テラーノベル
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時刻は9時55分。俺は渡辺翔太。
佐久間、涼太以外のメンバーが全員集合した。
これから始まることに興奮を抑えられずはしゃぐ者、今までの痛苦や、やっと叶った成就に静かに思いを馳せる者、いそいそとプロジェクターを壁に設置し、ペンライトの動作確認を行う者、など様々ではあるが、確実に現場は混沌を極めていた。
照が仕切るようにみんなに声をかけ、円陣を組む。
「いい?二人が来たら、絶対にはしゃがないようにね。静かにね。きっかけは俺が作るから。これは二人への俺らの今までの苦情を言外に伝える時間でもあるんだから。」と照が場の空気を一つにまとめる。
「せやで!いつまでもいつまでも、ヤキモキさせたんやから。」口を尖らせて不平を訴える康二。
「それに、翔太だけとかずるくない?そんなの絶対許さねぇ。」俺に飛び火する深澤。
「キャハハ!!ちょー楽しみ!ドッキリの仕掛け人側って初めて!」とはしゃぐラウール。
「任せてください。俺の演技力、今ここで全部魅せる。」絶対に今ここで使うべきではない力を最大限、無駄に使おうとする目黒。
「っ、はあぁぁぁあぁぁぁあ…、ついに、やっと、この日が、どうしよう、俺今日死ぬかも」いつ作ったのか、ピンクと赤の半被を羽織り、額には「さくだてLOVE」と書かれたハチマキを巻く阿部ちゃん。デザインくそダセェな。
「ほら、翔太も何か言いなよ」と深澤にせっつかれる。
いや、特に何もねぇんだけど……。とも言えず、
「が、頑張りましょう」とだけ答えた。
照の気合いを入れる声に、全員の気持ちが一つになり、これからライブなのか?と言うほどに士気が高まった。マジで何なのこれ。
遡るは、昨日の夜。
涼太をご飯に誘い、俺のお気に入りの店で、あいつに佐久間とのことを色々と聞き出そうと思っていた矢先のことだった。
スマホがけたたましく振動し、何事かと確認すると見覚えのないグループチャットが出来上がっていた。
「何このグループ」と送ると、照から
「佐久間が涼太に告白しに行くから、住所教えてあげて」と返ってきた。
「は?どゆこと?」
「流石にもう、俺らが待てなくて、ぶっ叩いて喝入れたら「行ってくる」って言うからさ〜わら」と深澤。
「はいはい、今送ったよ。」と返すと、また深澤から
「あ、そうだ。動画撮っといて!わら」と送られてきた。
「いや、ダメだろ」と返すと、
「翔太だけ立ち会えるとかずるいだろ!!俺らだって見たい!!!」と抗議してきて、それに続くように全員から一つずつ「そうだそうだ〜」と連投された。
うぜ、と思いつつ、ここで撮っておかなければ絶対に明日殺されると思い、渋々了承した。
俺の返事にすっかり気分が高揚したこいつらは、
「明日全員で見ようぜ!! 10時に集合!!」と大興奮であった。
おいおい、、大丈夫かよこれ、、まぁうまくいかないことは絶対にないけど、明日こいつら色んな意味で死ぬんじゃねぇの?と思うと罪悪感でいたたまれなくなった。
そろそろ来るか?と思っていると、バンッと大きい音がして佐久間がやってきた。
俺の仕事はただ一つ。動画の録画ボタンを押すだけだ。
そう言い聞かせて、無心で携帯を見ているふりをした。
ボケーっとしているうちに、佐久間が涼太に襲いかかる。
え?何??パニックパニック。
え、は?うまく行ったの?全然見てなかった。いや、見たくねぇだろ。幼馴染が告白されてるとことか。気まずすぎるだろ。
そうこうしている間にも佐久間の勢いは止まらなくて、いよいよ涼太を押し倒し始めたので、こいつここでおっ始めるんじゃねぇの?と不安になり、思わず佐久間の頭を引っ叩いた。
そこで動画を止め、明日のこいつらに対しての申し訳なさから、伝票をひたくって居酒屋を後にした。
と言うわけで、今日このためだけに全員で集まっている。
なんでもドッキリのような感じにしたいらしく、あいつらが入ってきた瞬間、どんよりと暗い雰囲気を出すそうだ。こんなに焦ったい思いを長年させられて来たんだ。そりゃあ少しくらいは八つ当たりしたい気持ちもわからなくは無い。
まぁ、黙ってりゃいいんだろ、とそこら辺の椅子に腰掛け、あいつらが到着するのを待った。
「おはよーピーマンでありまぁぁぁぁ………す………?」
佐久間大介です!超絶幸せです!
昨日みんなに迷惑かけちゃったし、顔合わせるのちょっと気まずいけど、勇気を出していつも通り大きな声で楽屋に入ると、重く暗い空気が部屋の中に充満していて思わず声を引っ込めてしまった。
え?何、この空気。怖いんだけど…。
え、俺また遅刻した??え、でも今ちゃんと10時半だよね?
不安になり涼太の方を見る。俺の後ろにいる涼太は、まだこの重苦しい雰囲気に気付いていない。気付いていないが、そんなことは気にならないのか、スタスタと部屋の中に入り、翔太へ「おはよう、昨日ありがとね」と声を掛けに行っていた。
「佐久間、座って」と照に声を掛けられ、大人しく座る。
「だてさんも佐久間の隣座って」と涼太にも伝え、涼太は俺の右隣に座った。
やっぱり何か怒られるのかな。めっちゃ怖い。
のし掛かる空気に強張ると、涼太はまっすぐ前を向いたまま、椅子から垂れる俺の右手を取り、握ってくれた。
涼太もこの重さを少しは感じているのだろうか。
大丈夫だよと、言ってくれているように、強く、それでいて優しく繋いでいてくれた。
涼太の手に励まされ、言うなら今だと、みんなに向かって口を開こうとすると、照が遮った。
「第一回、さくだて鑑賞会ーーーー」
…はい?
真顔でタイトルコールをする照に続いて、みんなも真顔で拍手をしながら
「いえーい」と応えた。
「阿部、よろしく」
「ぅぇい」
照の指示に阿部ちゃんが返事をして、プロジェクターの電源をつけ、端末を接続し、電気を消す。
阿部ちゃんの服装、あれ何??え、いつ作ってたの?
デザインださいな!!??!?
映し出されたのは、どこかの個室の扉を開け放つ俺の姿。
待って、これ、昨日のじゃん。
え、翔太撮ってたの!?!なんで!?!!?
そこで、昨日翔太が 罪悪感がどうとか言ってた理由に合点がいった。
俺、涼太、翔太を置いてけぼりにして、メンバーのボルテージは最高潮にまで達していた。特に、阿部ちゃんはどこから持ってきたのか、ピンクと赤のペンライトを両手で振り回している。
「いけ!言え!佐久間がんばれ!!言ったー!!!!よくやった!!いいぞ!!」
「だてさんこっち見たよ!!気付かれた!?なんかしょっぴーにめっちゃ悪口言ってない!?ウケるんだけど!!!」
「なんか、佐久間くんいつも以上にちっちゃくないっすか?」
「だてさん今から返事するよ!!阿部ちゃん音量上げて!!」
「もうMAXだよ!!!!!」
え、何これ。プロレス観戦??
こいつらまじでなんでこんなに盛り上がれるの?メンバーの告白シーンに。
「だてさん、好きだって!!!!やったーーーー!!!!両思い!!!」
「あらあら、だてさん泣いちゃったよ、かぁいいねぇ」
おい深澤。涼太を可愛いって思っていいのは俺だけだぞ。
ーー「…ううん、、うれしいの………っ、、、さくま、すき…すき……だいすき………」
プロジェクターの中で、顔を手で覆いながら涙を流す涼太は、何度見てもやっぱり綺麗だった。昨日聞いたはずなのに、また胸が苦しくなった。
「なんていうか、だてさんめっちゃ乙女だね。」ラウールがぽそっと呟いた瞬間、プロジェクターの中の俺は、涼太に勢いよく飛び付きキスしていた。
今日一番の盛り上がりを見せるメンバーたち。
いや、もう怖いわ。何がそんなに興奮すんの。
この時の意識があまり残っていないから、余計にいたたまれない。
こんながっついてたんだ……恥ずかしい………余裕さなすぎかよ…かっこわり……。
「涼太ごめんね、この時いきなりキスして…」
「へっ、あ、いや、大丈夫……嫌じゃなかったし、気持ちよかった……」
「…っ」
勝手に盛り上がっているあいつらをよそに、涼太と話しているとまた可愛いことを言うので、天を仰ぎ、拳を握り締め、机をバンバンと叩いた。
心臓がいくつあっても足りない。
アングルが変わり、俺の後頭部が映ったと思いきや、それは盛大にぶっ叩かれ、部屋は大爆笑に包まれた。
…もう、楽しそうだからいっか。俺的には恥ずかしすぎてぶっ壊れそうだけど、みんなが嬉しそうで、怒ってなくてよかった。
阿部ちゃんに関しては、大号泣している。大丈夫か。
動画が終わり、みんなで拍手喝采。スタンディングオベーション。
そんな立派なものではない。
ひとしきり落ち着いたところで、涼太と握ったままの手を強く握り直し、
「俺、涼太とお付き合いさせていただくことになりました。これからも迷惑かけることたくさんあるかもしれないけど、見守っててくれたらうれしいです。応援してくれてありがとう。」
とみんなに伝えた。
「大事なのはここからだぞ、絶対にみやちゃん幸せにしてね」
「うん、ありがとう。」
みんなは「おめでとう」と言ってくれた。
涼太と一緒にいられるだけでも十分幸せだけど、こうしてみんなが認めてくれるから、もっと幸せだった。
今日集まったのはこのためだけだったらしく、解散になった。
ほんとに何をしているのか。
俺も涼太も今日はオフだったので、二人で買い物をしながら俺の家に帰った。
陽の光の下、手を繋いで、解けないように。
「はぁ、尊かったわー」
と言いながら、後片付けをする阿部ちゃんに乗っかり、全員でこれまでのことを振り返る。
「まじで時間かかったよねー」
「いつからあんな感じやったん?」
「確か、、ジュニアの頃からじゃなかった?ほんと俺らが結成される前から」
「それでここまでかかったんすね。」
「お互い気づいてないんだもん。重症だよ。」
「昨日俺らが焚き付けなかったら、もっとかかってたかもしんないわけでしょ?」
「うわぁ、それは俺らが耐えられへんわ。」
「ねぇ、見て、今日の動画しょっぴーにもらったんだけどさ、さくだてを見守る会のグループに保存しといた。」
「ラウール、ナイス。随時盗撮して更新しよう。」
「阿部ちゃんはせめて許可を取ろうね?」
阿部ちゃんの帰り支度が終わるのを待って、全員で部屋を出た。
みんなで、あいつらの幸せを願いながら、それぞれの帰路についた。
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