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翌日。
厨房には、
久しぶりにまともな匂いが漂っていた。
焼ける生地。
トマトソース。
溶けるチーズ。
Pizza guyは腕を組みながら、
隣の吸血鬼を睨んでいた。
「だから、生地はそんな勢いで伸ばすなって」
「力加減が難しい」
ノスフェラトゥは真顔だった。
だが手元では、
ピザ生地が若干裂けている。
「お前ほんと不器用だな……」
「繊細な作業は得意ではない」
「村一個潰す方が得意そう」
「否定はしない」
「する努力しろよ」
Pizza guyは呆れながら、
ノスフェラトゥの手を押さえた。
「もっとこう、優しく」
「……こうか?」
「そう」
吸血鬼の大きな手が、
ぎこちなく動く。
妙に真面目だった。
「チーズは?」
「欲張るな」
「前回少なかった」
「お前が焦がしたからだろ」
「…………」
図星らしい。
Pizza guyは吹き出した。
そんなやり取りをしていると。
カタン。
窓が開いた。
「へぇ」
聞き慣れた女の声。
ストリガだった。
窓枠に座り、
金色の瞳を細めている。
「なにこれ」
厨房を見回す。
粉まみれのテーブル。
不格好なピザ。
そして、
エプロン姿のノスフェラトゥ。
数秒の沈黙。
そのあと。
「っ、あはははは!!」
爆笑。
本気だった。
ストリガは腹を抱えて笑い始める。
「ちょ、待って……!」
「反逆者、何してるの!?」
「エプロン!?!?」
ノスフェラトゥのこめかみに青筋が浮く。
「殺すぞ」
「無理、今のあなた全然怖くないもの!!」
ストリガは笑いすぎて涙目だった。
Pizza guyまでつられて吹き出す。
「ははっ……!」
「お前似合ってるぞ、その格好」
「お前まで言うのか」
「いやだって、昔“処刑人”だった奴が粉こねてんだぞ?」
「…………」
ノスフェラトゥが静かに顔を逸らした。
若干、
不貞腐れている。
その反応が珍しくて、
Pizza guyはまた笑ってしまう。
ストリガは笑いながら厨房へ降り立った。
「ねぇ、私にも作って」
「断る」
ノスフェラトゥ即答。
「ケチ」
「お前は、人の獲物へ手を出した」
「まだ怒ってるの?」
「当たり前だ」
ストリガは肩をすくめる。
それから、
Pizza guyをちらりと見る。
「でも気になるのよねぇ」
「“人間の食事”って」
その言葉に、
Pizza guyは少し考えた。
それから新しい生地を取り出す。
「……食うだけならいい」
ノスフェラトゥが即座に振り返る。
「おい」
「食事くらい別に減らねぇだろ」
「減る」
「減らねぇよ」
「減る」
「子供かお前」
ストリガはくすくす笑う。
「独占欲すごい」
ノスフェラトゥは無視した。
だが赤い目だけは、
明らかに不満そうだった。
しばらくして。
三枚目のピザが焼き上がる。
今度は比較的まとも。
……比較的。
「端また焦げてるぞ」
「火が強かった」
「お前加減を覚えろ」
「難しい」
ストリガは椅子へ腰掛け、
興味深そうにピザを見る。
「変なの」
「何が」
「吸血鬼が同じ食卓囲んでる」
確かにそうだった。
終末世界。
化け物。
古代種。
なのに今、
三人でピザを囲んでいる。
意味が分からない光景だ。
Pizza guyは一切れをストリガへ渡す。
「ほら」
彼女は受け取る。
少し警戒するように匂いを嗅ぎ、
小さく齧った。
沈黙。
「……どうだよ」
ストリガはゆっくり飲み込む。
それから。
「……あったかい」
ぽつりと呟いた。
その声は、
さっきまでと少し違った。
「血みたいに熱いだけじゃないのね」
ノスフェラトゥが静かに彼女を見る。
ストリガはしばらくピザを見つめていた。
それから小さく笑う。
「そりゃ、あなた変わるわ」
「?」
「こんなの毎日食べてたら」
金色の瞳が細められる。
「“人間”を思い出しちゃうもの」
厨房が静かになる。
ノスフェラトゥは何も言わなかった。
ただ、
隣でPizza guyが追加のチーズを乗せるのを、
静かに見ていた。
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