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ロンはナズナに連れられ、巨大樹の根本にやってきた。
「ここが、ホロウシャ?」
「そうよ!ここが私の家であり、職場!ホロウシャよ!どうぞ!中に入って!」
「お、お邪魔しまーす……。」
ロンは遠慮しながらも中に入った。中は花の甘い香りが広がり、中央には会議用のテーブルと椅子があった。中には3人いた。座ったままテーブルに突っ伏している弓を背負った女性、会議用のテーブルの奥の武器倉庫で、何かしている男性、そしてキッチンで料理らしきものを作っている男性がいた。
「みんな!ただいま〜!!」
すると、テーブルにいた女性がびっくりした様子で顔を上げた。そして、その緑の瞳でナズナの姿を捉える。その次にロンの姿を捉える。
「ナズナ…!あんたどこ行って…ってその男は誰よ?そのボロボロなズボン…まさか…!」
「あーっ!!違う違う!この男はロンっていうの!召喚者なのよ!長老のお墨付きね!」
女性はロンを疑い深く見つめた。
「へぇ…あんたあのおいぼれに認められてるんだ?召喚者ってことは魔力も宿してないんじゃないの?」
ロンは答えた。
「魔力核は長老からいただきました。無の魔力核を。まあ使い方はよくわかりませんけど。」
「ふぅん……ナズナ、で、この男をなんのためにここに?」
ナズナは少し躊躇いながらも答えた。
「ロンをここのギルドに加入させてもいいかなー…って思ってねー…。」
「この男を…?…だったら、力を見せてもらわ なきゃいけないわ。 」
「えっ?まさかアイが戦おうってこと…?」
「いや?仕事ぶりでどうするか決めようってことよ。」
「なるほど……試験っていうことね…。」
ロンは唾を呑んだ。
「でも、仕事って何させるの?放浪者はまだきついと思うよ?」
「スライムの討伐よ。村の近くの洞窟でスライムがよく見られるようになったの。噂だけど、そこにはボススライムがいるとか言ってるわ。」
ナズナは気になって聞いた。
「スライムのボスってどんなのよ?」
「これも噂だけど、酸粘体っていう無の力を宿し、酸の器をもつスライムだわ。いとも簡単に鉄も溶かすほど酸は強いから、力を見るならちょうどいいんじゃないかしら。」
「いやいや!鉄を溶かすって食らったら即死じゃない!」
「大丈夫でしょう?ねえ?」
アイはロンに詰め寄る。その瞳はやれるよね?と試すような圧があった。
「だ…大丈夫です…」
「よし!なら今日はもう日没も近いから、また明日よ!とりあえず、あなたの寝床はそうねえ。あっ!ベッドが一つ空きがあるわ!それを今日は使って!ご飯は今、フルルが作ってるからちょっと座って待ってて!」
そう言われるとナズナたちも椅子に座り、ロンはキッチンにいる小柄な少年、フルルの方を見て会釈した。フルルはビクリと肩を振るわせこちらを見てひきつった笑顔で会釈し返し、料理を再開する。そんなやりとりをしていると武器倉庫の方から声が聞こえる。
「おい!!俺の戦斧どこだ!?」
武器倉庫の方から、大きな男性が出てきた。身長は3メートルあってもおかしくない。ゲームなどでいう巨人族だ。その男はロンの姿を見据えた。
「あぁ?なんだぁ?おめえ?フルルでもねえなあ?おめえ、俺の戦斧知らねえか?」
ナズナがツッコむようにいった。
「ちょっと、ガルグ!ロンに聞いてもわかるわけないでしょ?」
「あぁ?確かにそうだなあ!ガッハッハ!!それよりおめえさんロンって言うのか!なんかよろしくなあ!! 」
ガルグはロンの肩をバシバシと叩いた。今にも潰れそうなほど勢いはあったが、無の魔力のおかげか不思議と痛くなかった。
「おい、フルル!おめえ、俺の戦斧知らねえか?」
「ひゃっ……びっくりした…。戦斧なら、テーブルの上にでかでかと置いてあるじゃん……。」
「んっ?あっ本当だ!ったく、気づいてるなら早く言ってくれよー!」
「言わなくてもよかったでしょ……?わかりやすいところに置いてあるんだもん…。」
「確かにそうかもなあ!フルル、あとどんくらいだ?腹が減って減ってしかたねえんだ!」
「もう完成するから…ちょっと待ってろよ……。」
ガルグはおう!と言って、他の椅子より、一際大きな椅子に座った。その姿は玉座に座る王のようだった。
しばらくして、フルルが料理を持ってきた。1人ずつ配膳された。皆、それぞれお肉やサラダ、ご飯などが乗った、定食とでも言わんばかりのものが配膳された。
「ど…どうぞ、あなたも食べてください……。」
フルルがそう促すとロンの前にも定食を配膳した。ロンはありがたくそれを食べることにした。だってこの世界に来てまだ一度もご飯を食べていないのだから。しかし向こうとなんら変わらない食事で少し安心したロンだった。
「じゃあ、いただきます。」
「んっ…!これは…!フルルさん!これ、とても美味しいです!わざわざ、俺の分まで作ってくれてありがとうございます!」
その言葉を聞いたフルルは目を見開き、少し照れたように俯く。俯いたままフルルは言った。
「お…お気に召していただけたなら、よ、よかったです…。」
「ん、フルル、ロンの言葉に照れてんの〜?」
ナズナがフルルをいじるように言った。
「ち、違うよ…!ただ、ちょっと、嬉しかったかもしれない…。」
「素直になればいいのになあ!ガッハッハ!」
ガルグが大きく笑う。
この食事を囲む空間はロンにとっては独り立ちする前が最後だったため、何気に楽しいものがあった。
食事を終え、ロンはナズナに聞く。
「ナズナ、お風呂はどうするの?ここのどこにあるの?」
「お風呂?浴室なら、ここから武器倉庫を左に行ったところにあるよ。でも、今はアイが入ってるからもう少し待ってなよ。」
「ん、わかった。ナズナ、俺、魔法の使い方とか全くわかんないけど、明日どうしたらいいかな?」
「んー、魔法は頭でイメージすることが大事だよ。そのイメージを現実に出現させる的な?」
ナズナは適当に言っているような感じだったが、確かに魔法の核心をついたものではあった。
「イメージ…わかった。ありがとう。」
「はーい。」
ロンはナズナにお礼をした。それとほぼ同時に、浴室からアイが出てきた。
「ナズナ、上がったわよ。次入りなよ。」
「はーい。じゃ、ロンは私の次ねー。」
ナズナは浴室へと軽快な足取りで向かった。会議室兼リビングにはロンとアイの2人だけになった。
「ロン、私はもう寝るから。明日期待してるわ。じゃ、おやすみなさい。」
アイはそう言い、自室へと向かった。
ロンは1人になった。
「…無の魔力…。どんなのが使えるのかなあ?あっ、そういやアイさんが酸粘体の説明で”器”って言ってたなあ。明日、アイさんに聞いてみようかな。」
しばらくして、ナズナが浴室から出てきた。
「はー、気持ちよかった!ロン!次いいよ!」
「あっ、わかった。」
ロンはナズナの出てきた方向に進み、浴室に入った。中は質素な感じだったが、このギルドの雰囲気と相まっていい味が出ていた。木製の棚に籠、石造りを基調とした脱衣所だった。
浴場は少し広めで、こちらも石造りが基調だった。浴槽はガルグでも入れるように横幅も縦幅も広めに造られていた。
「シャワーは…ないか。まあ向こうとは違うよなぁ。んっ?これか?」
ロンの目線の上にはシャワーのようなものがあった。ロンはその隣の蛇口を捻った。
「うわっ!冷たっ!!」
ロンは思わず声を上げた。ただしばらくしてからその向こうのように勢いはないが、シャワーの役目を果たすそれは冷水の攻撃をしなくなった。お湯が出てきて、ロンは安心する。
「んーっ、シャワー?は気持ちいいなあ。これがシャンプー?か?」
ロンの目線の下には、シャンプーとボディソープのようなものがあった。
「なんだこれ?めっちゃ泡立つ!」
お風呂の時間を十分に楽しんだロンは、浴室から上がり、用意されていた着替えにきがえる。リビングに戻ると、ナズナが机に突っ伏したまま、寝ていた。ロンは起こすのは申し訳ないと思ったが、ここで寝ると冷えると思い起こすことにした。
「おーい、ナズナ?ここで寝ると冷えるんじゃない?」
ナズナは夢混じりに反応した。
「んぅ…?氷はサラダにあうよ…?」
ナズナは目を開き、こっちを見る。
「えっ!?ロン?!私いま何か言ってた?」
ロンは意味不明な発言をしていた事は伏せておいた。
「いや?なんも言ってなかったけど。それよりここで寝ると冷えるんじゃない?」
「確かにそうね。ロンが遅いのが悪いのよ!私はロンを客室に案内することを任されてたんだから!」
「客室なんかあるんだ。じゃあとりあえず、案内よろしくお願いします。」
「はーい。こっちよ。」
ナズナはロンを客室に案内する。足取りは起きてすぐだからか、おぼつかないものだった。
「じゃ、私はもう寝るから。おやすみ。」
「おやすみなさーい。」
ロンはベッドに入ると、一瞬で眠りに落ちた。
次の日。ロンは扉を叩かれる音で起きた。扉の向こうからは、ナズナの声が聞こえる。
「ちょっとロン!!いつまで寝てんのよ!もう朝7時よ!!」
そのあまりにも早い目覚ましにロンは少し驚いた。どうやら朝7時は遅すぎるらしい。
「ん…はいはーい。今起きまーす。」
ロンは部屋を出て、ボサボサの髪の毛のまま、椅子に座る。アイやナズナはもう髪が整えられていた。ガルグはそもそもの髪がない。かわりに額には大きな傷が目立つ。フルルはロンと同じようにボサボサだった。
朝食がとっくのとうに用意されていた。みんなでいただきますと言い、食事が始まる。昨日の夜の騒がしさはなく、静かな空間だった。
ロンは昨日の夜、気になったことを聞くことにした。”器”についてだった。
「アイさん。昨日話してた、器ってなんなんですか?」
「…そっか、あなたは別世界の人間だから知らないのね。器っていうのはね、簡単に言うと、その者の能力でもあり、武器だわ。まずは10の魔力核、火、水、自然、風、氷、雷、岩、光、闇、無…が能力のもとになるの。たとえば、火の魔力が宿っている者がいるとして、その者の器は火から連想されるなにかが能力になるの。まあ、なんでもありってことよ。その者の魔力核が火で器が溶岩とかだったら、溶岩使いになるってことよ。」
「…なるほど…。ありがとうございます。ってことは無だったら、何が連想されるんでしょうね?」
「無は、本当になんでもあり。武器が能力だったり、技が能力だったりするわ。たとえば、無の魔力核に器が波動とかだったら、波動が放てるようになるとかね。ちなみに器は最大で5つ所有できるわ。三種類の能力を持って、攻撃手段が色々と増えるってことね。」
「面白いですね…!スライム討伐はいつ頃に?」
「そうね…後1時間後に出発しようかしら。なるべく早くいけば、あなたもいいでしょう?」
「わかりました!がんばります!」
一行は朝食を食べ終え、それぞれ活動用の服にきがえる。ロンは何も服の替えがなく、戸惑っていた。するとナズナが渡してきた。
「はい。これ。フルルの予備の服。フルルがロンさんにこれ使わせていいって言ってたから。」
ロンはその動きやすそうな服を着る。それに付属していた軽装を身に着けた。
「ん。ロン、似合ってるじゃない。それなら多少の攻撃は大丈夫だわ。」
「ロンさん…大丈夫…でしょうか…?俺の…ですけど…きつくないでしょうか…?」
ロンの背後にいつの間に、フルルがいた。ロンは驚いた。
「あっ、すみません…。自分、隠れて行動することが得意ですので…。」
すると、今度はガルグが高らかに笑いながら言った。
「ガッハッハ!おまえさん!フルルに気づけなかったか!まあ無理だよなあ!!」
ガルグは黒い軽装を身にまとい、背中には巨大な戦斧を背負っていた。
アイもいつの間に移動していたのか、武器倉庫の方から出てきた。その姿はエメラルドグリーン色のローブをまとい、腰には矢筒がかかり、背中に精巧な弓がかかっていた。
皆、戦闘の準備が揃い、依頼屋へと向かう。向かいにある家だった。中に入り、スライム討伐の依頼を選び、受けることにした。
一行は村を離れ、巨大な草むらに入る。
20分ほど歩いていると、一匹のスライムが茂みから現れる。そのスライムは魔力核も器も何も持っていない、スライムだった。
「あっ、スライムよ。ほら、ロン、やってみなさいよ。」
「うん。やってみるよ。」
ロンは受け取っていた剣を手にし、スライムに構える。ロンはスライムに斬りかかる。
「ぴょーん!!」
ロンは腹に一撃をくらう。
「ぐふっ!!いったあ…。」
「何してんのよ!そんな半端に攻めたらそうなるわよ!相手の動きをよくみて、行動しなさいよ!」
「…わかった!」
ロンはスライムの動きをよくみて、間合いをとりながら、立ち回る。ロンの初めてのこの世界でのクエストの関門だった。