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それに対し幸人は――
「良い答だ。では何時か、私から奪ってみるがいい」
煽っていた……。
「……幸人さんまで何言ってるのよ!?」
さすがに亜美も呆れるしかない。
「面白ぇじゃん……。じゃあ今回は退いとくけど、何時かアンタから奪ってやる!」
「アンタには聞いてないのっ」
「出来るものならな」
「――ってか、どっちも!」
ますます拗れた感もあるが、確かに場の空気は収まった気もした。亜美だけは気苦労も絶えないが。
「もう、雪季はまだしも、幸人さんまで……」
そう云えばと、亜美は思い返していた。かつて自分も悠莉と、彼を取り合っていた事があったな――と。
勝負は私の負け? それとも引き分けか、はたまた痛み分けか――。
いや、どちらでもない。お互い幸せなら――
「今に見てろよ? 今はまだまだだけど、大人になったらアンタより背も高くなって、かっこよくなってみせるし。悠莉お姉ちゃんから俺のとこに来る位にね」
「それは楽しみだ。期待してるぞ」
亜美を余所に、二人は尚も続けていたが。
「何時まで余裕でいられるかな? まあ俺が十八になったら大人の仲間入りだから、アンタと悠莉お姉ちゃんとの結婚生活は、それまでって事になるだろうね、あははは」
雪季の方も、最初に幸人を見た時の敵愾心が無くなっている。むしろ楽しそうだ。
何はともあれ、幸人と悠莉の結婚には一応、雪季も賛成という事で一先ずの終結を見た。
――そろそろ式の時間が迫っている。何時までも長々と、こうしている訳にはいかない。
「じゃあ幸人さん。また後で」
「ああ。今日はありがとう」
御礼を交わした後、二人は此所を後にする。
「なあ……雪季」
幸人とふと、亜美と共に行こうとする雪季を呼び止めた。
「何? ってか、やっぱり呼び捨て?」
雪季は振り返り、幸人を見る。
「まあいいや。あと数年後という事で、特別に許可するよ」
相変わらず口は悪いが、最初の嫌悪感は既に無い。それは幸人を、暗に認めたという顕れ。
「強い男になれよ。お母さんや悠莉を守れる位、身も心も強くな……。お前なら出来る」
そして幸人にとって、それは親心か。自分の後を託せるだけの――
「……なんか親父みたいな事言うんだな。そんな事、アンタに言われるまでもないよ」
雪季も、もしかしたら気付いていたのかもしれない。
「ふっ……そうだな」
安心したかのように、幸人は微笑を浮かべた。
「それより、後数年とはいえ、それまで悠莉お姉ちゃんを泣かせたら承知しないからな!」
「約束しよう」
“こいつは強くなる。あらゆる面で――”
良い男に育ったものだと、幸人は改めて思った。
名乗り出る事は出来なくとも、その成長具合には感慨深くなる。
「生意気ばかり言わないの。さあ行くよ」
「だってぇ」
「だってもへちまもありません!」
亜美が息子の頭を小突きながら後にする、そんな二人を幸人は何時までも見送っていた――。
*************
――それはきっと、明るい未来の一つ。枝分かれした一つの道。
「うぅ、お嬢の花嫁姿に、オレはもう何も思い残す事はねぇ……」
「ジュウベエったら、縁起でも無い事言わないの。まだまだ長生きして貰わなきゃ」
「そ、そうだな。息子、いやきっと娘だ。その子を見るまでは!」
止まっていた時が、また動き始める――
「本当に綺麗よ悠莉……。でも何故、また此所を選んだの?」
「うん、始まりの場所だから……」
抹消された彼等が生まれた地。世間的には、大手を振っては祝福されないかもしれない――
「それにしても、ルヅキが羨ましいなぁ~。五人目が産まれるんでしょ?」
「あの人ったら、野球チームを作るんだって、張り切っちゃってるから……」
「ますます羨ましいよ~」
「まあ、私も賛成だけど……。賑やかになっていくしね」
「あはは」
「うふふ――」
裏を生きた彼等の道は、これからも困難が待ち受けているかもしれない。
それでも――
彼等は愛する者達と、共に歩んでいく。
※木霊する小さな祝福の歓声。
「――ねえ?」
「ん?」
家族として過ごした二人。そしてこれからは、本当の意味で家族になる――
“幸人お兄ちゃん”
……そうだ。もう“お兄ちゃん”では無い。
これからは――
悠莉は愛する人へ、精一杯の笑顔で伝えた。
「これも宜しくね――“幸人さん”」
※アナザーエンド ~もう一つの結末(終)