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テラーノベルの小説コンテスト 第4回テノコン 2025年1月10日〜3月31日まで
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専務と二人で旅行か。


当日、どきどきしながら、のぞみは新幹線乗り場に行ったのだが。


新幹線に乗り込んで数分後には、もう暇を持てあましていた。


京平が、

「なにか飲むか?」


「いえ、まだいいです」

という会話のあとから、ずっと爆睡しているからだ。


……なんなんでしょうね、一体、と思いながら、ひとり窓の外など眺めてみるが、トンネルばかりで、なんにも見えない。


ずっと窓に映る自分の顔と京平の顔を見て過ごした。


あとは山。


ああ、目がよくなりそうだ……。



「専務~。

専務、起きてください。


もう着きます~」


山陽新幹線を三原で降りて、呉線に乗り換えるのだ。


さ、触っていいだろうかな、とビクビクしながら、のぞみは京平の肩を叩いた。


「専務、起きてください~」


だが、起きないので、焦る。


駅に着くという二回目の放送がかかり、何処の駅のでも同じに聞こえる英語の放送がかかり、新幹線のスピードが落ちてきたからだ。


「専務ーっ」

と声を抑えながらも耳許で叫ぶと、うわっ、と京平が起きてきた。


だが、のぞみの顔を見て、びくりとした京平は、


「……びっくりした。

お前と結婚したのかと思った」

と言い出す。


いや、何故ですか……。


「お前が起こすからだ」

と言いながら、まだ眠そうに、瞬きを繰り返していた。


京平は、ドアの上の電光掲示板に流れている駅名を見ながら、

「本当にもう着いたのか?

早いな」

と呟いていた。


いや、早くはなかったです。


貴方が爆睡していただけです、と思っていると、

「すまん。

夕べ眠れなかったんだ」

と言いながら、京平は立ち上がる。


持って帰って仕事でもしたのだろうかな、とのぞみは思った。



ひーっ。

身動きできませんーっ。


うっかり動いて、専務が肩からずり落ちたりしたらどうしようっ、と思ったのぞみは動けなくなる。


起こしても可哀想だし。


そのまま専務の頭が膝の上に落下してきたりしたら、きっとショック死してしまう。


私が――。


のぞみは膝の上で両手を固く握り、ぴくりとも動かないようにしていたが。


船なので、どうしても揺れる。


瀬戸内海なので、大きく揺れることはないのだが、その振動で京平の頭が落ちないよう、揺れたときは、それに合わせて、自分も動いてみたりしていた。


誰かーっ、助けてーっ!


こんなときに頼りになるのは誰だろう、と思い浮かべてみたが。


何故か、なんにも考えてない遼一郎しか思い浮かばなかった。


そんな血も凍るような時間を過ごし、十分以上過ぎた頃、大久野島がいよいよ近づいてきた。


「せ、せんむ~。


専務~。

そろそろ着きます~」


専務~、と呼びかけると、ようやく京平が目を覚ます。


「すまん。

また寝てたか」


……はい、と言うと、京平は迷ったあとで、白状してきた。


「すまん。

実は、お前と旅に出ると決まってから、嬉しくて。


夜中に目が覚めては、ネットでうさぎ島周辺の観光地を調べたりして、眠れなかったんだ」


いやそんな……。


私は、毎晩、爆睡してました、すみません、とのぞみの方が申し訳なくなる。


のぞみは、毎晩、うさぎに囲まれて、もふもふする夢を見ながら、幸せに眠っていたのだ。


「あ、でも……」

と下船の準備をしながら、のぞみは言った。


「夕べは、海辺でギョウザに追いかけられてましたけどね」


「何故、ギョウザ……」

という京平とともに、船を降りた。




船を降りたのぞみは、桟橋にある赤い鉄の建造物を見上げる。


船のなにかなのかなとは思うのだが、うさぎの耳をつけた真っ赤な鳥居のようにも見える。


すると、その下の方でうごめくものを見つけた。


「専務っ。

うさぎがすぐそこにっ。


もこもこしながらやって来ますっ」


いや、別に、うさぎは、もこもこしながらやってきているわけではないのだろうが、のぞみの目には、そう見えた。


近づいてきた黒いつぶらな瞳の茶色いうさぎは、なにを思ったか、のぞみたちの前で、いきなり、ぺたっ、とその場に伏せる。


ひーっ。


「悩殺されてますっ!」

と叫ぶと、そうかそうか、と後ろで京平が言う。


この大久野島のうさぎが何処から来たのか、諸説あるようだが。


昭和四十年頃に、何処かの小学校で飼い切れなくなったうさぎを放したのがきっかけ、という説が広く知られているようだ。


まあ、それはともかく、可愛い。


「でも、抱っこ禁止なんですよね~。

こんな可愛いのに触っちゃいけないとか、拷問ですよね~」

としゃがんだのぞみがうさぎを見ながら、笑って言うと、


「まるでお前だな」

と後ろから、ぼそりと京平が言ってくる。


「この箱入り娘、なにからなにまで親の許可がいるもんな。


親の許可も本人の許可もとれないし。

許してくれるのは、何故か、従兄の遼一郎さんだけ。


遼一郎さんを連れてくればよかった。


あの人なら、お前を襲っていいかと訊いたら、いいよいいよ、と笑って言ってくれそうだ」


いや、何故、遼ちゃんに、私を襲っていいかどうかの決定権があると思ってるんですか、と思ったとき、京平が側にしゃがんだ。


だが、その瞬間、うさぎが、ひょっと逃げてしまう。


「……不愉快なうさぎだな」


「いや、エサやらないから、逃げただけですよ。

でも、此処はエサやり禁止なんですね~」

とのぞみは桟橋と道路の辺りを見回した。


「そうだ。

エサ、私、ニンジンスティックを持ってきましたよ」

とのぞみが笑うと、


「お母さんが切ってくれたのか」

と京平が言う。


「いや、ニンジン切るくらい、私にも出来ますからね……」



わたしと専務のナイショの話

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