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奏樹―命を歌うものたち―

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13 - 第9話:はじめての共鳴(シエナとウタコクシ)

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2025年06月03日

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第9話:はじめての共鳴(シエナとウタコクシ)
都市樹の外縁――光が強すぎず、風も穏やかな“羽休み枝帯”に、

シエナは静かにとまっていた。


ミント色の羽がやわらかく揺れ、

尾羽の先は淡く透明に透け、枝の上で小さな波紋のように反射していた。


その肩に、ウタコクシ――

ガラスのような翅を持つ、小さな録音虫が一匹、そっと留まっていた。




この虫は、シエナにしか鳴かない。


それは「命令歌」でも「記録されたコード」でもなく、

ただ、感情や共鳴だけが詰まった音だった。


シエナは、それが“共鳴”という感覚であることを、

この日、はじめて知った。




その音は――


羽音にも似ていて、

けれど明らかに「ただの動き」ではない。

音の高さでもなく、リズムでもなく、

鼓動と重なるような響きだった。


シエナは、反射光で答えようとする。

尾羽を広げ、一定の間隔で光を枝に向けて散らす。

それは「ここにいるよ」のサイン。


ウタコクシは、シエナの背で翅を震わせ、

ほんのわずかに匂いを放った。


それは、記録虫にしてはめずらしい行動だった。




匂いは――やわらかい花と、雨の混じった香り。

それは、**「安心している」**という虫の感覚だった。


記録するだけの存在が、

**感情として何かを“返す”**ことなど、

本来この世界では想定されていない。


けれど今、

命令を超えて、

構造を越えて、

ふたりだけのやりとりがそこにあった。




シエナの中で、なにかがほどけた。

ずっと「歌えない」ことに縛られていた自分。

歌わなければ、命令できない。

命令できなければ、都市と話せない。

そんな思い込みが、静かに崩れていく。


共鳴は、音じゃなくても起きる。

光でも、匂いでも、

そこに“感じよう”という意思があれば。




そのとき、足元の枝がわずかに動いた。


脈動ではない。

命令歌も使っていない。

ただ、シエナとウタコクシの“共鳴”に反応して、

枝が“居心地を整えるように”傾いたのだ。


それは、都市樹の小さな“返事”だった。




枝の奥で、他の虫たちが静かに翅を震わせる音が聴こえる。

命令でも呼ばれていないのに、

彼らは近づいてきていた。


「伝わったんだな……」


遠くの枝で見ていたルフォが、そうつぶやいた。

金色の羽に光が滲み、声を出さずに、ただ目を細める。


歌えないハネラと、命令を記録しない虫。

その出会いが、**世界の中でひとつの“新しい言語”**を生み出していた。

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