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「ギルバート様は、私を望んでいらっしゃらないのでしょうか? もし他に想い人がいらっしゃるのなら……」
少しムキになって言うと、言葉の途中でギルバートが首を横に振った。
「いや、そうじゃない。語弊があったな、すまない」
すぐに否定し、謝った彼を見て印象が変わる。
(意外だわ。軍人さんで元帥閣下なのに、素直に謝るのね)
軍人と言えば、男性が中心で世界ができていると考える頭の固い人という印象があり、女性に謝る事などないと思っていたので、少し意外だった。
そこにワゴンを押したメイドが現れ、執事が二人に香りのいい紅茶を出す。
ギルバートは紅茶を一口飲み、尋ねてくる。
「君は自分がこうなった経緯を知っているか?」
「いいえ。私は父の意向に沿ったまでです」
「ふむ……」
彼は納得したように頷き、顎に手をやる。
「私の歳は聞いているか?」
「はい、三十二歳になられたと」
「そうだ。君から見れば歳が離れすぎているかもしれないが、〝死神〟と呼ばれる私も妻がほしいと思っている。色んなあだ名が一人歩きしているが、私はただの人間だ。自分を愛してくれる妻、子を普通に望んでいる」
「はい」
彼が普通の人間らしい事を感じていると知り、シャーロットは安堵する。
加えて彼があだ名を不本意に思っているのも、少し意外だ。
今まで抱いていた勝手なイメージでは、誰に何を言われても動じない人と思っていたからだ。
「〝英雄〟と呼ばれるようになった事は喜ばしいが、軍人である事と無愛想な性格、片目を失った事。……様々な出来事が重なって、人に避けられている。少しでも機嫌を損なえば、一家もろとも虐殺されるとか……馬鹿らしい噂と共にな」
それは本当に不名誉だと思っているのか、ギルバートは深い溜息をついて紅茶を一口飲み、話の続きをする。
「十月堂事件の事は知っているか?」
「はい。閣下が〝英雄〟と呼ばれるきっかけになった出来事です」
返事をすると、彼は一瞬目を泳がせ、続けた。
「陛下は褒美として、私に『何かほしいものはないか』と尋ねられた。私はそれに対し『妻がほしい』と答えたのだ」
「あぁ……」
シャーロットは納得して吐息をつく。
それで未婚だった自分に白羽の矢が立ったのだ。
「なるべく波風の立たない……、言い方は悪いが、寡婦や出会いがない女性を……と言ったのだが……」
そこで先ほどの、失礼ともとれる発言を思いだして合点がいった。
「それで、最初に『君のような若い娘が』と仰ったのですね?」
衝撃的な言葉の理由が分かり、シャーロットは何度も頷く。
「さらに白状すれば、君が選ばれたのには別の理由がある。君の父君……アルバーン伯爵は十月堂事件の時、現場を管理する役目を負っていた」
「存じております」
一年前の事件のあと、アレクシスは責任を負わされて死刑になるのではと怯えていた。
食欲もなくなり髪も抜け、当時の父を思うと気の毒でならない。
しかし調印式がつつがなく行われたのは、すべてギルバートの勲功による。
「あの事件のあと、君の父君は危うい立場にあった。そこで陛下は挽回の機会をお与えになった。……という事だ」
「そうですか……」
父があんなに苦しげな表情をしていた理由が、やっと分かった。
「だから、もし君に結婚する気がないなら、辞退しても構わない。若い君には様々な可能性があるし、陛下の命令で私のような男の妻になるのは気の毒だ。嫁ぐのが嫌なら、陛下には私から断った事にする」
「ですが……」
「君だって夫が嫌われ者なのは嫌だろう。私は必要があれば人の命を奪うし、今までも数え切れない人数を殺してきた。部下に命じた人数を含めれば、数え切れないほどだ。おまけにこの目は……、妻となる女性を見る事ができない」
彼が口にする〝理由〟を聞いていると、わざと自分を遠ざけようとしているように思える。
「お優しいのですね」
「は? 何を言っている?」
微笑んで言うと、ギルバートはキョトンと隻眼を見開く。
「決めました。私、閣下の妻になります。歳の差も、噂も、隻眼である事も関係ありません。私は閣下の優しさに惹かれました」
言い切ったあと、シャーロットは複雑な表情のギルバートを見て微笑み、頭を下げた。
「これから宜しくお願いいたします」
「……君がそう言うのなら……」
彼女を望んだはずの死神元帥は、戸惑いながらも承諾した。
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