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(🍓視点)
“もう、たっくんのこと、すきじゃない”
そう言って車を降りていったリュウキの事を、思わず呼び止めようとして、口を噤んだ。
何を、言おうとした?
こんな話をしておいて、
リュウキに、何を。
……俺には、そんな資格ないだろ。
向き合おうって、決めたのに、
向き合いたいって、思ったはずなのに、
“タクトの事が好き”
先生のたった一言で、
気持ちが、大きく揺れ動いて。
行くのかって、リュウキに聞かれて、
……動揺して、”ごめん”なんて、言って。
こんな俺に、
リュウキの事を、呼び止める資格なんてない。
こんな俺の事を、
リュウキがまだ、好きでいてくれるわけがない。
……きっと、好きで、いない方がいい。
こんな俺に構うより、リュウキはちゃんと、幸せになるべきだから。
……そう、思いたいのに。
初めて、リュウキが好意を否定したことに、
心がどんどん、ずしりと重くなっていく。
揺れたくせに、傷つけたくせに、
どこまで自分勝手なんだよ、
……あんなに、俺の事を、想ってくれていたのに。
あんなに、笑わせようと、してくれたのに。
結局、俺は。
「……っ、あぁ…っ……、」
頭の中がぐちゃぐちゃで、自己嫌悪が襲ってきて、声にならない声を上げながら頭を抱えていると、ポケットの中で通知音が鳴った。
『今日は急に行ってごめん。もしついてきてくれるなら、明後日、研究室に来てほしい』
先生からの、ラインだった。
“明後日”
急に現実味を帯びた期限だけが、そこに、記されていた。
***
上手く眠ることができないまま、気が付くと朝を迎えていた。
“タクトの事が好き”
“もう、たっくんのこと、すきじゃない”
2人の言葉が、ずっと、頭から離れない。
別れてから今まで、
願い続けていた先生の言葉。
ずっと好きだった先生が、
全てを捨てようとしてまで、
俺のところに来てくれた。
ずっと、待っていた言葉だった。
先生が、俺を選んでくれたら。
俺のことをもう一度、
好きだと言ってくれたら。
何度も、そう願っていた。
それが、叶った瞬間、
信じられなくて、
上手く飲み込むことができなかった。
やっと、先生への気持ちを、断ち切ろうと決心したのに。
リュウキと向き合おうと、決めたのに。
戸惑いと混乱で、感情が大きく乱れた。
でも、俺は、
先生が帰った後もずっと、
先生の言葉を思い出していた。
“タクトの事が好き”
仕事をしていても、ずっと頭に浮かんでいた。
時間が経つにつれ、先生の言葉が、じわりじわりと、胸に響いていた。
俺は、やっぱり、
あの言葉を、嬉しいと感じていた。
俺が苦しんでいた間もずっと、
本当は、先生も俺を想ってくれていた。
その事実が、やっぱりどうしようもなく、嬉しくて。
リュウキからの電話に、すぐに出ることができなかった。
先生の事が、頭に浮かんでしまったから。
もう一度電話がかかったとき、リュウキに、先生の事を言い出せなかった。
先生の言葉が、嬉しいと思ってしまった俺の事を、リュウキはどう思うだろう。
こんな事を思った俺が、今日リュウキに会うことは、許されることなんだろうか。
リュウキのことを、悲しませたくなかった。
……いや、きっと、
それだけじゃない。
リュウキに、こんな自分を、
知られたくなかった。
こんな自分を知られたら、
リュウキに嫌われるんじゃないかと思った。
そうなることが、怖かった。
でも俺は、自分勝手にも、リュウキに会いたいと思っていた。
昨日、声を震わせながらも、嬉しいと言ってくれたリュウキに、ちゃんと向き合いたいと思っていた。
先生の言葉に、
最初、あれほど戸惑ったのは、
きっと俺がもう、
そのくらい、リュウキに惹かれているから。
本当に自分勝手な事ばかりで、情けなくて、自分が嫌になった。
自分の気持ちがはっきりとしないままリュウキに会って、結局自分から言い出せないまま、リュウキに気付かれて、話す形になってしまって。
“ごめん”
行くのかと聞かれて、
あのとき、出てしまった言葉は、
ただただ、混乱から来るものだった。
先生に言われた言葉が、本音では嬉しくて、迷っていないと言えば、嘘になる。
でも、リュウキと向き合いたいと思った気持ちが、消えたわけじゃない。
自分勝手で、ごめん。
何も言えなくて、ごめん。
そんな言葉を、口走ってしまった。
“もう、たっくんのこと、すきじゃない”
本当は恐れていたその言葉に、俺の心は、大きく乱されていた。
こんなに揺らいでしまう俺のことなんか、早く忘れて、幸せになった方がいい。
そんな綺麗事のような事を考えながらも、実際は、心が押し潰されそうになっていた。
追いかけ続けていた先生が、近づいて、
追いかけ続けてくれていたリュウキが、離れていく。
そんな、考えてもいなかった現実に、
俺の気持ちはまだ、全然、追いつけてはいなかった。
……
無理矢理に身体を起こして、身支度を済ませると、玄関のドアを開けた。
こんな状況でも、仕事は待ってくれない。
車に乗り込むと、昨日の事が、
また、頭に浮かぶ。
先生が、今までの想いを話してくれた、真剣な顔。
リュウキが、俺の話を聞いて、車から去っていった、苦しそうな顔。
「……っ、」
唇が震えていくのを必死に抑えながら、ただひたすらに、車を走らせた。
信号に引っかかり、車内からふと、大学が目に入る。
俺が、まだ、ここにいる理由。
この近くで、ダンススクールを始めた理由。
その全ては、先生への未練だった。
あの、先生への苦しかった気持ちが報われたんだと、大学を眺めながら、そう思った半面、
リュウキとここで出会ってからはずっと、楽しい思い出しかなかったと、切なくなった。
先生との思い出ばかりだった場所は、
いつの間にか、
リュウキと出会った、大事な場所にもなっていたんだと、大学を通り過ぎながら、気付かされていた。
***
「え?今日、タクトさんがダンス見てくれるんですか?」
「うん。たまにはね」
「やばっ、!」
レッスン室に顔を出すと、そこにいた生徒達が一斉に俺を見て、嬉しそうな声を上げた。
いつもはほとんど、レッスンは信頼を置いている講師達に任せている。
俺は大体、事務所で運営の方に回っているけど、……なんだかみんなの顔が見たくなって、ここへ足を運んだ。
「じゃあ頭からやってみて」
俺の合図で、生徒達が動き始める。
一人一人のダンスを見ながらも、ふと部屋の隅に、視線を向けていた。
リュウキと出会って、ここへ連れて来た日、目を輝かせながらそこで見学していた姿を思い出す。
知り合ったばかりだったのに、その素直さに、可愛らしさに、俺の心は弾んで、気付けば今まで話したことのなかったバックダンサーのことまで、リュウキに話していた。
パッと目の前が明るくなるような輝きが眩しくて、
リュウキの事を、
太陽みたいな子だと思った。
その光は、すっと俺の心に差し込んで、
それからずっと、リュウキは俺の事を、照らし続けてくれていた。
「タクトさん、どうでした、?」
「…っ…、あ、うん、」
生徒達の総評をしながら、このダンススクールの事を考えていた。
先生についていくなら、必然的に、ここは誰かに任せることになる。
……俺も、全てを捨てる、覚悟をしなきゃいけない。
そう、思った瞬間、
リュウキのキラキラした笑顔が、
頭に、浮かんでいた。
***
どれだけ考えても、俺の頭の中は、未だに整理がつかないままだった。
良いのか悪いのか、今日は仕事が忙しい。
事務所でパソコンを眺めながら、
先生の、”明後日”という期限が頭を過ぎる。
それはもう、間近に迫っていた。
まだ決めきれていないのに、仕事をしながら、もしここを任せるとしたら、なんて、無意識に考えてしまっていた。
そうしているうちにだんだんと頭が痛くなって、気付くとデスクの上のキーホルダーに目をやっていた。
……やっぱり俺は、リュウキの事を、拠り所にしている。
そう実感しながら、スマホを手に取った。
毎日スマホを手に取る度に、必ずと言っていいほど入っていた、リュウキからのライン。
その通知がないことを、無性に寂しく感じてしまう。
スマホを握りしめていると、ガチャッ、と事務所のドアが開く音が聞こえ、生徒が顔を覗かせる。
「タクトさん、お疲れ様です!レッスン室の鍵返しにきました」
「お疲れさま…、まだいたの、?」
「はい、俺一人でちょっと自主練さしてもらってて。すみません、もう帰るんで…!」
外を見ると、すでに暗くなっている。
そんなに時間が経っていたのかと焦りつつも、生徒に向き直った。
「歩き?送ってくよ」
「え、いいんすか…っ、?!ありがとうございます…!」
暗い中、一人で帰す訳にもいかない。
そう思いながら車の鍵を掴むと、席を立った。
***
「家どこ?」
「あ、海沿いっす!」
大通りまで車を走らせながら、その若さが溢れる返事に、ふと、リュウキを重ねてしまっていた。
俺が大学で勧誘してきた、ダンスサークルの子。
俺の後輩でもあるし、リュウキの後輩でもある。
……リュウキとは、関わりあんのかな。
「…ねぇ、ちょっと聞いてもいい?」
「え?はい!なんすか?」
「……リュウキ、分かる?3年生の」
「リュウキさんすか?もちろん分かりますよ!なんでっすか?」
「っ、…あ〜、うん…いや、関わりあったりするのかなって、」
何を聞きたかったのか、自分でも意図がわからないままそう濁すと、リュウキの事を話し始めてくれた。
「あるっすよ!めっちゃ優しいっす。…そういやリュウキさん、サークルの集まりすぐ帰っちゃったんすよね…。」
「…え、?」
「なんか珍しくちょっと元気なかったっすね、」
リュウキが俺の車を降りて、去っていってしまったあの日から、連絡できるはずもなく、リュウキの様子を知る術は無かった。
元気がなかった、
そんなリュウキの状態を知って、
俺のせいだと、一瞬で悟る。
「……そっか、」
「はい、…リュウキさん人気者だから、帰っちゃった後みんな寂しがってましたよ」
「……人気者?そうなんだ、」
「そうっすよ。ダンス上手いし、元気だし、優しいし。なんかいてくれると明るくなるっていうか…」
「……っ、…そうだね、」
人気者。
……そうだろうな。
納得がいくのに、リュウキの魅力を知っているのは、俺だけじゃなかったんだと、なぜか悔しい気持ちが生まれていた。
「あ、そういや俺の友達と仲良くて。……ここだけの話、そいつ、リュウキさんのこと好きなんすよ。笑」
「っ、え…?」
「なんか遊びに誘うって言ってたっすけど、どうなったんやろ……って、あれ、リュウキさんじゃないすか、?」
「えっ、……っ、」
指さされた方に視線をやると、コンビニの前にいるリュウキが目に入った。
「え、ちょ、タクトさん!信号赤っす、!」
「っ、!あ…っ、ごめ、」
リュウキに釘付けになっていた視線を戻し、その声に慌ててブレーキを踏み、車を止めた。
再びリュウキに目をやると、コンビニから出てきた男が隣に来て、何やら話し込んでいる。
「あっ!あいつっすよ、俺の友達。ちゃんと遊べてんじゃん!良い返事もらえたらいーけど…」
「……まって、返事ってなに、」
「いや、なんかあいつ、リュウキさんに告ったらしくて。考えさせてって言われたらしいんすよね〜、」
「っ、……へぇ…、」
話を聞きながら、リュウキと相手の後輩の事を眺めていると、胸の中がザワザワと音を立て始め、それは徐々に、大きくなっていく。
「明日、話聞いてやろ〜っと。」
「……明日、?」
「あ、タクトさんも来ます?サークルの集まり、大学であるんすけど。」
「いや……、」
リュウキから目が離せないまま適当に相槌を打っていると、ふいに2人が歩き出し、コンビニから離れていく。
「……、っ、……あ…、」
「え?タクトさん?どうしたんすか?」
リュウキが歩き出して、持ち直したバッグ。
そこにはもう、
俺があげたキーホルダーは、
付けられていなかった。
「……っ、」
“……それ、まだちゃんと付けてんだ?”
“え?”
“これ。”
“え、当たり前やん。たっくんがくれたんやけん”
“……実は気に入ってんじゃなくて?”
“いや、全然?自分で取っとったらトムにあげとう。”
“ぶっ、ふふ…っ、素直だな…っ”
“だって可愛くないやん!”
“おいそれ以上言うなって…っ”
気に入ってもないくせに、
わざわざ、俺とお揃いだって、
もう一度、取りに行ってくれたのに。
……俺は、まだ、
それを、拠り所にしているのに。
「タクトさん、青っす!青!!」
「っ、……、うん、」
静かに、
……でも、確実に、
俺は、光を失い始めていた。
コメント
14件
普通に推しのBLでこんな心抉られると思ってなかったです😭次回も全然抉って頂いて大丈夫です。すれ違いとかいうレベルじゃなくて好きです。みちさんが思い描く三角関係切なすぎますね😭I'm yours you're mineでも毎話締め付けられてた記憶が…笑笑この抉られたての心で世界みたら普通に涙します。部屋中涙の海になってリアル不思議の国のアリスします。

見るのが遅くなってしまった、、、 すごーーーーくもどかしーー!!!!! 🍓はどっちなの!!! 🐿ももう1回ちゃんと🍓に向き合ってー!!! とかって1人で叫んでます笑笑 ぐちゃぐちゃで苦しいはずなのにこういうのが好きな自分がいます笑 2人はどうなってしまうのか!今後が楽しみすぎます❤️✨✨✨ 次回も楽しみに待ってます🍀*゜
うううううぅ切なあああい😭😭😭😭 やっぱみちさんの書くお話がいっっちばん好きです😭💕 こんなの書けるってホンマにすごいです…!読む度思います😭✨️ もーほんまにいつもありがとうございます߹ㅁ߹)♡