やってきたのは池流と鍵留の二人だった。
こんな時にと思わないでもないが、俺もお嬢ちゃんの件を相談したい。
部屋に来た二人に例のローカルスレと昨日の件を話すと、
「へー、そんな事になったのか。前から知らん人間が集まってヒーヒー言ってただろう守が子育ての相談をするなんてなぁ」
「子育てじゃねーよ。害獣対策みたいなもんだよ。面倒過ぎるわ」
「またまた、守殿ったら。本当は狙っているのでござろう? 全日本男児の夢、光げモガ」
クッションを叩きつける。
「最後まで言わせねーよ!狙ってねーよ!俺が今欲しいのは真っ当な彼女で、成功するか分からん彼女育成計画なんて今からやったら十年以上掛かるわ!」
あれって男が絶対的なイケメンで権力者だから出来た奇跡で、現実には女が別に男を作って逃げるだろう? 俺は詳しいんだ。十年手間隙掛けて育てた彼女候補を他の男に取られて逃げられる惨劇を経験したいとか究極のMか精神崩壊経験志願者かな?(白目
「とにかく何か幼女の機嫌をとる方法を時間制限付きで考えにゃならん。タイムオーバーになったら泣くか泣かんか博打のお時間です」
「ランクアップを止める」
「本末転倒。論外」
「飴」
「誘拐犯か。第一、子供の執着はそんな物でごまかせると思うか? 却下」
「玩具」
「お帰りはあちらです」
「辛辣ぅ!」
「ネタ出しはありがとう。だが今欲しいのは事態を解決できるたった一つの冴えたやり方なんだ」
「同じウルフ種を用意するはどうでござるか?」
「俺も考えたけど、ダメだ」
あの子が執着しているのは「ウルフ種」ではなく「王王王」だ。
そこを履き違えて代わりに別のウルフを連れて行ったら……
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「ほ~ら、愛華ちゃん。新しい王王王ちゃんだぞ~」
にこやかに微笑む俺。
俺の指示で愛華ちゃんに親愛表現を示すウルフ。
そして泣き出す愛華ちゃん。
「ちがうもん! こんなのわんわんおーちゃんじゃないもん! やっぱりおまえはコアクトーンだ! わんわんおーちゃんをかえして! かえしてえ うわああああああん」
言葉を失う俺、うなだれるウルフ、泣き続ける愛華ちゃん、必死に愛華ちゃんを宥めるご両親。
「すみません、今日のところは」と言う言葉に促されて為すすべもなくその場を離れる俺とウルフ。
それからしばらくして、ご近所の噂に心を病んでいがみ合うようになった父さん、母さん。
居た堪れなくなり家出した俺は旅路の果ての冬の夜、ノートルダム大聖堂に飾られた絵の前でウルフと一緒に眠りに付き、悪魔の手で地獄へと誘われるのであった。
BADEND No.三百三十三 ょうじょを騙せなかった男
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「こうなるのが目に見えているだろう。俺は彼女も出来ていないのにノートルダム大聖堂に巡礼の旅に出るつもりは無い」
「途中まで嫌なリアリティに溢れていやがるな……」
「いや、拙者はまだ守殿に余裕があるように感じるでござるよ?」
「とにかく騙し誤魔化す方向は十四個までシミュレートしてみたが全部失敗した。子どもは大人の誤魔化しに敏感だし、できれば俺も約束は破りたくない。何よりこれ以上のシミュレーションは俺が無理」
もう心とリアルポンポンがペインでマキシマムなのぉ!
「守、もういい! もういいんだ! お前は頑張った、もう休んでいいんだ、ゆっくりと休め……!」
ベッドの上でのた打ち回る俺が鎮まるまでしばし。
「ふむ。拙者たちが今日来たのは別の用件だったのですが、こうなると丁度いいのかもしれませんな」
「鍵留、あの話をするのか? ああ、確かに丁度いいと言えばそうなのか」
「? 何の話だ?」
そう思っていたら、池流が持ってきていたバッグから札束を取り出した。
札束? うん、札束だな。 サツタバナンデ? 軽く混乱する。
「単刀直入に言おう。俺と鍵留で二十五万ずつで合計五十万貸す。守、このお金で妖精を買わないか」
「拙者と池流殿がバイトして貯めたお金でござるよ、後ろ暗い物ではござらん」
オマエラは何を言っているんだ。
池流、お前バイクを買って(エア)彼女とツーリングするんだって言ってたじゃないか。
鍵留もそれ、今年の冬の祭典の軍資金じゃないのか!?
それを指摘すると、
「何、気にするなよ。あげるんじゃなくて貸すんだぜ? 守が今度のイベントで入賞したらすぐに稼げるようになるんだろ? こいつは投資ってやつだよ」
「デュフフフフ、守殿がどうしてもと言うならトイチで利子を計算してもいいんでござるよ?」
越後屋ァ!
「いや、確かに金は欲しいけど、でもさすがに悪いぞ、コレ」
「気にするなってのに。今度のイベント対策に良し、小野麗尾モンスターパークの評価アップに良し、王王王と一緒に愛華ちゃんの友達として売り込むも良し」
「いやぁ、ギリギリではどうかと思いましたが、反ってタイミングが良くなりましたでござるな」
「いや、でもな」
「まぁ聞けよ。これは俺らにとってもメリットのある話なんだ。」
「池流殿にとっては、守殿とモンスターパークの評価が上がると相対的に友人としての池流殿の価値も上がり、パークの来園者数増=女性との出会いの機会増となる訳ですな。」
「ははっ 騙して悪いがコレも俺の為でな!」
や、別にお前らからは騙されたとは思わんが。
「拙者としては拙者自身の評価はどうでも宜しいのでござるが、気付いたのでござるよ」
「何に」
「守殿が冒険者として出世すれば…… それだけモン娘との出会いの機会が増える事に!!!」
「お、おう」
「拙者自身が冒険者になる事は出来なくとも守殿が既になっていてお金さえあればモン娘呼び放題の環境。友人たる守殿なら詐欺の危険を考えずに済むでござるし、なにより気軽にモン娘に会いに行けるでござるよ!」
「そりゃ来るなとは言わんが」
「と、まあ三人どころか皆幸せになれる訳だ。もし今度のイベントがダメでも守ならちゃんとお金を返してくれるだろうし」
「そりゃお前等に限らず借金を踏み倒そうとは思わんが」
「二十五万は大金でござるが、そう言う守殿なら信用して貸せるでござる。冬の祭典は惜しいですが、生フェアリーたんに会い放題のフリーパスの会員権を買ったと思えばモーマンタイでゴザル。あ、愛華ちゃんに拙者がフェアリーたんの出資をした足長オジサンだと伝えても…… いいのでござるよ?」
今回ばかりは最後の一言は無視に留める。命拾いしたな、鍵留。だが次は無い。(無慈悲
「わかった。そういうことならありがたく借りるわ。利子も期待しといてくれ。」
「「アイヨー」」
で、アルか。
もう時間だな。
ありがたいな、こいつ等には本当に頭があがらない。
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