テラーノベル
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阿部が岩本の部屋を訪れた時、岩本はソファに座ったまま、ヘッドレストに頭を預けて眠っていた。
テレビでは洋画のエンドロールが流れている。どうやら見ながら寝落ちしたようだ。
阿部は、買ってきたプリンを冷蔵庫にしまった。
それからテレビを消し、岩本を見下ろす。
「…ひかるー?」
声をかけてみた。
反応はない。
「来たよー」
もう一度呼びかける。
やはり起きない。
阿部は一つ息を吐いて、隣に腰を下ろした。改めて、岩本の横顔をまじまじと見る。
長いまつ毛にすっと通った鼻筋、薄い綺麗な唇。
阿部はそれらを観察し、俺の彼氏はやっぱりカッコいいな、と改めて思った。
そっと頬を指で突いてみる。
「ひかる」
もう一度名前を呼んだ。
「…起きないと、ちゅーするぞ」
そう言ってみる。
相変わらず岩本は、目を閉じたまま微動だにしない。
阿部は座り直し、岩本の方を向いた。
「…ホントにするぞ」
横顔をしばらく見つめた後、彼は頬に唇を寄せた。
ほんの数秒そのままでいて、そっと唇を離す。目覚める気配のない岩本を見つめて目を細めた。ソファに膝立ちになって、顔を覗き込む。
「ひかる………だーいすき」
冗談ぽく、でも本気で囁いて、阿部は今度は唇を合わせた。
少し長めに。
御伽話のように岩本が目覚める…なんてことはなく、阿部はちょっとはにかんで、静かに座り直した。
(さて、どうしようかな)
起こすべきか、出直すべきか。
彼は少し考えて、一旦、コンビニに行くことにした。
「…ひかるにもチョコ買ってくるからね」
小さく言って席を立つ。
カバンを手に取り、歩き出そうとしたその時、
「っ!?」
腕を掴まれた。
阿部は驚き振り返る。目を細めてこちらを見る岩本と目が合った。
「え、ひか、」
「もぉ〜、お前はホントに〜」
岩本が満面の笑みを浮かべて、抱きすくめてくる。
「可愛いことして〜」
「ちょ、え、待って、いつ?いつから?」
岩本の腕の中で、阿部は軽くパニックになった。
「起きないとちゅーするぞ、くらいから」
「めっちゃ序盤!」
自分の言動を省みて、たまらなく恥ずかしくなる。じわじわと顔が熱くなってきた。
「なんで寝たふりしたんだよ!」
真っ赤な顔をして言う。
「本当にちゅーするのか、待ってた」
岩本はにこにこ顔で、阿部の髪を撫でた。
「ば…っか、最低!」
「ねえ、もう一回言ってよ」
怒る阿部を意に介さず、ちょっと声を潜めて催促する。
「”ひかる、だーいすき”…って」
「〜〜〜ッ!!!」
蒸し返され、恥ずかしさがピークに達する。阿部は反射的に、岩本の脇腹を殴った。
「痛っ」
思わぬ反撃に岩本が腕を緩める。すると阿部は彼の腕から脱出して、寝室に逃げ込むとドアを閉めた。
「おーい」
岩本は苦笑しながらドアを開ける。ベッドでは阿部が布団を被り、突っ伏していた。その様子があまりにも可愛くて、思わず吹き出す。
「ごめんごめん」
M_Yuzu
520
ベッドに近寄り、布団をちょっとめくる。恨めしそうに睨む阿部と目が合った。
「そんな怒んないで」
岩本は言うが、阿部は布団を引っ張り、また隠れてしまう。
「阿部〜、出てきて〜」
布団をつついて促した。
「………悪趣味なんだよ!全部聞いてたとか!」
勢いよく布団がめくられ、真っ赤な顔をした阿部が起き上がった。
「可愛かったから」
「可愛くない!」
岩本の言葉に食い気味に阿部は言う。岩本は少し考えた。
「…いや、可愛かっ」
言いかける岩本の顔に、阿部は枕を投げつける。それを難なく受け止めて、岩本は笑った。
「笑うな!」
「わかった、ごめん」
彼はベッドにあがり、喚く阿部のそばに胡座をかいて座る。不貞腐れる阿部は、岩本を見ようとしない。
「でもさ、俺は嬉しかったの。阿部から言われて」
穏やかな口調で言うと、阿部はちらりと岩本を見た。
「素面の時、あんま言わないじゃん。キスしてくれることも、さ」
阿部の顔を覗き込む。
「だから、ホントに嬉しかった」
笑顔でそう言われて、阿部は何も返せなくなり、困ったように頬を掻いた。
「…それでもさ、寝たふりは反則だろ」
口を尖らせ、まだ不満げに言う。
「それはごめん」
岩本は笑いながら謝った。
「もー、反省してない!」
「してるしてる」
そっぽを向く阿部の肩を揉み、そのまま後ろから抱きしめる。
「…俺も亮平、だーいすき」
そして耳元で低く囁いた。
阿部の身体がぴくりと反応する。肩越しの頬が赤らむのが分かった。
「っ、ひかるは…ずるい」
阿部は小さく呟く。
悔しそうな口調に岩本は笑った。
「ねえ、やっぱりもう一回言ってよ」
「…今日はもう言わない」
食い下がる岩本の腕を解いて、阿部はベッドを降りた。
「じゃ、明日は言ってくれんの?」
寝室を出る阿部を追って、岩本は尋ねる。
「気分による」
阿部はぶっきらぼうに返した。リビングを突っ切り、キッチンへ入る。
「来週は?」
「しつこい!もう忘れろ!」
赤面しながら彼は、冷蔵庫から出したプリンを岩本に押し付けた。
「………プリンだ」
岩本は手の中のそれを見て、興味を奪われる。以前から食べたいと言っていた、有名菓子店のプリンだったからだ。
「え、マジか、ありがとう」
表情を明るくする岩本に、阿部は複雑な顔をする。
「切り替え早っ。俺よりプリンかよ」
「阿部も好きだけど、プリンも好き」
いや、どう考えてもプリンの方が好きだろ、と阿部は苦笑した。
「まあいいや。一緒に食べよ」
そう促して、ソファに戻る。
並んで座って、プリンを口に運んだ。
「美味しい。卵が濃い」
岩本が目を輝かせて言う。
「並んで買った甲斐がある」
阿部は彼の反応に、嬉しそうに返した。
「今さ、俺の『好きランキング』プリンが1位だけど、これ食べ終わったら、また阿部が1位だから」
「あぁ、はい、ありがとね」
ゆっくりプリンを楽しむ岩本の言葉に、阿部は雑に返す。
そしてふと気になって岩本を見た。
「そのランキング、他に何がランクインしてんの?」
問われて岩本は少し考える。そして
「チョコとタピオカ」
そう答えた。
「食い物ばっか」
予想はしてたが碌でもないランキングで、阿部は笑った。
「…阿部のことも、この後ちゃんと美味しくいただくんで」
プリンを食べ終えた岩本が、ニヤリと笑って言う。突然の話題の方向転換に、阿部はスプーンを咥えたまま固まった。
「おかわりもしたいね」
始まる前からのおかわり宣言に赤面する。岩本は身体を阿部の方に向け、その太ももにそっと手を置いた。
「そしたら阿部、いっぱい言ってくれるでしょ。…『だいすき』って」
阿部は無言のまま、プリンを飲み込んだ。
今日は言わないと嘯いたが、きっと言わされる。岩本に甘く囁かれたら、本音は容易く溢れてしまうのだから。
阿部は伏目がちになって、濃厚なプリンをもうひと匙口に運んだ。
プリンの甘さが、急に増したように感じた。
この甘さはプリンのものなのか、耳元で囁かれた岩本からの”だーいすき”のせいなのか。
その答えがはっきりしないまま、阿部は最後の一口を飲み込んだ。
それは、いつもより少しだけ甘かった。
コメント
15件
もう2人とも可愛すぎて苦しい💛💚
💛💚が尊い‥そして続きが気になります(。>﹏<。)
可愛すぎて死にます………💛💚🍮