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Doors好きな主
42
学生時代のある日、アルバイトを終えて携帯を見ると、先輩からメールが入っていた。
「今日の夜、久々に麻雀やるから、バイト終わったら急いで来てくれ」
当時はかなりの頻度で集まって卓を囲んでいたのだが、この話の出来事があった頃は皆の予定が合わず、前回の集まりから1ヶ月以上空いていた。
久しぶりに打てるのが楽しみで、私は急いで先輩のアパートへ向かう。
毎回の会場となっていたアパートは、防音がしっかりしていて、深夜に麻雀をしても隣室にはほとんど音が漏れないという好物件。
しかし駐輪場が狭く、入居者の自転車やバイクでいつも満車だったため、少し離れた有料駐輪場を使わなければならないことだけがネックだった。
その日もいつもの場所に自転車を停めたところで、携帯が鳴る。
「今どこ?」
「いつもの駐輪場に着いたところです」
「中島が急用で帰らないといけなくなってさ。悪いけど走ってきてくんない?」
「わかりました」
途中のコンビニで飲み物を買いたかったのだが、待たせるのも悪いと思い、寄り道は諦め走り出す。
名残惜しくコンビニへ目をやると、雑誌コーナーに見覚えのある人が立っていた。
(金山先輩だ!)
麻雀を通じて知り合った他学部の先輩で、いつも笑顔を絶やさない、明るい人だった。
金山先輩もこちらに気づき、ガラス越しににこりと笑ってくれる。
立ち寄って話したかったが、麻雀のメンバーを待たせていたため、軽く頭を下げるだけにして、そのままコンビニの前を走り抜けた。
「お疲れ様でーす」
先輩の部屋へ駆け込むと、中島先輩はまだ卓についていた。
「おう、陽木。急がせて悪かったな」
「いえいえ、大丈夫ですよ」
「この局までやっていくから、そのあと代わってくれない?」
「わかりました」
愛想よく答えながらも、心の中で「飲み物買えたし、金山先輩とも話せたじゃん」と、少し毒を吐く。
やがて中島先輩が帰り、私が空いた席へ座ると、いつものように麻雀が始まった。
学校の話やくだらない雑談をしながら、勝ったの負けたのと騒ぐ。久しぶりの空気が楽しくて、私も何気なく話題を出した。
「そういえば、来る時に金山先輩がコンビニにいましたけど、誘わなかったんですか? 誘ってたら、俺が来るまで待たなくてもよかったのに」
私は笑いながら言ったのだが、誰も笑わなかった。
さっきまで騒がしかった部屋が、不自然なほど静まり返る。
何かまずいことを言ったのかと戸惑っていると、1人の先輩がゆっくり口を開いた。
「陽木、金山を見たの?」
「え? 見ましたよ」
「いつ、どこで?」
「駐輪場に着いてすぐです。急いでたんで、外から頭下げただけですけど……コンビニにいましたよ」
「本当に? 本当に金山だった?」
あまりにも真剣に聞かれるので、戸惑いながら返す。
「絶対、金山先輩でしたよ。どうしたんですか、喧嘩でもしたんですか?」
しばらく答えが返ってこなかったが、重苦しい沈黙に耐え兼ね、やがて1番年上の先輩が呟いた。
「金山、死んだんだよ……」
「またまたあ! 冗談にしても不謹慎ですよ!」
反射的に笑ってしまった。
イタズラ好きな先輩達のことだから、私を驚かせようと全員で仕組んだのだろう。そう考えれば、筋書きはいくらでも思いついた。
私がアルバイトの日に合わせて麻雀を開き、中島先輩を途中で帰らせる。近くのコンビニには金山先輩を待機させ、私に姿だけ見せておく。
急ぐ私が声をかけずに通り過ぎるところまで、性格を読まれていたのかもしれない。
そんな、手の込んだイタズラであってほしかった。
けれど、先輩達の顔には笑みがない。
「正月休みが明けても、金山が学校に出てこなかったんだ」
話し始めたのは、金山先輩と同じ学部の先輩だった。
メールを送っても返事がなく、電話もつながらない。心配になった仲間達でアパートへ行ったものの、部屋には鍵がかかっていたという。
不動産会社へ事情を説明したものの、友人だというだけで、ドラマのワンシーンのようにすんなり開けてもらえることはなく、不動産会社から金山先輩の家族へ連絡を入れることとなった。
すぐに母親に連絡がつき、事情を説明し、金山先輩に電話をかけてもらう。普段から実家へ頻繁に連絡する人ではなかったようで、正月だろうが連絡がないのはいつものことと、家族も異変に気づいていなかったらしい。
母親から連絡しても電話が繋がらなかったようで、許可を得て部屋を確認することになったという。
「不動産屋の人と一緒に、金山の部屋に入ったんだけどさ……」
そこで、先輩の言葉が途切れる。
この先に続くものは、聞かなくてもわかった。
「……その先は、大丈夫です」
私がそう言うと、状況説明は終わった。
しばらくして、静かに話し出したのはまた別の先輩。
「陽木は金山のこと慕ってたし、金山もお前のこと可愛がってたからさ。俺達で相談して、お前には言わないでおこうって決めたんだ」
そして、「今日が金山の四十九日なんだ」と教えられた。
法要は親族だけで行うと連絡があったらしく、自分達は自分達なりに弔おうと集まったのだという。
金山先輩が亡くなってから、皆で麻雀をする気にもなれず、それまで頻繁に開いていた集まりは途絶えていた。だからこそ四十九日を迎えるその夜に、金山先輩が好きだった麻雀を、久しぶりに皆で打つことにしたらしい。
あの日の麻雀には、いつもとは違う意味があったのだ。
「実家の方で四十九日の法要もあっただろうに、わざわざ陽木に姿を見せたんだな。よっぽど、お前のことが気になってたんだろうな」
その言葉を聞いた瞬間、堪えていたものが一気に崩れる。普段は人前で泣くことなどないのに、その夜ばかりは子どものように声を上げて泣いてしまった。
翌日、先輩達から教えてもらった金山先輩の実家を訪ね、事情を話したうえで墓参りをさせてもらう。
墓前で手を合わせながら、口から出てきたのは、たったひと言。
「金山先輩、ありがとうございました」
あれが最後だったのかどうかは、今でもわからない。
ただ、コンビニの中からこちらへ向けられた笑顔は、生前と何ひとつ変わらなかった。
見ているこちらまでつられて笑ってしまいそうな、柔らかないつもの笑顔。
その笑顔の裏で、金山先輩がどれほどの苦しみを抱えていたのか、私は知らなかった。
今となっては、何を考えていたのかを本人に尋ねることもできない。
だからせめて、あの時見せてくれた笑顔を覚えていたいと思う。
そして今はただ、安らかに眠ってくれていることを願うばかりだ。
この話を書くことには、今でも少しためらいがある。
あまりにも出来すぎていて、まるで作り話のように聞こえるからだ。
以前、別の投稿サイトで同じ体験を書いた際には、「嘘だろう」「作り話ではないのか」「霊を視たこと自体は本当でも、美化しているだけではないか」といった言葉を受けた。
私は、信じるかどうかは、読む人それぞれで構わないと思っている。
すべての人に信じてもらえるとは思っていないし、信じてもらおうと思って書いてもいない。
それでも、これは私自身が体験した実話である。
実話怪談集と銘打って書く以上、私自身が体験したこの話を書かずにいるのは違う気がした。
信じてもらえるもらえないは別として、あの夜にあったことを、できる限り記憶のまま書き残しておくことにする。
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