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年末最後の日曜日だったと言うのに昨日は酷い事になった。
きっかけは最初に庭にモンスターを召喚したときに家の撮影で遣り取りがあった中坊である。
こいつは、あれ以来何度か日曜日に来ていたのだが、それなりに顔を合わせて話をするようになっていたので召喚モンスターの話の一環でランクアップの話をしたのだが。
この中坊、昨日ネットにそれを書き込んだらエライ反応になったと抜かしおる。
Gランクモンスターのランクアップ位で何を言い出すのやら、と思えていたのは書き込み先の【引洲敗阿市ローカルスレ】というスレを読み終えるまで。
スレ内では俺のモンスターの話題があり、それぞれにファンを獲得しているようだ。
ふ~ん。すごいなー ファンが付くとか憧れちゃうなー
俺にはまだ一人も居ないみたいなのに、皆はもう人気者なんだね…… すごーい……
俺も、半ズボンを穿けば一人はファンが付くのかな……?
うん、人気があるのはまぁ分かっていた事なんだ。毎週人が集まっていたしね。俺、ほとんど通訳していたしね。
いかん。俺の評価を高める一助になればと思って初めたモンスター地域交流計画が俺の存在を埋もれさせるとは……!
ゴメン、嘘ついてカッコつけた。そんな計画はない。正直モンスターを人に見せるとか特に考えてなかったし、何かそういう流れに流されていたら予想外に人が来て、今更止めたらご近所の評判が悪くなってムラハチになると彼女が出来なくなるというネガティブ思考の結果、現状維持していただけだったんだ。
うん。こんな事、想像すらしていなかったのは確かなところだ。ウチの庭がわくわくモンスターふれ合いパークになるとか予想できるか!
くそ、面倒な事になった。このままランクアップさせて大丈夫か?
よし。考えろ、もう一度よく考えるんだ。このままランクアップすると……
モンスターの見た目が変わる → ご近所さんの総合評価がマイナスになる → あの家の息子さんが、という類の噂が流れるというかネットで拡散する → ステータスデバフ《悪い噂》が年単位で付く → 彼女が出来なくなる → BADEND:(首で)ぶら下がり健康法、始めました。
Noooooo!!!!!
さっきと変わらんというか悪化した! BADENDは何処から出てきた!
何と言うことでしょう、必要と思われた「周りの評価」が「モンスターの周りの評価」に変わるとあら不思議。
俺は企業の社長でも、先祖代々の名家・金持ちでもないのに地域貢献のノルマっぽい物が発生しました。
まぁ素敵。
そんな訳あるか!!! チクショーめ!
最終的には、それでもランクアップはする。
「何か冒険者やっていて少しお金を持っていそう」主観的に観た自分の高校での今の評価はこれだ。
どの道、中級にはならないと俺個人の評価は上がらないだろうし、年明けのイベントで活動資金を増やせないと高校生活の間にこれ以上俺の評価を改善するのは非常に難しいだろう。
……それはそれとして正直この意図しなかった「モンスターの周りの評価」は、惜しい。
無かったものとして切り捨てることはできるが、これも外付けのステータスの一種と捉えると俺の人格の保証として役に立つ事は想像できる。「何をしてるかよく分からない冒険者」より「地元で良い意味で有名な冒険者」の方が良いのは明らかだ。
この評判を捨てるなら次は「チョイ悪だけど凄い冒険者」位になる必要があるだろう。
そして、話を戻すとこのままモンスター…… 特に王王王をランクアップすると確実に一人、問題になると思われる人物がいる。
あれはそう、三週間前の話だ。近所の女の子に襲撃を喰らったんだ。ああ、比喩的表現じゃなくて文字通り。
通訳の合間に縁側で寛いでいた所、最近日曜朝にやってる『ふたりもプニキュア』というアニメの杖の玩具を二刀流で「ぷにきゅあでゅお・えくすてぃんくしょん・えぐじすてんす!」という長くて実に物騒な掛け声と共に人の顔に振り当ててきやがりました。
杖の先がハート型の柔らかクッションなのは玩具会社の配慮なのだろうか。角張ったデザインだと危ないとか、固いとかえって壊れやすくなるのかな。ポフポフ何度か叩かれながら、どうしたものかと思いながらもそんなどうでもいい事を考えていたら親御さんが謝りながら引き剥がして行ったけど。
後で親御さんに事情を聞いたらゴッコ遊びの類ではなく、お嬢さんは俺がプニキュアの「コアクトーン」なる悪役だと思って友達の王王王を助けるために俺を倒そうとしたとの事。コアクトーンはジャー・アックンなる悪の親玉の手下で毎回登場して、あの手この手で人間の悪い心をドスクロイ・ヨクボーなる魔法の杖に集めて悪の魔法の力を使うらしい。何回か前のお話では洗脳魔法で主人公の友達を操ったらしく、俺も同じ様に王王王を洗脳していると思ったらしい。アニメではコアクトーンを倒せば魔法が解けたので、これまた同じ様に俺を倒せば洗脳が解けると思ったとか。
最近の女の子は凄いな。友達のためとはいえ俺の幼稚園生か小一の頃は知らないお兄さんに暴力を伴う喧嘩を売るような真似はとても出来なかったな。
散歩するときに、いつも王王王の背中に乗って楽しそうにしていた子なので、名前は知らんが覚えてはいた。
友達の為に奇襲を仕掛ける子だというのは、この時初めて知ったが。ついでに名前もその時覚えてしまった。愛華というようだ。
そして昨日の日曜日、愛華ちゃんは犬の貯金箱を持ってウチに来た。
おかね たくさんあります
これをあげますから わんわんおーちゃんをずっとここにいさせてください
わたしのおともだちを とおくにつれていかないで おねがいします
貯金箱を差し出して、泣きながらそんな事を言ってきた。
土曜日にローカルスレの書き込みを見て対策していなければ、即死だった。
事前に展開の予想が出来ていなければ、俺に何が出来ていただろうか。
親しい人以外の他人と話すときは、前もって用意していた言葉を使わなければロクに会話も出来ない俺に。
事前に準備していた子供向けの説明と、王王王の説得(?)が功を奏したのか、ランクアップ後にすぐに会わせる事を約束してようやく泣き止んでくれて、母さん経由で連絡して迎えに来たご両親・貯金箱と一緒に帰ってくれた。
俺も部屋に帰って泣き出したい所だが、来ていた・来た&説得を見ていたお客さんへの対応・説明をしなければ「健気に見える女の子を泣かせた畜生冒険者」としてネットに晒されてしまう……!
お客さんが全員帰った後、父さんはポン、と無言で俺の肩を叩き「頑張ったな」と一言言った。
母さんも「頑張ったわね」と言いながら頭を撫でてきた。恥ずかしいので止めてください。
今まで深く考えなかったけど、今日の惨状は俺の自業自得だが、二人は巻き込まれた被害者の立場だ。
「父さん、母さん。今日はありがとう、迷惑掛けてごめんなさい」
「いいんだよ」
「母さん達は楽しんでいるんだからいいのよ」
そう穏やかな声音で二人は言うと、
ガシッと力強く俺の肩を掴んで、
「「ただ、何で今日の事は前もって言ってくれなかった」」「んだ?」「のかしら?」
アッハイ、自分の事で頭がイッパイイッパイで、お二人に相談するのを……
何故だろう、今になって涙を流しながら、昨日の事まで思い出して整理した。
うん、思考が脇に逸れた。今は愛華ちゃんの件だ。
昨日の約束で一旦納得はさせたが、やはり相手は子どもだし不安は尽きない。
このまま時間ギリギリまで考えて何も思い浮かばなければ、打てる限りの手は打ちつくしたと自分を納得させて予定通り装備販売店に行くしかない。
そんな時に、あいつらは来た。