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最近やたらとみ!るきーずの中で“さのじん”というワードが飛び交っているように思う。もちろん3080とかYJとか、いろんな愛称でいつも俺たちのことを呼んで認識してくれるのは大変ありがたいことだ。
盛り上げてくれて嬉しいし、M!LKの仲の良さをもっとたくさんの人に知ってほしい。
でもちょっと…あれなのだ。最近勇斗がやたら俺にしつこく「かわいい」というワードを連発したり、ここぞとばかりにスッと隣に寄ってきたりと、あいつはおそらく“さのじん”の最近の盛り上がりに味をしめている。
勇斗のことなので色々考えた上での行動なのだともちろんわかってはいるし、これには案の定毎度み!るきーずもかなり喜んでくれているようだ。
俺は俺で頑張りたいところではあるものの、わざとらしく“さのじん”なんて展開にもっていく術もなく、性分でもなく、でもそれが勇斗のおかげでむしろ良い!みたいなよくわからんことになっている。この手に関して勇斗には毎度敵わない。
他のメンバーもなぜかあたたかく見守るに徹する姿勢(放置)やちょいちょい茶々をいれる一連の流れを身につけてきているし、もうされるがままに近いというか…諦めの境地というか…別に嫌なわけじゃないけど、いや嫌なんだけど、さすがに反応に困ってきたというか、いっつもこんなでいいのか!?とか、俺はどうすればいい!?その境地である。
「仁ちゃん」
Youtubeの撮影終わりにセットの椅子でそのまま、少しぼんやりしていたら勇斗が横に立って俺を見下ろしていた。
怒っているでも揶揄っているでもない、いつものトーンでの「仁ちゃん」は、そんなことを考えていたせいか少し新鮮に耳に残る。
「…今動画まわってんの?」
「まわってないけど」
「なに」
「この前みんなで話してたとこ、さっき柔太朗がもっかい確認したいって言ってるからちょっと来てこっち」
「わかった」
勇斗って前からこんな感じだったっけ?
“可愛がられ期間(?)(不本意)”に突入して以降、こういうことをふと考えることが増えた。
絶対に考えすぎだ!と思いつつ一度考え出すとつい癖がついてしまい、勇斗の言動がいちいち気になる。
(こういうところなんだろうな)
大智に言われた通り、きっとこう過剰になるから良くないのだ。頭ではわかっている。
(普段から仁ちゃんとか呼びだしたら、逆になんかよそよそしくない?それって)
良くない頭で良くないことを考えている。
勇斗はM!LKのために、俺の為に、常に考えて行動してくれてるはずで、いまだって、その延長線だ。
そうだ、俺だって普段それくらいしてるし。してた、多分。
というかそもそも、よそよそしくない?ってなんなんだ。
うるせぇ思考を説き伏せながら部屋を出て広い廊下を歩きながら、いくつかのドアを横切る。
「勇ちゃんさ」
前を歩く勇斗の背中に何気なく、呼びかけてみた。
「ん?」
足は止まることなくいつもの少しそっけない、でもしっかりと耳を傾けてくれている返事が返ってくる。
「…いやなんでもなかったわ」
「さっき俺が仁ちゃんて呼んだの気にしてんの?」
図星。
その間わずか1秒にも満たず。あっさりとそんなことを言われた。
「は?…え、呼んでた?」
どういう意味なのかはわからずともカッと顔が熱くなる感覚、後から悔しさと何故か苦しさが追いついてきた。
全てを見透かしているかのようにふっと下を向き笑う勇斗の気配をその後ろで感じながら
佐野勇斗という人間には敵わない。
そんで俺は考えすぎ。
と思考がまた振り出しに戻った。