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「おいしい!」
小さな口いっぱいにケーキを頬張る詩音に湊は自然と頬を緩めた。
「喜んでもらえて良かったよ。詩音ちゃんは、ケーキは好きなのかな?」
「うん! すきだよ!」
くすくすと笑う詩音はすっかり湊に懐いていた。
話しかけられれば嬉しそうに返事を返す詩音の 様子を見ながら和葉は胸の奥がざわつくのを感じていた。
(この子がこんなに懐くなんて……)
自然に笑い合う二人の姿が、和葉をどこか複雑な気持ちにさせていた。
やがて湊が腕時計に視線を落とす。
「そろそろ部屋に戻るよ」
「もうかえっちゃうの?」
それを聞いた詩音は残念そうな顔をする。
「また会えたら、その時はもっと沢山話そうな」
「またあえる?」
「そうだな、会えるといいな」
「あいたい! やくそくしよ!」
そう言って詩音が小指を差し出すと、湊は嬉しそうに指を絡めた。
「あの、ケーキとプレゼント、ありがとう」
「良いんだ、喜んでもらえて何よりだよ」
詩音と和葉に見送られて部屋を出る際、湊はポケットから小さく折り畳んだ紙を取り出して、「これ」と言いながらへ差し出す。
「…………?」
受け取った紙を開くと、そこには電話番号とメッセージアプリのアカウントが書かれていた。
和葉が顔を上げると湊は穏やかに微笑んだ。
「無理にとは言わない」
「……っ」
「でも、出来ることなら、連絡して欲しい」
真剣な眼差しで見つめながらの言葉に込められた想いを感じ取った和葉の胸は小さく揺れたけれど返事は出来ず、ただ黙って頷くだけ。
「それじゃあ、な」
「バイバイ!」
詩音が大きく手を振ると湊も笑顔で手を振り返し、お互い扉が閉まる直前まで続けていた。
湊が帰った後、和葉は詩音と一緒に入浴を済ませて寝かしつけをする。
今日は疲れているはずなのに、嬉しさから興奮していて詩音はなかなか眠ろうとしない。
「ねぇママ」
「何?」
「おにーちゃん、やさしかったね」
その言葉に和葉の動きが一瞬止まる。
「……そうだね」
「またあえるかな?」
「……どうかな」
「やくそくしたからきっとあえるよね!」
そんな風に無邪気に笑う詩音を前に和葉は何も答えることが出来なかった。
それからほどなくしてようやく寝息を立て始めた詩音の髪を撫でながら和葉は小さく息を吐き、起こさないよう静かにベッドから降りるとバッグの中にしまっていた紙を取り出した。
記されていた番号をスマートフォンへ登録し、名前を入力する画面で指が止まる。
暫く迷った末に名前を入力して保存をし、メッセージアプリの方は登録せず、アカウント名だけはメモに保存をした。
それだけで、電話をかけることは出来なかった。
(……出来るわけ、ないよ……。それに、次なんて無いから……)
そう思いながら目を伏せた和葉はスマートフォンの画面を消してベッド横のチェストの上に置くと、ベッドに入って眠りについた。
コメント
1件
うわぁ…詩音ちゃんが湊さんにすっかり懐いてて、その無邪気な笑顔がすごく可愛かった🥺💕 でも和葉さんの胸のざわつきが痛いくらい伝わってきて、複雑な気持ちになったよ…。連絡先もらっても電話できないもどかしさ、わかるなあ。次がないって自分に言い聞かせるところ、切なかった。