コメント
0件
👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!
翌日、教室は昨日と同じように賑やかで、でも私はどこか心がざわついていた。
ちぐさは、私の横に座るといつも通り笑顔を浮かべた。
「おはよう、さな!」
その声に、私は小さく頷く。笑顔は忘れない。演技だから。
でも、胸の奥は重く、息が詰まる。
ちぐさが楽しそうに話すたび、私の中の冷たさが少しずつ広がる。
彼女は、無邪気に私だけを見てくる。
その視線が、昨日よりもずっと鋭く感じるのは気のせいじゃない。
授業が始まっても、ちぐさは私に絡み続ける。
私がノートに目を落としても、手を叩いて話しかけてくる。
「さな、昨日の放課後、何してたん?」
その質問に、私は表情を変えずに答える。
「家で勉強してた」
――本当は、何もしていなかったのに。
でも、こんな些細なことに嘘をつくのはもう慣れっこだ。
休み時間になると、ちぐさは私の机の前に座り込み、ぺたっと顔を近づけて笑う。
「さな、ほんまに私のこと好き?」
――馬鹿みたいな質問だ。
心の中で軽くため息をつく。
「もちろんやで」
口に出すと、ちぐさの目が輝く。
私の中で、少しだけ罪悪感が生まれる。
でも、その罪悪感はすぐに冷める。
だって、私は本当に彼女のことなんて好きじゃない。
大嫌いで、面倒で、息が詰まる相手だ。
それでも、表面上は“仲良し”を演じ続けなければならない。
放課後になると、二人きりの廊下。
ちぐさはまだ、私の腕を軽く引っ張る。
「さな、もうちょっと一緒におられへん?」
笑顔は無邪気で、私を縛る鎖みたいに重い。
――もう限界や。
でも、まだ言えない。
私は微笑む。嘘の微笑みを浮かべて、彼女の腕をそっと振りほどく。
ちぐさは少し不満そうに目を逸らす。
でも、それ以上は言わない。
――その微妙な沈黙が、二人の距離をますます縮めることも、広げることもなく、ただモヤモヤと空気に溶けていく。
今日もまた、私は“仲良し”のふりを重ねる。
胸の奥で、ざわつく苛立ちを押し殺しながら。