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#ファンタジー
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「……随分と軽量化もされておるが、品質は超一流じゃ。よほど奥方に使ってもらいたいんじゃろうて」
ランディーニがばさりと羽を大きく羽ばたかせた。
再び池が煌めく。
「……池で釣れるアイテムコンプリートまで、あと何種類ぐらいかしら?」
「奥方以外が釣った物も含めるかのぅ?」
「含めていいです」
本当は自力でコンプリートをしたかったが、そこまでの時間はなさそうだ。
「あと五十二種類じゃな」
「どれだけあるの、服飾小物!」
私は叫びながら竿を振るう。
即時の当たり判定。
「……そうきたか」
「愛されすぎじゃなぁ、奥方は」
かかっていたのは、宝箱。
開けるまでもなくわかった。
自力でコンプリートしたかった分が入っているのだと!
おそるおそる宝箱を開ける。
宝箱のサイズは100×50×40といったところ。
竿を持ち上げたら地面に鎮座していた。
当然重さは感じなかった。
しかし中身は凄かった。
「……奥方一人で集めきったようじゃぞ」
「そうね。ダンジョンに感謝とかどうすればいいのかしら? 別途池にも感謝したいのだけれど」
「奥方の場合。素直に感謝の祈りでよいじゃろう」
奪取しなくてもスキルが生えそうな気がしてきた。
不要なスキルなら夫が封印してくれるだろう。
さて、感謝は口にしてすべきもの……。
「洋服ダンジョン三階の池さん。おかげさまで釣りが……釣りと言って良いかもはや不明だけど、とても楽しかったです。どうもありがとう。心から感謝いたします」
直角に腰も曲げておく。
深々と頭を下げた。
途端。
目を開けていられないほどの光が放たれた。
咄嗟に目を閉じる。
『こちらこそ、時空制御師最愛様に楽しんでいただけて嬉しかったですわ!』
池の声がはっきりと聞こえた。
ここまで通じるのね、夫の威光……。
怖いわー、と内心で囁く。
「主様。準備が調いました」
「了解! じゃあ、隠しフロアへと参りましょうか」
「待ってました!」
何処まで高性能なのか、ノワールの休憩小屋は転移が可能らしい。
三階で休憩小屋を召喚して子供たちを入れて安全を確保。
隠しフロアへ入ってから、隠しフロア内に休憩小屋を転移させるとのこと。
こんなときは、恒例のあれだね。
さすノワ!
ノワールにこほんと咳払いをされてしまった。
今後も心の中だけでしか言わないので許してほしい。
「……それで、奥方よ。隠しフロアへの入り口はどこなのじゃ?」
「あ、そこは私頼みなのね?」
「最初からそうに決まっとるじゃろ!」
決まっていたらしい。
ランディーニの物言いに、ノワールが勢いよくその頭を叩く。
これも一種のノリツッコミの関係なのだろうか?
必須ですよ! と夫に言われていたけれど、優秀な周囲のお蔭ですっかり使っていなかったスキル、地図を展開する。
目の前に大きなウィンドウが現れた。
ゲーム画面に目一杯広がる感じ。
「うわ……」
喜ぶべきなのだろう。
三階の緻密な地図が展開しただけでなく、赤い矢印をタップすると地図が拡大されて、隠しフロアへの入り口! と御丁寧に書かれていたのだ。
自分がどの方向を向いているのかわかる矢印が出るので、方向音痴の自分でも迷わないですむだろう。
案外一人で放置されても生きていける気がした。
夫との繋がりは切れないだろうしね。
「しかし、一番大きい道のど真ん中に階段が隠されているとは……誰か気がつきそうなものだけれど……」
私は矢印が点滅する場所までメンバーを先導し、足元をこんこんと叩く。
音もなく下へ降りる階段が現れた。
「隠しフロアって普通、三階にない?」
「……っていうか、今までの報告例ってそうではなかったかのぅ? ノワール」
「自分の経験ではそうでございますね。ランディーニ?」
「うむ。我の知識でも初めてじゃな」
なるほど。
そもそも存在しなければ、気がつけるはずもないってね。
私が肩を竦めて階段を下りようとするも、ランディーニの羽で止められた。
先頭は彼女に変わるらしい。
「……これはもう。ダンジョンとは言わぬぞ?」
ランディーニの合図で隠しフロアへと足を踏み入れた。
某国際展示場の一ホールを使った、展示会のように見受けられる。
各ブースで静かにモンスターが佇んでいた。
看板やノボリなども立っている。
ますます某おたくイベントのようだ。
ものは試しにと地図を展開してみた。
各ブースはブロックにも分かれているようだ。
一階、二階、三階、隠しフロアのブロックに分かれている。
お勧めルートは隠しフロアブロックからスタートして、三階、二階、一階とのことだ。
そっか。
お勧めルートも出るんだ……遠い目をして地図を覗き込んでいる私とは対照的に、他のメンバーは嬉々として地図を覗き込んでいる。
皆にも私の地図が見えるのは便利だ。
「敵がいないのであれば、一人行動でも構わぬな!」
止める間もなくランディーニがすっ飛んでいく。
ノワールの伸ばした手が届かない早さだ。
何かめぼしいものでも見つけたのだろう。
「私には子蛇と子蜘蛛がいるから皆も、自由に見て回っていいわよ?」
私の声に瞬時、躊躇ったのはノワールだけだった。
「では。主様。くれぐれもお気をつけくださいませ」
深々と頭を下げて、走るよりも速いスピードで歩くノワールの背中から、バーゲン会場へ挑む猛者の気配がする。
「うちらはのんびり行こうねー」
右肩に子蛇、左肩に子蜘蛛を乗せた私はゆっくりと歩き出す。
「二人のお勧めはあるの?」
子蛇が右側に首を向け、子蜘蛛は左側に一本の足を向けた。
一瞬の沈黙。
二人は、あっちむいてほい! を始めた。
じゃんけんは無理だもんねぇ。
ほのぼのと見守っていると、子蛇が勝利したようだ。
私は頷くと子蛇が示すブースへと足を運ぶ。
子蛇が案内してくれたのは、様々な希少石のルースが売られているブースだった。
店員さん? は、蛇系モンスター。
上半身人で下半身は蛇。
髪の毛も蛇。
そして指も蛇なんだよね……。
二次元の中でもあまり見ないタイプ。
いっそ手がない方が多い気がする……話がそれたわ。
希少石よりも店員の指を凝視してしまった。
失礼に当たるよね? と目をそらそうとしたら、蛇たちの鎌首が振られる。
鑑賞OKらしい。
寛容な子たちだ。
「純粋な驚きだけで観察される方は少ないですし、最愛様は雪華様を従えていらっしゃいます。最愛様に敵対心を覚える蛇は少のうございましょう」
綺麗な深い緑色をした蛇目をにっこりと細めた店員は、指先を差し出してくれる。
なかなかない機会なので、小さな蛇の頭を撫でてみた。
我先にと頭を差し出してくる様子が愛らしい。
十匹満遍なく撫でる。
肩に乗っている子蛇が何故か満足げに胸を張っていた。
「……さて。当店では金銭による販売はしておりません」
「一応ダンジョンだから、そうかなぁとは思っていました」
「まぁ、最愛様の特別フロアですし、御方様からの御助言もありまして……」
店員が微苦笑を浮かべる。
結構な無理を強いられたのかもしれない。
どう見たって高位モンスターだろうから、シャツやブラウスたちと違い、思うところが多そうだ。
「こちらの七点で一番高い物を選んでいただきたく……」
ケースが差し出された。
中には綺麗な宝石が鎮座している。
「右から、ダイヤモンド、エメラルド、ルビー、サファイア、アレキサンドライト、パライバトルマリン、タンザナイトでございます。大きさは全て一カラットになっております」
ダイヤモンドはブリリアンカット、エメラルドは不純物が見られず透明度が高い、アレキサンドライトはグリーンからピンクに変わるタイプ、パライバトルマリンの天然物は初めて見る大きさで、タンザナイトは深く美しいブルーパープルだった。
どれも甲乙つけがたい逸品だろう。
どの宝石も、自分が一番高価よ! と訴えかけてくるようだ。
「うーん。パライバトルマリンかエメラルドで迷うなぁ……」
パライバトルマリンは女神が流した涙のように美しいティアドロップ型。
エメラルドは鉄板のカットで、たぶんルーペを使っても不純物が見受けられない……あちらであれば人工物を疑わないレベルの代物。
「ここは自分の趣味でパライバトルマリン!」
迷って店員に告げる。
店員は微笑を深くした。
「お見事でございます。パライバトルマリンは宝石の価値も高いのですが、こちらは女神の加護を受けている希少品なのです」
女神が流した涙と思い浮かべたのは、加護を感じ取ったのかな?
鑑定とかかけるのを忘れていたよ。
心の何処かで邪道な気もしたしね。
「では、どうぞ。こちら七点全てをお持ちくださいませ」
「……え?」
「加工をして、最愛様自ら身につけていただけたなら光栄でございます」
ケースごと手渡された。
宝石たちから、私はティアラに、自分はネックレスになどと自己主張されているような気がして、静かにアイテムボックスへしまい込んだ。
きっと夫が好きなように加工するだろう。
「素敵なものをたくさんありがとう。普段から商売をされているの?」
「ええ、時々ですが。本日ほど心躍るお取り引きは初めてでした。ありがとうございます」
深々と礼をされた。
どの辺に心躍るポイントがあったのかわからないが、クイズに正解するのは単純に嬉しいし、美しい宝石だって好ましい。
「こちらこそ、素敵なものをありがとうございました」
笑顔とともに返しておく。
「またの機会がございましたときにも、どうぞご贔屓に」
そんな機会があるのだろうかと内心で首を傾げながらも、返事は会釈にしておいた。
「あ、はいはい。次はこっちなのね!」
子蜘蛛に髪の毛を引かれて向きを変える。
よほど早く自分のお勧めする場所に連れて行きたかったらしい。
ブースは遠くなかった。
地図を見ていないが、隠しフロアのブロックからは出ていなそうだ。
「へい、らっしゃい! ってこれはこれは……最愛様。当店へおいでとはまさか想定しておらず……あ、こちらへ座っていただければいいと? お、テーブルの用意まで……恐縮です」
名状しがたき者。
海を司るかのようなディープブルーの物体から流れ出たのは、男性の声。
夫の制止が入らない以上性別はないのかもしれない。
名状しがたき者だし。
しかしその形状から想像しないような庶民派で、接客態度も普通だ。
さらには子蜘蛛が取り出した、私専用の椅子とテーブルに恐縮もしている。
本来感じるに違いない恐怖感は微塵もなかった。
所謂異界の神とは違い、ただ姿そのものが表現できないだけなのだろうか。
「こちらは……何屋さんなのかしら?」
「へい。型抜き屋ですな。型抜きの難易度にあわせて賞品が出るシステムとなっておりやす」
おぉ、懐かしい。
夫が珍しく連れて行ってくれた縁日で挑戦した経験がある。
ちなみに一番簡単な物に三回挑戦して全敗だった。
夫は一番難しい物を手早く仕上げて、店員が頭を抱えていたのを覚えている。
店を始めてから五十年で、初成功者だったらしい。
景品がないので、現金十万円で! と言われて、いろいろな意味で驚いた。
夫は笑いながら断って、初制覇者の栄誉だけでいいと言っていたけれど。
「え……こ、これでいいんですかい? いや、さすがにこれは……最愛様でも難しいのでは……や、お望みとあればお出ししますが……」
椅子に座ってあちらの型抜き屋の記憶に浸っていると、子蜘蛛が店員に何やら交渉をしていた。
「これは当店で一番難しい型抜きです。今までで成功した方はおられませんので、その……気楽にやってくだせぇ」
テーブルに型抜きセットが準備された。
薄い板に、やわらかいピンク色をした型。
型を抜くための長い針。
あちらではもっと短い針というか、ピンのような物を使った記憶があるが、こちらではまた違うのだろう。
子蜘蛛が渡してくれたお手拭きで手を拭いてから、型を見る。
名状しがたき者、を模したと思われる型だった。
玉葱型ではないスライムに似ている。
曲線が多いので難しいのかもしれない。
だが最難関なのは、模しているのが名状しがたき者だからに違いなかった。
そうでなければ普通は、ピンク色で十センチ程度の板から、尋常ではないプレッシャーを与えられることはないはずだ。
私は針を握り締めたまま、しばらく型をじっと見つめた。
熟練者は見ただけで、どこから針を刺したらいいか、またそのスピードすらわかると語られた覚えがあったからだ。
もっともその蘊蓄を垂れた男性は夫を一目見た途端、脱兎の如く逃げ出してしまったので、正確性にはかけるかもしれないが。
しかし見つめること数分。
プレッシャーがなくなった。
皆無というわけではないのだが、作業に集中できるかな? 程度に軽減したのだ。