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――入学式は、静かに始まった
朝の空気は、妙に張りつめていた。
石段を上るたび、草履の裏が乾いた音を立てる。
視界の先に見えるのは、巨大な鳥居と、その奥に広がる学園の建物群。
――。神名術式学園
俺はその名前を、頭の中でもう一度なぞった。
ここは、神名術を正式に学び、使うことを許された唯一の学園。
神の名の一部を魂に刻まれた人間――神名術師を、管理し、育てる場所。
「……思ったより、人多いな」
独り言は、すぐ人のざわめきにかき消された。
派手な家紋を背負った名家の子。
術具を自慢するように身につけたやつ。
明らかに自信満々な視線。
俺はその中で、できるだけ目立たない位置を選んで歩いた。
別に緊張しているわけじゃない。
ただ、目立つ必要がないだけだ。
――俺の神名術は、そういう術だ。
やがて、本殿前の広場に全員が集められた。
高等部新入生、総勢百数十名。
壇上に立った学園長が、低く、よく通る声で告げる。
「これより、入学儀礼ならびに――四式寮配属の発表を行う」
四式寮。
神名術の性質を、四つの“式”に分類した制度だ。
・朔式――制御、影、始まり
・焔式――攻撃、衝動、破壊
・律式――秩序、理論、制約
・澪式――循環、調和、適応
優劣ではない。
……建前上は。
実際は、焔式が一番派手で評価されやすく、
朔式は「地味」「実戦向きだけど華がない」と言われる。
俺は、自分の配属先をなんとなく予想していた。
「朔夜」
名前を呼ばれ、前に出る。
「神名――『朔』。
配属、朔式寮」
ざわり、と小さなどよめき。
「やっぱりな」
「地味枠か」
そんな声が、耳に入る。
予想通りだ。
驚きはない。
俺の神名術は、攻撃じゃない。
防御ですらない。
戦場の“位置”を、ほんの一瞬ずらすだけの術。
派手な評価なんて、最初から期待していない。
席に戻ろうとした、そのとき。
「――神代 澪」
名前が呼ばれ、自然と視線が向いた。
一人の美しい少女が、静かに前へ出る。
背筋はまっすぐ。
表情は、驚くほど落ち着いている。
無駄な動きが、一切ない。
学園長の声が続いた。
「神名――『澪』。
配属、澪式寮」
今度は、はっきりとしたざわめきが起きた。
「神代って、あの神代家?」
「名家が澪式?」
「焔じゃないのか?」
少女――神代 澪は、周囲の声に一切反応しない。
ただ一度だけ、視線を上げた。
その視線が、なぜか一瞬、俺の方に来た気がした。
……気のせいか。
すぐに視線は逸れ、彼女は静かに席へ戻る。
クールだな、と思った。
感情を外に出さないタイプ。
焔式に行けば、もっと目立てただろうに。
――本人が選んだのか。
それとも、術の性質か。
どちらにせよ、
同じ学園、別の寮。
この時点では、それ以上の意味はなかった。
まだ、この出会いが、
学園の戦いを、
そして俺自身の立ち位置を変えるなんて――
考えもしなかった。