今夜のスケジュールを頭に浮べる。…うん、何も無かった筈。
『いいよ』
『ちょっとだけね』
『やった』
『おつまみ作るからお酒買ってきて』
わかった、とだけ返事をして、手短に支度を済ませ、家を出る。今日はお酒を飲むので車は使わない。
そもそも、家自体近い方だし。
数分歩いた先にある適当なコンビニへ入り、ぽいぽいとせらの好きなお酒をカゴに。ソーダも入れておく。せらが適当なお酒でソーダ割りをしたいって言い出すかもしれないから。
袋に詰めてもらって、気だるげな店員のお礼を聞きながら店を後にする。時刻は八時過ぎ。
ちょっと晩酌するにはいい時間だ。
ふらりふらりとした足取りでせらのマンションに。
エントランスでたぷたぷと部屋番号を押せば、インターホンがかかる。
『はあい』
「せら来たよ」
『まって、鍵開けるね。』
「うん」
透明なガラスのドアが開いてるうちにそそくさとマンション内に踏み込んで、そのままエレベーターの中へ。
この手間がちょっとめんどくさい。セキュリティ的にはいいんだけどな。
そんなことを考えていると、身体を浮遊感が襲う。
エレベーターが上昇を始めた。二階、三階、四階……高度は増していく。それを感じて、背中に冷や汗がツツーっと垂れた。気がする。多分垂れていないけど背中がひんやりして気持ち悪かった。
このエレベーターに外窓なんかがついてなくてほんとに良かったと毎度思っている。
せらのくせに馬鹿みたいに高い部屋に住んでるから、こんなもん外が見えたら卒倒してしまう。
地獄みたいな時間を終えて部屋のドア前まで来たら、再度インターホンを鳴らして、呼び出す。インターホンの代わりにドア奥から声が聞こえる。
開いてるよ、奏斗。
その言葉を聞いてドアノブを捻る。開けたら目の前いっぱいにせらの顔。来たね、なんて嬉しそう。
エントランスを開けてからすぐ駆けて、僕の事をドアの前で待つことが彼のルーティンらしい。
初めて家に行った時は驚いて、いちいち「僕じゃなかったらどうするの」なんて怒ったりしてたけど今更もう言っても仕方ないなと諦めた。そもそもそんなセキュリティもザルじゃないし。
「はい、お酒。」
「わあ、いっぱい。しかも俺の好きなのばっか。」
俺の事わかってるねぇ、なんて口の端をにんまり上げて笑うせら。ちょっとかわいい。
「当然だろって、何年の付き合いだと思ってんだよ!僕ら。」
そう言えば、笑みを一層深くして、ニコニコご機嫌そうに僕の腕をとった。
「いこ、おつまみ用意してあるよ亅
ーーー
急に飲みたくなったから適当な有り合わせおつまみだけど、奏斗のお気に召してくれたらしい。さっきから小動物みたいにもぐもぐ食べている。
「かわいい、奏斗」
「…は、はぁ?そういうのいいから、ほんと」
「なんで?可愛いの、本当だよ」
「…〜〜〜っうるさい、飲みすぎなんじゃないの、そんなのばっか飲んで…」
「え〜…美味しいよ、ストゼロのモンエナ割り。…それに、ねぇ奏斗、俺が酒強いの知ってるでしょ」
俺がそう言えば、むむ…と頬を膨らませた奏斗。
拗ねたように視線を逸らして、サワーをひとくち。
奏斗の桜色の唇がコップのふちに押し当てられる。口の端から飲み物がこぼれ落ちないように少し力を入れてこくこくと飲み干す姿は扇情的で目に毒だった。
その口を衝動的に塞いで、歯列をなぞれたらどんなに気分がいいだろう。
舌を吸ってからませて、大きな目をきゅっと細めて蕩けた顔をする奏斗を目に焼き付けられたら、どんなに素敵か。
もし口内にけががあったら移してしまうし、自分の歯で舌を傷つけてしまったらそれでうつってしまう。
だから、キスすらできない。
だから死のうと思ってたのに、突き放してもらおうと、思ってたのに。突き放して貰えたら、潔く死ねて奏斗の心に傷もつけることが出来たのに。
風楽奏斗は残酷だ。
俺の事が好きなわけじゃないのに、好意を伝えられて突き放しもせず、心を隠して付き合って。
「ねえ」
奏斗が口を開く。コップの中のほろよいは既に無くなっていた。あれ、さっきまで半分くらいなかったっけ。
俺が物思いに耽ってる間なんてそんな長くなかったはず。
一気に煽った?そんなことするタイプだっけ。
「なあに?」
「せぁはさ、ぼくのどこが好きなの?」
アルコールのせいか、質問のせいか。
顔が真っ赤になった奏斗が、とろんとした目でこちらを見る。
腕を組んで、肘を机に乗せたままへにゃり笑う。
ああ、これは酔っている。
「…、飲み過ぎだよ。もう寝る?」
「こたえて、せら。」
食器を重ねて、立ち上がろうとした俺の袖をきゅ、と引っ張って答えをせがむ彼はまるで子供のようだった。
「なんで、そんなこと聞くの?」
「奏斗、俺の事、好きじゃないんでしょう?」
「、え、」
驚きで目を見開き、口を開けたままの奏斗を見て、しまったと思った。
言わないようにしていたのに、するりと言葉が滑った。
どうしよう、どうしよう。
奏斗が困っている。酔いも一気に冷めた。
冷や汗が垂れて、血液温度がサーッと低くなる感覚がする。
まずい、と思った。
動揺で視界が揺れる。どうしよう、こんなこと言って。
奏斗の言葉が嘘だって分かってても、付き合えたのも、そばにいれたのも嬉しかったのに。
振られるんだろうか。振られるんだろうな。
知ってたんだ、って言われて、そのままポイ?
嫌だ、離れていかないで。
やっと俺の事、見てくれたと思ったんだ。
手に入れる前なら諦めだってつくけれど、今はもう無理になってしまった。
人間、一度手に入った大切な人を簡単に手放せるようには出来てないんだから。
なんであんなこと言っちゃったんだろう。気まづくてしんどくて、立ち上がろうとした状態から動けない。
顔を伏せたから、奏斗がどんな顔をしているかもう分からない。目の前には綺麗に片付けられた食器だけ。
おつまみの残骸が浸った汁に、酷く不安そうな男の顔が映っていた。
ーーー
「せら、 セックスしよっか亅
己の失言を思いっきり後悔して言葉が出せないであろうせらの傍によって、耳元で囁いた。 泣きそうな顔の男が、こちらを見る。
潤んだ瞳。申し訳ないという感情と、少しの期待が入り交じっている。似たような目を、付き合う時に見たなと思った。
「意味…わかって、言ってるの」
「うん、知ってるよ」
「、キス、できないよ」
「できるよ、僕が口の中に怪我なんて作る訳ないでしょ。」
「でも」
「後悔、するかも」
…そんなの、今更だってば。
コメント
1件
第2話、めっちゃ刺さった…。せらが奏斗に「好きじゃないんでしょ」って聞いちゃうとこ、切なすぎる。奏斗の同情からのスタートが透けて見えてるのに、それでも付き合えたことを喜んでるせらの心情が痛いほど伝わってきた。キスすらできない理由も気になるし、この先どうなるんだろう…続きが待ちきれない🔥